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第177話 新たな出逢い 5 旅は道連れ

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2部の1話、つまり第156話にシアとルナの設定画のような物を追加しました。

第3話に置いてあるのと同じように、大体こんなキャラなんだというイメージになれれば幸いです。

 そこから暫しの時間が流れ、和気藹々と料理を食べ終えた。ジェラルドがサッと温めてくれたので、ちゃんと美味しく頂けたようだ。


「ふぅ……まぁ、ここらが潮時だろうな。私もそろそろ、錆び付いた誇りを置いて歩き出すべきか」


 そうして彼は大きな息を吐いてから口を開く。

 語っていく中で気付けた想い。完全とは言えないがスッキリと片付いた心で改めて考え、1つの答えを出した。

 恐れていた筈のこの変化は逃してはならないと、あえて宣言するように言葉にして自分へと聞かせる。


 こんな爺でも、今更でも、もう一度歩き出せるだろうか……いや、歩いて行くのだと。戦場から新たな道へ向かおうという勇気を出したのだ。


「私も旅でもしてみようかね。新しい人生と思い切って楽しんでみるのも良さそうだ」


 幸い実力はまだ辛うじて錆び付いていないし、目の前の少女のように旅に出るのも悪くない。

 後進を鍛える立場も良いが、やはり彼女のようにと思ってしまうのは何故だろうか。


「じゃあさ! 私達と一緒に行こうよ!」


 少女は仲間にしたそうにこちらを見ている。

 なんて冗談は置いておくとして、旅という選択肢を出せばそう言ってくれるかもとジェラルドは無意識に考えてしまっていた。

 つまり返事など決まっていた。


「そうだな……君の夢の先を見てみたい」


 歩き出す勇気は持てたが、この期に及んで引っ張ってくれたらなんて情けなくも甘えてしまったと気付いた。

 そんな恥ずかしさを隠して、彼は穏やかな表情でシアの誘いに乗った。

 さっき会ったばかりだと言うのに、どうして快諾出来るのか謎である。旅の仲間ともなれば一蓮托生の存在なのだが、なんとも思い切ったものだ。

 そういえばこの世界に一蓮托生なんていう仏教の言葉はあるのだろうか……考えるのは止めておこう。


「やった! ジェラルドさんならすっごく頼りになるし、いっぱい楽しもう!」


 随分と喜んでいるが、それ程に彼女のセンサーに引っ掛かる物があったらしい。

 誰もが信頼する程に強く偉大な人物というだけで、確かにかなりの優良物件ではあるけれど。


 というかシア以外は完全に置いてきぼりである。こんな重大な話なのに独断専行もいいところだ。

 皆は唐突な彼女の誘いと、それに乗るジェラルドに驚いて何も言えていない。


「とは言え、いきなりは無理だ。しばらく待ってもらわなきゃならないんだが……」


 いくらなんでも急に旅に出ますと言って、じゃあいってらっしゃいとはならない。特に彼の存在は大きいのだから尚更だろう。

 しかし英雄と言えど老いた者をいつまでも戦場に送る事に、誰も何も思わない筈が無いのも事実。彼が託さなかっただけで、後進はちゃんと居るのだ。

 なんだかんだ、彼の周囲は早めに纏めようと動いてくれそうだ。


「何日でも待つよ! ねっ!」


 さも当然のように答えてから、同意を求めて皆を見る。

 呑気に嬉しそうに笑っているが、先走り過ぎである。


「ねっ! じゃないよお馬鹿。勝手に決めちゃってもう……」


「そこまであっという間に話を進められたら、何も言えないわよ」


「こ、こんな凄い人と一緒に旅……別の意味で何も言えないよ……」


「僕としては嬉しい限りだ。素晴らしい経験になるに違いない。――あと、やっぱり男1人っていうのはね……」


 しかしやはり甘い皆は、呆れながらも受け入れた。まぁ心強いなんてものじゃない仲間が増える事自体は喜ばしい。

 名声による信頼ではなく、仲間としての信頼は旅の中で育めばいいだろう。その程度は人の良い一行と立派な彼となら問題無い筈だ。

 というかセシルは男が自分だけという事を随分と気にしていたらしい。無理も無いが。


 シアは全く気にしていないが、ジェラルドは勝手に話を進めた事を謝っている。

 彼も彼で、気が急いて勢いのまま話していたのだろう。

 事後承諾ではあるが、ともかくこれで仲間が1人増える事になった。


「君達もこの街でなにかしらやりたい事もあるだろう。多少待たせてしまうだろうが、幸い私は金ならある。いくらでも滞在しなさい」


