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第170話 想い出と一緒に走っていこう

「思ったよりも良い報酬だったよ。シアちゃんのお陰でね」


 朝。食事を終えてまったりしている間にセシルが昨日の報酬を受け取ってきた。

 どうやらなかなか稼ぎになったらしい。幸先の良い事だ。


「私の? なんで?」


 自分のお陰なんて言われても、よく分かっていない本人。

 確かに活躍はしたという自負はあるが、それで報酬が良くなるとは思えないようだ。


「あんなに小さな子供が……なんて、随分感激してたよ。子供にお小遣いをあげるような感覚なんじゃないかな」


 セシルが笑いながら理由を説明してくれた。

 子供が頑張っているのなら、気の良い人ならそういう事もあるかもしれない。

 忘れそうになるが、シアのような子供が戦うどころか旅に出るなんてまずあり得ない話なのだ。

 そのシアは理由を聞いて、やはり満更でもない喜びを見せた。


「ここでもお手柄。いいねぇ、これからも頑張るんだよ?」


 一体何目線なのか、ルナが肩に乗って何処か揶揄うように言う。

 未だにお金の事はよく分かっていない……というかあまり分かろうとしない彼女だが、これが嬉しい事だとは分かっている。


「この見た目は意外と使い道がありそうだね。必要そうなら演技とかもしようかな」


 喜んでいたのも束の間、ニヤリと笑ってそんな事を言い出した。確かに場合によっては効果はあるだろう。


 それにしても、もうすっかり本性を隠そうともしていないようだ。

 そんな性格も見た目の所為で可愛らしく見えてしまって許される……のかもしれない。


「強かだなぁ……別に良いけど、やり過ぎないようにね」


「大丈夫でしょ。やり過ぎたと思ったらしょんぼりしながらどうにかするし」


 姉達も完全にそういう子として受け入れている。むしろ心の内までしっかり見透かされているくらいだ。


 ずる賢い事をしようと、なんだかんだで悪になり切れないのがシアという少女。

 悪とまで言っていいのかは置いておいて、なんにせよ最終的には丸く収めようとするのもまた本性である。

 嘘は得意だが、その嘘をつき通せない性格なのだ。


「んぐ……まぁ、程々にする……」


 全て完璧に見抜かれている事が恥ずかしくて、シアは顔を赤くして口を閉じた。

 まぁなんにせよ、演技だなんだというのもきっといつか役に立つ時が来るだろう。



「じゃあ、そろそろ行こうか?」


 ひとまずは今日も街に繰り出して楽しむとしよう。セシルはそう言ってドアを開けて待つ。

 明日出発なので、今日1日使ってたっぷりじっくり楽しむ予定である。


 結果的には良い事だらけで終わったけれど、昨日は予定も考えずに衝動で動いてしまった。つまり街への滞在が1日伸びたのだ。

 思ったよりも稼げたとは言え、1泊分余計に宿泊費も嵩んでしまう。

 お金はだいぶ多めに持ってきたが、控える癖を付けないと後が大変なのは考えるまでもない。


 あまり深く考えないシア。感覚が分からないルナ。元より一家揃って金遣いがあまりよろしくないセシリアとセシル。

 正直お金に関してはリリーナの胃が心配である。



 という訳で、思う存分街を散策して楽しむ。

 当然だがシアの体力を考慮してちょくちょく休憩を挟むが、その休憩もまた趣があって良いものだ。


 専門ではない故に豊作なのかは分からないが、瑞々しい沢山の作物。

 のんびり暮らす動物達。場所によっては触れ合う事も可能で、それもまた新鮮な気持ちにさせてくれる。

 こうして育つ家畜から受け取る恵みを考えれば、一際有難みを実感するというもの。

 流石は街そのものが農場と言ったところか。そこら中で美味しい物をつまめる屋台もある。

 あれもこれもと味わう為に、1つ1つを少なくしなければならないのが心底惜しい程だ。


