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第171話 湖 1 あ! 野生の精霊が飛び出してきた!

 リーンウェルを発った一行は、まず北東にフラフラと進み、早々に北西へと引き返した。

 東はアドラー山脈であり、ランブレット周辺とは違い麓の森がとにかく広大であるからだ。


 ファルエス大森林と呼ばれるそこは、近場のハンターでさえ数年毎の調査以外ではあまり踏み込まない深い深い森。

 一応簡単な道くらいは敷かれているものの、旅を始めたばかりの彼女達には危険過ぎる。


 馬と共に深い森を進むというだけでも難しいが、一番の問題はやはり戦闘だ。

 戦う事においてはその場の環境というのは重要である。

 山での生活に慣れたシアとルナだけなら、もしかしたらなんとかなるかもしれない。

 しかしその場その場でなんとなく適当にやっていたあの頃とは、何もかもが違うのだ。



 という訳で、遠目に森を眺めただけで改めて西へと向かったのだった。

 そして西は西で山があり、その麓にはアロイス湖という湖がある。

 またしても湖ではあるが、しかし景色としては中々に素晴らしい場所だ。


 平原の先、青々とした山を背景に広い湖が広がる。

 視界も開けており、やはり様々な動物も集まるようだ。

 ただし水棲生物を考えれば下手に近づく事が危ないのは同じ。

 しっかり警戒しながら水辺でゆっくりと休憩だ。


 先日の湖でもそうだったのだが、こういう時は水に適正のあるセシリアが居て助かる。

 彼女程の実力ならば、水へ魔力を流して感知が出来るからだ。

 ただし広範囲は無理だし、流れのある川だと難しい。なのでこういった時にしか使い道が無いとも言える。


 細かく把握出来なくとも、飛び出してくるような大きさの生物が居ない事が分かるだけでも充分である。

 まぁ岸に近い方は浅いので、どちらにしろ可能性は低いのだが……警戒するに越したことはない。



 目的地である中央まではもう、すぐ近くまで来ている。しかしあえて一行は急がずのんびり、野宿を挟んでから行く予定のようだ。

 そしてまったり休憩していた所、ルナがなにやら反応して辺りをウロウロ見回り始めた。


「どうしたの? 何か気になる物でもあった?」


 一体何を、とリリーナは彼女へ訊ねるが返事は無い。どうにも集中しているようだ。

 口元に指を当てて、静かに……という意思表示だけを見せた。

 そんな行動をしていれば、セシリアとセシルも何だ何だと反応する。


「んぁ……どうしたの?」


 そしてその空気を感じたのかシアまでも。

 ポカポカと気持ちのいい気分でウトウトしていたようだが、何か面白い物でもあるのかと目を覚ましたらしい。

 そういう事にだけはなんとも聡い奴である。


「こっちかな……おーい!」


 しかしルナはシアの声にさえ反応しない。そのあまりにも珍しい態度に皆は怪訝な表情に変わったが、すぐに彼女の大きな声で意識を切り替えた。


「大丈夫だから出てきなよー!」


 どうやら何かに呼び掛けているようだ。

 ルナがそんな事をするとなれば対象は想像出来るというもの。

 なので皆は察して静かに待った。


 と、数秒経ってからガサガサと茂みが揺れ、それは飛び出してきた。

 精霊だ。小さな男の子のような、これまた精霊らしく元気そうな印象の彼は皆の前にふわりと浮かぶ。

 しかしその表情はなんとも言えない、変な物を見るような困惑した表情だった。


 まさか同じ精霊が人と共に居るなんて思いもしなかった筈だ。

 この湖の周辺で気ままに暮らしていたらしい彼は、そんな謎の一行を陰から眺めていたようだ。


 好奇心に駆られて近くまで来ていたのは流石精霊だと言えるが、ルナが呼び掛けなければ恐らく姿を見せる事は無かっただろう。



「……おまえら、一体何なんだ? 色々おかしいだろ……」


 そんな困惑したままの表情で、一行を眺めて口を開いた。

 精霊が人と一緒に旅をしていて、その人達もどう見ても普通ではない。

 なんだか小さい子供に、まだ若い3人。時折見かける人達とは全く違う事に疑問しか無いようだ。


「やっぱり精霊! 珍しい……て思ったけど、そういえばルナもそうだった」


「ずっとルナと居ると、早々出逢えない存在だって忘れちゃうわね」


「もしかしたら今までも精霊に見られていたかもね」


 口々に反応した後、とりあえず揃って名乗り挨拶をする。


 皆としてはルナは身近過ぎて最早、珍しい精霊という認識からは外れている。だからか、改めて精霊という存在と出逢い新鮮な気持ちだった。

 シアもまた興味津々であり、ルナで慣れている所為か随分と気安く近づいている。


「あたしはルナ! あたしとシアは親友で、名付けて貰ったんだ!」


 ルナはそのシアの頭に勢いよく乗り、誇らしそうに名乗る。同じ精霊として、名付けて貰った事を自慢したいのかもしれない。


 ただし若干、シアの挨拶を邪魔をするような形だ。そしてそれはわざとだった。

 自分で呼び掛けておいて、いざ彼女が他の精霊と仲良くなろうとしている事が面白くないらしい。面倒な奴である。


「俺は名前なんて無いぞ。好きに呼べば……ていうか、別に何かしようってつもりでも無いんだけど」


 挨拶された以上無視も出来ず素直に反応してくれたようだが、彼としては何も考えずに出てきたので未だに困惑中だ。


「そっか、じゃあ君も名付けてあげよっか! んーと……」


「ダメ! なにしてんのバカ! シアのアホ!」


 彼もまたルナと同じで名前が無いと知ってシアは考え出す。

 名前を考えるセンスは無いし名付ける必要も薄いが、せっかく出逢ったのなら……とでも思ったのだろう。

 しかしそれだけは阻止しようとルナが怒った。


 彼女に名付けて貰うのは自分だけの特別な事なのだ、とずっと想ってきたからだろう。

 同じ精霊とはいえ、ただ偶然出逢っただけの彼に名前を与えるのは我慢ならないらしい。本当に面倒な奴だが、可愛らしいと言えなくもない……かもしれない。


「えぇ……なんで怒られたの、私……」


 唐突に怒られたシアは、意味も分からずしょんぼりしている。

 ただし他の皆には気付かれているので、きっと後で理由を教えて貰って揶揄いながら喜ぶだろう。


「いや、別に名前はどうでもいいけど……変な奴らだな、ホントに」


 そんな仲の良い2人を見て、彼は思わず笑ってしまった。

 細かい事は分からないが、楽しそうだという事だけは分かったのだろう。


 なんにせよ思いがけない出逢いだ。

 何かあるかな、なんていう期待は割とすぐに叶うものらしい。

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