第26話 お買い物 3 デリカシーは地球に置いてきた
「あれは要らないの?」
「……要ると思う?」
1人頭を抱えていた私にルナから声がかかる。
あれってなんぞや……って見てみれば、ブラじゃないか。
あんなん要るわけないだろ、これ以上無い程にツルペタだぞ私は。
「もしかしたら必要なのかなって」
「必要なわけあるか、もっと成長してからだよ!」
「ふふふっ冗談だよ。必要になったらいいね」
「いつかなるよ。エルフは華奢だし、大きい人は少ないらしいけどね」
そういえば10歳って膨らみだす頃じゃないのか?
あれ、私大丈夫かな……大きくなるよね?
いやだからさっきから私は何を考えてるんだ。
そりゃあぺったんこよりは有った方が良いと思うけど、なんで不安に思ってるんだ……
「こういうのってどう受け取ってるわけ? シアの中身的に」
「こういうのって? 女であることはとっくに受け入れてるつもりだけど……」
今それを考えてたんだよ。
ていうか急に随分と踏み込んだ事聞いてくるね。精霊らしく好奇心でも擽られたか?
「でも服とか下着は気になるんだ?」
「そりゃ……わざわざ男物は選ばないけどさ。だからって好んでるわけでもないし……複雑なの!」
「複雑ねぇ……受け入れてるのに気にしちゃうなんて大変だね」
受け入れてはいるし、やっぱり最低限は見た目に合わせたい。
だってその方が、全く違う新しい人生を楽しんでる感じがあって良いなって思うんだよね。
それでもやっぱり、特別可愛らしい服や下着ってのはどうにも変な感じがするんだ。
絶対に嫌とも思わないし、積極的にってのも無い。
「上手く言えないけどね。女として将来どうなるかは悩むかな……男と恋愛なんて無理だし」
男と恋愛は無い。
あんなことやこんなことを私が、男と――絶対無理だ。
そういった人に失礼かもしれないけども私には無理だ。
「じゃあ女の子と? そういう人も居るって聞いたことあるよ」
この世界も同性でってのはある。むしろ前世より多いかもしれない。
だって子供の私が、そうだと知れるくらいには一般的に扱われてるんだもん。
見た目すら全然違う種族が多く居るからかな?
「女の人にドキドキすることはあるけど、恋愛的な感じでもないかな……性欲?」
女性への感情をあえて言うなら性欲が近いと思うんだよね。
男が無理ならそういう対象は女じゃん?
ただまぁ、これもなんだか自分でもよく分からない。
だってさ……股間の象徴が無くなってんだもん。
体が成長したら何か変わるんだろうか?
「ぅわ……聞かなきゃよかったかも」
引かないで。そんな生々しいものじゃないから。
「いやそんなあからさまなものじゃなくてさ。体が子供だからかは分からないけど、ふわっとした感じ……これも複雑」
「ふーん……複雑なことばっかりだね」
結局何一つ上手く言葉に出来ない微妙な感覚なのよ。
「ほんとにね。ルナこそどうなの? 精霊って男女がどうとか性欲とかあるの?」
そして疑問。精霊ってその辺どうなんだ?
私はルナしか精霊を知らないけど……女の子の姿をしてるってことは男女があるってことだよね。
「女の子にそんなこと聞く!?」
「あだぁっ!?」
言ったら殴られた。
流石に性欲云々まで聞いたのはダメだったか……
「えぅ……だって気になったから……」
「あーもうっ……! 精霊は自然から生まれるから、男女でどうのこうのなんてないよ。あくまで人の姿を模してるだけだし」
「模してるだけなの? 不思議だね……」
人を模して生まれる理由ってなんだろうか……不思議なもんだ。
この世界自体が不思議に満ちてるけども。
「超高密度なマナの塊みたいなもんだからね。――とにかく、模してるって言ってもちゃんと女の子なんだから、変なこと聞かないでよね!」
とりあえずルナはちゃんと女の子、と。
そういえばルナの服の下は見た事が無い。
あ、いや……変な意味じゃなくて、好奇心。そう好奇心なんだけど……体はどうなっているんだ?
人を模してるって事なら身体構造も人なのか?
