第23話 温もり 6 何も無くても、ここに居たい
学校は自分でも考えてたし、結局そういう意見になるか。
でも確か卒業まで5年だったよね。急ぐ必要は無いと思ったけど、5年は長いかも……?
具体的な金額は分からないけど、お金だって馬鹿に出来ない筈だ。
ていうか旅に出るってこの人達は許可してくれなさそう……
「学校は……お金かかるし、5年もなんて……その……」
やんわり拒否するってのはどうしたらいいやら。
学校そのものは悪くないと思うけど……無視できない事も生まれてしまう。
「そ、それくらいの金はどうにでもなる、そんな事を気にするんじゃない……!」
「そうそう! それに私の妹も学校通ってるからさ! 一緒に生活して一緒に学校行ってさ……良いと思うんだけど」
「今年で卒業だが息子も通ってるしな。とりあえず通っていれば友達も出来るだろうし、色々学ぶのは大事だし……」
団長とリリーナがなんか必死に学校に行かせようとしてる。そりゃあ、どう考えてもそれが妥当な道だって分かるよ。
単純に長期間通うことで旅が遠退く――ルナを待たせてしまう事は仕方ない。どうせ実力も準備も無いんだし。楽しければルナ的には問題無いだろう。
でも……ただでさえ騙して保護してもらったのに、余計なお金をかけさせてしまうのは申し訳ない。
かといって好意を無下にするのも申し訳ないし……あぁもう、どうすれば……
「うぅ……でもっ……」
「まぁまぁ、強制は違うって言っただろう。なぁ、俺達としては……所謂普通の生活ってのをさせてやることしか出来ないだろうし、それが良いと思ってる」
尚も悩む私を見てか、慌ててる2人を見てか、フェリクスさんが語る。
「ここでゆっくり休んで暮らしていく中で、何か見つかるかもしれないし。学校も無理に言われた通りにしなくていい」
そのまま続けていく。
答えが出せないなら保留することもまた一つの答えなのかもしれない。それでいいんだろうか。
「すぐ決める必要はねぇんだ。やりようはいくらでもあるし、ゴチャゴチャ考えねぇでいくらでも甘えりゃいい。ともかく俺達は……君には幸せになってもらいたいんだ」
落ち着いたのか今度は団長が引き継いで締める。
甘える、幸せになってほしい。
そっか……すぐ決めなくていいって、自分でも思ってたのに。
混乱してたのかもしれない。凄く、ハッとした。一体私は何を考えていた?
ルナと旅に出たい。でもまだ無理で、そして嘘の罪悪感と助けてもらった恩に報いたい……なんて。
分かってる。この人達が本気で私を想ってくれてるって。
たった1日。殆ど寝てたのに、会話も全然してないのに。
申し訳なさを感じるより前に、まず感謝して今を受け入れなきゃいけなかった。
保護された子供らしく……甘えて幸せを感じる事が、皆が望んでる事なんだ。
心が大人だから?
目的があるから?
だから自分は違うんだ、あなた達が思っているような子供じゃないんだ、なんて……上から見下ろして分かった気になっていたんだ。
保護してもらった事に感謝はしても『旅に出られるようになるまで拘束される』と心の何処かで考えてしまっていたんだ。
何様だったんだろうか、私は……情けなくて涙が出てくる。
「ねぇ……手段と目的を間違えないで。いつか……そのうちでいいんだ」
見かねたのかルナまで私の顔の前まで飛んできて、ちっちゃい手で頬を挟んで言う。
「言ったはずだよ? あたしはさ、シアと居るだけで楽しいよ」
私もルナと居るだけで楽しい。
そうだった……旅は手段なんだ。そんな事まで分からなくなっていたんだ……
私の目的は楽しむ事――幸せになる事だったじゃないか。
ゆっくりでいいから、いつか旅に出て沢山の経験をする。それくらい緩く考えて良かったんだ。
ルナはとっくに分かってたんだ。なんで私は、こんな……っ
「っ――ごめんっ……ごめんなさいっ……私、分かんなくなっちゃって……どうしたらいいのか、どうしたいのか、ゆっくり考えてみるからっ……」
思わず目の前のルナを抱きしめる。ごめんね、私は馬鹿だね……
情けなくて恥ずかしくて、とっくに伝えてくれていたルナに顔を埋めて喋る。
でも私が伝えるべき相手はルナだけじゃない。前を向くんだ。
「だから…………甘えて……いいですか……?」
私を助けてくれた人達に。
たった1日、大した関わりなんてないはずなのに……心配して、気に掛けて、幸せを祈ってくれる……とても優しくて温かい人達に。
「っ……! 当たり前だよ……!」
「なにも遠慮なんかしなくていいの」
「わざわざ聞くもんじゃねぇよ」
「謝ることでもないな」
「ここに至ってダメとは言わんだろう」
「複雑に考えないで、思うままでいいんだよ」
セシリアも、リリーナも、団長さんも、フェリクスさんも、ボロボロのダリルさんも、セシルさんも。
皆笑顔で、当然だって。受け入れてなかったのは私だけで。
目的までの通過点なんかじゃない。今居るここが、目的の1つだったんだ。
「ごめん、なさいっ…………ありがとうっ……ありがとう……ございます……!」
本当に、私は馬鹿だ。
何をするとか、何が出来るとか。嘘とか、罪悪感とか。
手段も目的もめちゃくちゃで。何も分かってないのに分かったつもりで。
温かく迎えてくれる新しい居場所を見逃すなんて。
余計な事を考えないで、助けてもらった事に感謝する。
受け入れて、甘んじて、それで良かったんだ。
いつかは旅に出たい。それは確かな望みだけど。
きっと理解していなかっただけで、この居場所だって望んでたんだ。
ルナは気付いてた。私が自分で気付けなかった――見ないフリをしていた願いに。
本当に、私は馬鹿だったね。
もう誤魔化さない。見ないフリはしない。この温かい人達と、幸せに暮らしたい。
そしていつか、旅に出る。その時も、その時までも。
色んな事を見て聞いて経験して。いっぱい笑っていっぱい楽しむ。
傍に居てくれる、理解してくれる親友と一緒に。
そしていつか、旅に出る、その時も。皆と一緒だったらいいな。
……なんて。
思いながらずっとルナを抱いていたら怒られた。
「いつまで抱いてるのさ、暑苦しいよ! べちゃべちゃじゃないかぁっ!」
真っ赤な顔で怒る、照れてるだけって分かってる、そんなルナと顔を見合わせて。
「えへへ……ごめんね……」
「へへっ……ほんと馬鹿だよね、シアは」
笑ってる私達と。微笑ましく見守ってる皆が。
それが、嬉しくて。
本当に……良い人達と出会えて良かった。