 長く滞在するなら費用も嵩む。割と無視できない事だが、そこはジェラルドが用立ててくれるようだ。

 恐らくは相当に稼いで貯まっているだろうし、1人で生きてきた彼にとっては残しても仕方ない物と言える。


 そんな理由を語れば、代わりに払ってもらうなんて申し訳ないと言った皆も大人しく受け取る事にした。

 事実ここで多少使った所で全く困らないし、そもそも大量には持っていけない。多いに越したことはないが、邪魔にならない程度にしなければならないのだから。

 というかお金もそうだが、家等はどうするつもりなのだろうか。


 その辺りをどうにか片付けるのも含め、数週間とまではいかずとも時間は掛かるだろう。

 この先の目的地等、一行もじっくり考えて決める必要があるし、単純にこの広い街を楽しむには時間が必要だ。


 お互いに曖昧な予定なだけに、とりあえず簡単な話を済ませて食事は終わり。

 ジェラルドは諸々を片付ける為に別れ、皆は気の向くままウロウロと歩きだす。気まま故に途中で道に迷ったりもしたが、軽い観光である。

 宿に戻った頃には日も沈み、まったりしてから夕食を済ませ、簡単に数日の予定を立てる。お金の心配が無くなった事で、滞在中に稼ぐ必要も無いのだ。


 やけに観光に積極的なリリーナになんだか言いたげなセシリアとセシルだったが、結局何も言わずに就寝となった。

 やはり1部屋しか取っていないが、セシルの気苦労もこの街で終わりになる筈……と思いたい。



 そして朝……というか昼前。

 観光に出る予定の時間まで暇だったのか、シアはルナと並んで宿をウロウロしていた。

 人が多く集まる中央は宿の質も高め(その分料金も高めだが仕方ない)であり、好奇心旺盛な彼女達にとっては周りや宿泊客を眺めるだけでも楽しいらしい。


 当然そんな少女と精霊は注目の的だが、既に開き直って気にしていない。

 一通り周って満足したのか、部屋へ戻ろうと歩くシア達へと声が掛けられる。


「あ、お嬢ちゃん。君達宛てに手紙が届いてるから、お姉ちゃん達に持って行ってあげて」


「んぇ? あ、うん。ありがとう」


 宿の受付に居た女性だ。ちょうど部屋へ届ける為に向かっていたらしい。

 流石に目立つ彼女達の事はよく覚えていて、すぐそこの部屋だし渡してしまおうと呼び止めたのだろう。


 手紙と聞いて、早々にジェラルドからかと考えたシアは深く考えずに受け取り、歩きながら中身を見る。


「あれ、リアーネさんからだ。なんで宿が分かったんだろ……」


 しかし差出人はまさかのリアーネであった。昨日の食事の後で約束の手紙は出していたが、返事が来るとは思ってもみなかった。

 中央から2つ目の街であるランブレットとは、一般の手紙のやり取り程度は早い距離……なのだが、何故この宿に居る事が伝わっているのだろうか。


「なんて書いてあるの?」


 予想外の手紙故にルナも気になるのか、読み始めたシアの肩から覗き込んで訊ねる。


「ん……? んー……? あれぇ……?」


「どしたの?」


 しかしシアは困惑中。それもその筈、手紙の内容はリリーナに宛てた物であり……中央に居るなら両親に挨拶しろと少し厳しめな言葉が綴られていたのだ。

 保護された当初から勘違いしたままなシアは、両親が存命でありこの街に居ると知って驚きよりも困惑が勝った。


 あえて触れないようにしてきたから、知らなかった事は別にどうでもいい。ただ、到着しても一切そんな素振りを見せなかったリリーナへの疑問だ。

 家でも話題が出なかった辺り、なにやら事情があるのだと察してしまったのだ。


「まぁいいか。直接聞こうっと」


「いいのかな……複雑そうだけど……」


 悩んでも仕方ないので、素直に突撃する事にした。

 触れていい事なのかと珍しくルナの方が及び腰になっている。


「だって家族だもん」


 そう言ったシアは、大人びた笑顔だった。

 大切な家族故に、何か事情があるなら力になりたい。踏み込む事を恐れては変わらないのだと、勇気を出してみる。

 昨日聞いた話が早々に意味を成しているようだ。


 というわけで突撃である。


「リリーナぁー! 手紙ぃー! お父さんとお母さんが中央に居るってどういう事ぉー!?」


 ばーんと扉を開けて、大声で呼びながら走っていった。


「そこまで勢いよく行く……?」


 置いていかれたルナは呆れながらふよふよと部屋へ入る。

 そうして苦笑いに変わりながら、静かに扉を閉めた。

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