胸もちょっと膨らんでるしな……必要無い筈なのに。
ていうか食事してるじゃないか。なら取り込んだ分出すこともある……よね?
いや流石にそれを聞くのはマズイ気がする……でも気になる……!
「ねぇルナ。変なこと聞くけどさ……」
「変なこと聞くなって言った直後になんで聞き直すのさっ!?」
そういえば言われたな。考え事してたらすっぽ抜けてた。
まぁいい、勢いで聞いてしまえ。
「人を模してるって、体はどうなってるの? おしっことかするの?」
「っ……! ほんっとに変なこと聞くな!!」
「お゛ふ゛っ……」
顔を思いっきり殴られた。正面から。
痛った……あ、鼻血出てる。
ルナは顔が真っ赤だけど、私も別の意味で真っ赤になってるんですけど……
「ふーっ、……ふーっ! お、女の子になんてことを聞くんだ……全くっ!」
「いやだって、気になったから……ルナだって好奇心で色々するじゃん……」
仕方ないじゃないか、気になっちゃったんだから。
ルナだって好奇心で色々やるでしょーが。
「………………する」
「……えっ?」
凄いちっちゃい声だったけど、更に顔を真っ赤にして答えてくれた。
反応も答えてくれるのも珍しいから思わず声が出た。
「するって言ってんのっ!」
「あ、大丈夫……聞こえてる。そっか……」
聞こえなかったわけじゃないよ。驚いただけ。
「ふんっ!」
「ぶへぇっ!?」
痛いっ!?
今度は横から思いっきり殴られた。
さっきから地味に強化使ってくるから普通に痛い。ていうか超痛い。
「ほんとっ……こいつぅ……っ……!」
「なんで……?」
さっきからなんで殴るの……ここお店なんだけど。
たまたま今この辺りは人の目が無くて良かった。
いやしかし……という事はマナの塊とはいえ、ちゃんと生物なんだ。
なんかこう、概念的な存在じゃなくて生きてる人なんだ。
経緯はどうあれ、それを再確認出来てちょっとだけ今までより身近に感じた。
こんなくだらないお下品な話でも意味はあるんだ、うん。
「……っ……お前覚えてろよ……」
なんか怖い事を言ってる……こういう時は本心を曝け出すのが効くんだ。
ルナは割とツンデレさんだからな。こっちがデレてやれば釣られてデレるんだ。
「いや、でもさ……不思議ではあるけどちゃんと人と同じ生き物だって事でしょ。人として種が違うだけで――私はそれが嬉しいよ」
「そっ……そんなこと言われても、許してやんないから!」
「こんなことでなんだけど……今までよりルナが身近に感じるもん。友達の事をまた1つ知れたんだよ」
「くっ……ぅ…………もうっ!」
……ほら。
殴られたとこを治してくれる。優しく触れて温かい治癒の光がぽわぽわ。
「とにかくっ! 精霊は男女居るし、私は女の子なの!」
「ふーん……で、話戻すけど、そんな精霊に――」
「無い! 性欲なんて無い! そういう精霊も居るけど、あたしは無い! なんで話を戻すんだ!?」
違う、性欲云々なんて聞こうとしてない!
聞きたかったのはなんで男女の意識があるのかってとこだよ。
ていうかそんなに反応したら自分で答え言ってるようなもんじゃないかな……
触れないでおいてあげるけど。
「わ、分かった分かったよ……そんな精霊になんで男女の意識があるんだろ」
「はぁ……生まれた時の姿に合わせて育っていくけど、理由なんて知らない。精霊同士で子を残す訳でもないし、誰も分からないんじゃない?」
「本当に不思議だなぁ……」
不思議な生き物――不思議だけど生き物。
どうしてなのかは誰も分からないけど、人を模して生まれる。
人を模しているから男女があって、心があって、感情がある。
ほんとに不思議だらけの世界だ。
「違う世界から記憶持って生まれ変わった奴に言われてもなぁ……」
「それはたしかに」
そういえば私こそ何より不思議な存在だった。
傍観者じゃなくて当事者だった。
つい笑ってしまって、ルナもつられて笑う。
不思議だけど楽しいからなんでもいいか。