 街を流れる川もまた気分を良くしてくれるのは不思議だ。川を含む立地の街は多く、ランブレットだってそうだった。

 なのに風景が変われば、全く違った感想を抱けるのだ。


 歩き回って疲れた脚を休めるように、川岸に座り靴を脱いでいたシア。足先を水に着けてぶらぶらばしゃばしゃ。

 しかしふと何を思ったのか、まだまだ冷たいだろう川にちゃぷちゃぷと入り出した。

 深い所には行かないように気を付けながらはしゃいでいる。


 柔らかな日差しの下、弾ける水と一緒にキラキラと輝く笑顔が眩しい。

 休憩のつもりだっただろうに、一瞬で遊びに変わってしまったのが彼女らしい。

 勿論ルナも共に遊んでいる。それを眺める姉達も、ただそれだけで何処か癒されるような気分になってしまう。


 幼い少女と精霊がそんな事をしていれば、通りがかった者はなんだなんだと視線を向ける。

 大人は微笑ましく見守り、子供は何故だか混ざってくる。本当にまだ川に入るような季節ではない筈なのに、子供は元気なものである。



 そうしてとにかく賑やかに、ゆっくり、噛み締めるように。知らなかった街を心に刻み込むように。

 この楽しく幸せな記憶を忘れないように。旅の想い出としていつか振り返る事が出来るように。


 ただひたすらに、思うままに。日が暮れるまで散々楽しんだ。

 名残惜しくも感じるが、明日は出発だ。食事を終えたら早めに寝て、しっかり万全の状態で目覚めなければならない。

 満足そうにベッドに入ったシア達は、きっと良い夢を見る事だろう。



 ちなみに一応説明しておくが……

 自然の川は危険な生物が居る可能性があり、かなり浅く綺麗でもなければ入るべきではない。

 しかし街を通る川は割と安全だ。外壁に合わせてしっかり侵入を拒めるようになっている。

 なので川は街の子供達にとっては良い遊び場である。夏でもないのに入るお馬鹿は早々居ないけれど……誰かさん達に釣られてお馬鹿になってしまったのかもしれない。


 そのお馬鹿筆頭なシアも、流石にここで風邪を引く程の馬鹿では無かったようだ。

 朝。しっかりばっちり目を覚まし、皆で荷物を纏める。

 食事を終えて門を目指す。最後に目に焼き付けようとでも思うのか、揃ってその歩みはゆっくりだ。


 いざ街を出る時、ハンターの数人が見送ってくれた。

 どうやらあの夜に追加で警備に入った者で、彼女達の活躍もしっかり見て覚えていたのだろう。

 偶然出会えただけだが、予想外の見送りを嬉しく感じながら出発した。


 街を出て進んでいく彼女達は笑顔だ。


「次は何があるかなっ?」


「さぁ? 分かんないからこそ楽しいよ」


 期待を胸に、弾む心と同じように馬に揺られながらシアが言う。

 彼女の肩に乗るルナは笑いながら返した。まさに旅とはそういう物なのだろう。


 ちなみにシア争奪戦の今日の勝者はリリーナらしい。


「中央に着くまでに、何かあったら良いね」


 そんなリリーナは後ろを振り返らずに、希望を語る。

 ただ中央を目指すだけならすぐだ。しかし当然と言っていいのか、やはり西へ東へウロウロしながら進んでいく。

 丘があるくらいの、ただの平原。それでも何かあったらいいなと、楽しみは尽きない。


「楽しみなのはいいけど、気は抜き過ぎないようにね」


 セシルは振り返ってしっかり忠告。

 何があるか分からない楽しみはあるけれど、いつ敵に襲われるかも分からない。

 それでも、彼もまた楽しんでいるのは間違いない。


「まぁ、何事も適度にね。兄さん、あっちの丘まで行ってみよう!」


 同意しながらセシリアは指を差す。特に何がある訳でもないが、丘の上から見れば何か見つかるかもしれない。

 その言葉の通りに進路を変え、揃って走る。


 何もかも分からない。それは怖いけれど、楽しいのだ。

 旅は始まったばかり、まだまだ続く。まだまだ走る。

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