第19話 温もり 2 まずは挨拶
リビングらしき場所に出ると昨日の少女2人が居た。
「あっ、シアちゃん起きたんだね!」
「思ったより元気そうで良かった……!」
こっちを見るや笑顔で声をかけてくる。なんとなく嬉しい……?
胸がきゅっとした。
純粋に私を心配してくれていただろうから?
久々の人との関わりで?
んー……?
分からないから考えない。
ところで結局今はどういう状況で、これからどうするんだろう。
「えっと……おはよう、ございます……?」
「うん、おはよう!」
「おはよ。体は大丈夫?」
とりあえずおはよう。挨拶大事。
改めて体調を気遣ってくるが、もう何の問題も無い。というか疲れて寝てただけだし、ルナが癒してくれた。
「ん。全然元気、大丈夫だよ」
「良かった、色々と説明しなきゃいけない事とかあるんだけど……」
「その前にっ! ご飯食べる? 昨日からずっと寝てるからお腹空いてるんじゃないかな?」
多分セシリア……だと思うけど、ご飯を提案。確かにお腹空いてる。
しかも久し振りのちゃんとしたご飯だ。山じゃ果物とか山菜とかばかりだったからね。あと魚とか。
時々鳥や獣を狩る事もあったけど、そもそも狩ってどうしたらいいのか具体的な知識が無くて分からなかったんだ。
分からないのに解体したもんだから……奪った命には本当に申し訳無いが、なかなか強烈且つ凄惨な初体験だった。
「ご飯……! んと、名前……」
だからどうしても狩りは控えめになっていたから、普通のご飯はすぐにでも食べたい。
でもその前にいい加減自己紹介としよう。
「あっ、教えてなかったよね。私はセシリア!」
「私はリリーナ。ここは私の家ね。姉と妹が居るけど、今は出てるから後で紹介するわ」
セシリアは腰まで届く長い金髪で綺麗な青い目……そっか、お母さんの目と似てるんだ。結構賑やかな子だ。そこは似てない。
リリーナは青みがかった薄いグレーの、セシリアよりは少し短い程度の髪で、薄紫色の目。彼女は雰囲気がお母さんに似てる……かも。エルフだし。
どっちもまだ16歳くらいに見えるけど、私は無意識に2人をお母さんに重ねてたのかもしれない。だからあんな――
深い思考に落ちる前に切り上げる。
姉と妹が居るのにいきなり人が増えて大丈夫なんだろうか。大丈夫だから受け入れてくれたんだろうけど。
紹介されるときにお礼を言おう。
「ん……私はエリンシア、です。もうシアでいいです。えっと……服、ありがとう」
既にシアと呼ばれているしそのままでいい。ついでに服のお礼も言っておこう。お子様過ぎるパンツはちょっと勘弁してほしいけど……
「いいのいいの、とりあえず裸よりはと思って適当にサイズが合いそうなのを買っただけだから」
わざわざ買ってくれたのか……もしかしたら妹さんのを借りたのかと思って申し訳なかったけど、そこは良かった。
「シアはパンツが子供過ぎて恥ずかしいんだってさ。見た目相応なのになー?」
「ルナ、わざわざ言わないでっ」
なんで口挟んだ。
確かに恥ずかしいけどわざわざ言うな。親切でしてくれてるんだから失礼でしょ。
「ありゃ……ダメだったか、ごめんねー。これくらいの女の子だったら大体はそんなもんなんだけど……シアちゃんは大人だね」
「どうせ買い物も行って色々買うんだし、その時にシアの好みで買いましょ」
ほら気を使わせてしまったじゃないか。
ていうか好みで買えって、それはそれでキツイんだってば。
一応私は中身大人の男なんですよ。まぁ受け入れてるからお子様過ぎなければいいんだ。
そもそも見た目でだいぶ子供扱いされてるみたいだね。
確かに成長遅かったし、野生生活で結局まともに育ってないからなぁ。
具体的に今日が何月の何日か分からないけど、もう夏が終わったって感じだし……
「私、多分そろそろ10歳になるよ? 今がいつなのか分からないけど……7月25日が誕生日だから」
「えっ……じゃあもうすぐだね、今日が16日だから。でも、そっか……ごめん、それじゃ確かに子供っぽすぎたかな」
「嘘……妹と同じ歳なのに……」
あれ……なんかすごいショックを受けてるぞ。何故。
見た目ほど幼くはないって言っただけなのに。
「うぅ……きっと……ずっと遭難してて栄養とかも……」
「確かに痩せてるし……想像しなかったわけじゃないけど、そんなに……」
あ、これ勘違いされてる……凄い気の毒そうな顔してる。
確かに山ではあまりまともな食事は取れなかったから痩せて育たなかったけど。これは元々体が弱くて成長が遅かったのも大きいし……
というか昨日の説明の通りに生き延びた悲劇の子供にしては、だいぶ健康的な体の筈だ。気付かないもんなんだなぁ……まぁいいか。
「シアは体が弱くて、元々成長が遅かったみたいなんだ。なのにギリギリで生きてきたから……」
なんでそこで援護するの?
もう演技も嘘も要らないと思うけど……多分。少なくとも積極的に憐憫の情を煽る必要は無いはず。
「ううぅっ……もう大丈夫だからねっ! ご飯一杯食べれるからね!」
「もう殆どご飯用意出来てるから! 好きなだけ食べていいからっ……!」
あーあ……どうすんのこれ?
二人とも泣いちゃいそうだよ。人に色々言う割にルナもけっこうアレだよね。
「ルナ……」
呆れつつ小声で呼ぶと顔を逸らした。
「こうしたほうが面白いかと思って……」
にやけながら小声で返してくる。
どんな理由だ……やっぱ精霊って酷いな。気まぐれとか自分勝手とか、あまり良い言い方をされないだけある。
いやルナが特別酷いのかもしれない。でも私も同じようなもんか。




