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第17話 出逢い 4 保護猫エリンシア

「しかしフィーニスまで送り届けるのはかなり難しいぞ。それに当時の避難民がどうしたのかも詳しくない。我々で保護するか……?」


 フェリクスは既にこの後の事を考え始め、このまま保護した方が良いかと提案する。

 フィーニスの街に行くには隣街のミスラに戻り、山を越える唯一の長い道を進んで国境を越えなければならない。

 その先で更に保護してくれる人を探して……なんて、正直時間が掛かり過ぎてしまう。


「ね、シアちゃんさえ良ければ、私たちと一緒に来ない?」


「あ、じゃあ私が引き取るよ! ウチは同じエルフの3姉妹で馴染みやすいかもだし」


 セシリアは相変わらず抱きしめているし、既に今後も可愛がる気満々だ。

 そして内心この場の誰よりもシアを気にかけていたリリーナが声を上げた。今年10歳になる妹がいるからか、同じエルフだからか。

 しかし思い切りの良さが凄い。いくらなんでもそんなに簡単に受け入れてしまっていいのだろうか。


「……確かに、引き取るならリリーナのとこが適任か」


 それを聞いたセシルも口を開いた。

 普通に考えれば我が家なのだが、受け入れられる環境とは正直言えない。


 団長は息子と2人暮らしで金もあるし、なんだかんだ少女の世話も出来そうだが、そもそも仕事で居ない。

 それに年頃の息子と2人にさせるのもどうなのか。


 ダリルは同じエルフだが、独り身の男に少女の世話を任せるのは無い。

 というかまず、そんな事が出来るとは全く思えない。

 しかもやはり同じく仕事で居ない。


 となるとリリーナしかいない。

 エルフの3姉妹なら大丈夫そうだ。彼女も仕事で居なくなるが、姉と妹が居る。

 しっかりとした姉と、歳の近そうな妹が居てくれるのは悪くない。


「何を考えたかは聞かないが、とりあえずはそうなりそうだな。リリーナの家族次第だが……彼女らは普通に受け入れるだろう」


 ダリルが何か言いたそうな顔を向けつつ、それは飲み込んで賛成する。

 セシルが考えた事を想像出来たなら言う事など無いだろう。まさか自分に幼い少女の世話が出来ると思っているのか。


「とりあえず街へ向かうか。いつまでもここに居たって仕方ねぇ。人が通って何があったと聞かれても面倒だ」


 言いながら団長が運転再開。

 最早全員が受け入れて保護する気になっている。大丈夫か。荒唐無稽な話をする他国の子供なのだが……いや子供だからか。


 しかし彼らが受け入れるのも無理はない。

 それだけ本気で泣き叫ぶボロボロだった少女に憐憫の情を持ったし、見せられた障壁はとてつもない物だった。


 精霊が魔物を倒していたなら、襲われる事も少なかったかもしれない。きっとそうしているうちに出会ったのだろう。

 そんなこんなで納得してしまう程には説得力があった……らしい。


 事実と嘘を交え、偶然も利用してそれっぽく語る少女達は生粋の詐欺師かもしれない。

 こっそり顔を見合わせてにやりと笑っている。なんて奴らだ。


「えっと……私、助かるの? ご飯いっぱい食べれる? ベッドで寝れる?」


 もう保護されるのは決まったようなので、これ以上悲しいセリフは吐かなくていい。

 完全に分かっててやっている。


「うん、助かったんだよ……ご飯だってベッドだってお風呂だって。これから街に行って、私たちと暮らせるように手続き……ってどうやるんだろう?」


 思わずもう一度抱きしめながらリリーナが言うが、細かい事はどうしたらいいか分からないらしい。団長達の方を見る。


 抱かれたシアは疲れもあってもうおねむらしい。抱きしめられる温かさの所為もあるだろう。


「あー……じゃあその辺りは俺とお前の姉さんとでやっておこう。団長の俺が説明しに行くのが一番良いだろうしな」


「ありがとうございます、お願いします!」


 まぁそれが無難だろう。リリーナも素直に頼む。

 手続きといっても大したものじゃないが、立場ある大人が行くのが良いのは当然だ。


「シア、良かったね!」


 もう演技や設定を考える必要も無さそうで安心したルナが言う。

 しかし別の意味でも本当に良かったと思ってるのは――さっきの慟哭のせいか。

 ただし残念ながら、もうウトウトしているシアは聞いていない。


「うんうん、私も様子見に行くからね!」


 リリーナだけじゃなく、自分もお世話するつもりでいるセシリアは恐らくほぼ毎日来るだろう。


「そういえば精霊の……ルナって言ったか。君はどうするんだ?」


「確かに。仲が良さそうだが、ついてくるのか?」


 ふと気になった事を聞くフェリクスとダリル。

 当たり前のように居て気にしていなかったが、精霊が誰かと一緒に街に住むなんて珍しいにも程がある。


「なにそれ、当たり前じゃん! あたしはシアとずっと居るの!」


「いやすまん、精霊が人と一緒に居るっては意外でな。いいのか? 街は人が多いが……」


 ちっこいのが憤慨している。やはりついてくるようだ。

 当たり前だと、ずっと居るんだと言い切るあたり、絆が分かるというものだ。

 つい謝って聞き直すが、それくらい精霊が人と一緒に居るのは珍しい……というかまず無い事だ。


 気まぐれ、自分勝手、好奇心で動く――そんな存在だ。ハッキリ言ってしまえば、騒ぎでも起こされたら割と困る。

 しかしこの様子だと余計な心配かもしれない。むしろ騒ぐのは珍しがる住人の方になりかねない。


「別にそれくらい。基本的にシアと居るし、好き勝手な事はしないから安心して」


 対してルナはやはり、そんな心配は要らないと言わんばかりだ。

 シアと一緒に居る事が第一という彼女は、精霊としてもう珍しいなんてもんじゃないだろう。

 だからこそ面白いと思っているし、そもそもシアと居るのも好奇心が元だ。

 そして先ほど芽生えた感情もある。


「こういう精霊もいるんだなぁ。出会ってからそんなに長くないんだろう? 随分良い関係みたいだな」


 セシルも精霊と会ったことはあるが、こんな普通の友人のように人と接する姿に今更ながら感心する。

 会ってどれくらい経っているのかは分からないが、ここまで親しい関係になるなんて一体何がどうしたのか想像も出来ない。


「あー……えっと、それはー……意気投合したというか……その……シア! あんたも何か言って……」


 やべ。余計な疑問を持たせてしまったかも。

 ルナは何て言おうか迷った挙句シアに丸投げしようとした。

 しかし当の少女はいつの間にかすぴすぴと眠っている。


「シアちゃん?」


「寝ちゃってるね。ふふっ……可愛い……」


「疲れてただろうしね……もう大丈夫だからね……ゆっくりお休み」


 きっと安心したからだろう。疲れも溜まってたどころじゃないだろうし、仕方ない。そしてそれは事実だった。

 可愛い寝顔でもたれ掛かってくるシアに顔を緩ませながらセシリアとリリーナは小声で話す。


「もー、シアったら。ま……良かったね。優しい人達に拾われてさ」


 こんな姿を見せられたら八つ当たりも出来ない。

 その小さな手で頭を軽くぺしぺしと叩きながら優しい顔で言う。


 やっぱりなんだかんだルナはシアが好きなのだ。その逆もまた然り。2人は友達……親友なのだから。

 普段シアに見せない、そんな珍しい態度なんて知る由もないまま彼女は眠り続ける。




 裸よりは……と、とりあえず一旦リリーナの替えの服を被せられ、街に着いたのは夕方。

 そのまま運ばれ、道中で子供用の下着と服も一応買っている。

 そうして眠ったまま長い髪を軽く手入れして着替えも済まされ、リリーナのベッドへ。


 この2年以上もの間感じなかった柔らかさと温かさと安らぎの中……まだまだ眠り続ける。隣の小さな親友と共に。


 そんなお寝坊な彼女が起きるのは次の日の朝だった

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