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第168話 隣街 4 クエストクリア

 運ばれて行ったシアは一旦置いておき、ひとまずは目の前の敵だ。

 既に明かりは灯され、そこまで広範囲では無いものの視界は充分。


 しかしハンター達が合流したのは良いが、このまま戦うには少し多い。なので数人ずつ分散し、敵を囲もうと動き始める。

 当然ながら大人しく囲まれてくれるわけもなく、しかも数は向こうが上。敵もまた分散して対応してくるが、それで良い。


 敵が集まり始めた段階で魔法をぶっ放してある程度片付けてしまえば……とは思うが、今回それは難しかった。

 暗闇の中で敵の総数も分からず、合流しようと味方も動いていた。

 勿論状況次第ではあるが、基本的には場が整ってから戦う方が混乱が少なくて済むのだ。


 広範囲で一気に……なんて出来ずとも、後からどうにでもなるという判断だ。

 つまり状況が整い冷静に対応された時点で、ゴブリン達には殲滅される以外の未来は無かった。


 上手くいくと踏んだ策を看破され、追い立てられた末に戦いを選ぶ。

 大人しく逃げれば殆どは生きていられただろうに、好戦的な気性を抑える理性は無かったらしい。

 特別頭が良かったとしても、やはりゴブリンはゴブリンだった。



 セシリア達3人は数秒の様子見の後、周囲が戦い始めてから参戦。

 この街のハンターなりの動きがあるかもと考え、息の合わない勝手な行動にならないようにしていたのだ。

 結果特別な事はしていないと理解して、魔法を牽制で放ちながら近くの敵集団へと切り込んだ。


「まずは僕が行く、君達は左右だ」


 最も囲まれやすい位置にセシルが踏み込む。セシリアとリリーナは彼の1歩後ろで左右に別れ付いて来る。


 ハッキリ言って離れた位置から魔法で攻撃していれば、危険を最小限にして終わる。それでも誰もが切り込むのは理由がある。

 その戦い方は確かに安全且つ効果的だ。しかしそんな戦い方に慣れてしまう事は致命的である。

 魔力が無ければ何も出来なくなる、長時間戦えない、そんな手法は避けるべきだという思想が基本。

 想定外の事態があっても対応出来る余力を……魔力を残す。だからこそあえて常に武器で戦う事を軸にしているのだ。


「――っ! はっ!」


 一息に、一太刀に、リリーナはまず1体を深く切り伏せる。そして返し刀にもう1体。

 しかし浅い。倒れはしたがまだ生きている。周囲の確認という一瞬の思考の後、トドメとして首を地面に縫い付ける。


 殺し切れなかった敵は何をするか分からない。

 倒したと思い込んだ所為で、文字通り足元を掬われる事もあるのだから。

 故に残酷かもしれないが、きっちり仕留める事は重要だ。勿論深追いは厳禁である。

 視線を下げ隙を見せた彼女へと、数体が襲い掛かるが想定内。すぐさま後退しつつ剣を引き抜き、一旦距離を取ってから再度切り込む。


「せいっ! はぁっ!」


 一振り一振り力強く、セシルは剣を振るう。彼の長剣ならばゴブリン程度は仕留め損ねることはまず無いだろう。

 流石の手腕と言ったところか。既に3体が転がり、更に2体流れるように切り払った。

 敵も彼を相手にするよりは……と、回り込むように動いていく。


「セシリア!」


「!? ――やっ!」


 槍を振るい、素早く無くとも各個確実に始末していたセシリアの元へと、セシルの方から漏れた1体が駆ける。

 ちょうど敵を突き刺した瞬間だった為、彼女は引き抜くよりも先に水流を叩きつけて怯ませ、その隙を文字通り槍で突き貫く。

 慌てず危なげなく処理をする姿は熟練のハンターだ。


 そんな妹を見て、戦いながら安心したセシルの周囲に小さな雷が散る。リリーナだ。


「っ! 奥か……っ」


 それは攻撃ではなく、近くを魔法で攻撃するという味方への合図。

 察した彼は1歩離れ、その瞬間に雷が奔り奥の敵を直撃した。

 どうやら投石しようとしていたようで、逸早く気付いた彼女が投げるよりも早く処理してくれた。


「僕は詰める、こっちは任せた!」


 それを見てセシルは単身、集団の奥へと数体を切り捨てながら突き抜けていく。


 小柄なゴブリンと言えど、その膂力は侮れない。

 身体強化無しに張り合える人間の方が少ない程であり、そんな力で投げられる石は単純に厄介。

 なので彼女達なら大丈夫と判断し、氷で壁を作り敵を上手く分断しながら離れた敵の処理を優先した。



 そうして戦う事数分、敵はほぼ壊滅。

 既に終わりが見えており、油断無く最後の大詰めという流れになる。

 それでも1つ、また1つと敵が倒れるにつれ、誰もが安堵の気持ちを湧かせるものだ。


 そんな中、この場に似つかわしくない少女の声が響いた。


「まだ! 上だよっ!」


 シアだ。先程運ばれて行ったが、どうにか説得……我儘を押し通して戻ってきたらしい。

 精霊であるルナが一緒である事も許された理由の1つだろう。

 勿論、運んだ大人達はすぐ傍で彼女に危険が無い様に護ろうとしている。子供の我儘を聞いて支えてくれるとは、随分と良い人達らしい。


 そしてそんな彼女は弓を構えて空を見上げていた。

 最初の鳥。気付けばいつの間にか姿の見えなくなっていたそれは、ここに来て再度ゴブリンを掴んで街に向かおうと飛んでいたのだ。

 戦闘があってもこれとは、よくよく調教されているらしい。しかも2匹だけでは無かったようで、合計4匹だ。


 シアは矢を番えたまま左手の先から火の玉を放つ。彼女の魔法は攻撃には心許ないが、要は使い様である。

 矢を放つよりも先に火球を飛ばし、距離と方向の確認、更に多少の明かりを確保する。

 そうしてしっかり狙った後、放たれた矢は正確に暗闇の空で敵を貫いた。

 射貫かれた鳥と共に落ちたゴブリンはすぐさまトドメを刺される。


 本当に素晴らしく弓の腕が上達しているらしい。

 勿論使った矢は普通の物。大勢の前でむやみにアルカナを披露しない意識もちゃんとあるようだ。


「鳥か! まだ街に向かうとはっ……」


「空に灯りを! 今度は逃がすな!」


 彼女の声と、実際に撃ち落とされた敵を見て周囲も動く。

 地上を照らす明かりはそのままにしなければならないので、新たにいくつもの火球が上がり空中に維持される。

 意識の外だった敵を教えてくれたシアは、またしてもお手柄だろう。


 子供でも気付いたのに……なんて言ってはいけない。

 過去、故郷を襲われた時。グリフォンに襲われた時。印象的過ぎる記憶から、彼女は空を警戒する癖が付いている。


 そして地上を明るくして戦っている中で、暗い空など確認していられないのだ。

 しかも最初に空から早々に逃げたその敵が合流して集まったと思い込んでしまっていた。

 まさか戦闘から隠れ機を窺っていたなんて。闘争心を抑える理性は無くとも、本当に頭が良かったらしい。


 高々数体で街に乗り込んだ後にどうするつもりだったのかは、奴らにしか分からない。

 なんにせよそんな策も不発に終わり、あっという間に殲滅される。

 結果的に短時間で、大した負傷者も無く無事に解決となった。


 初めての隣街、初めてのサブクエスト達成である。

 ここまで大事になれば報酬もいくらか期待出来そうだ。

 ただしこの凄惨な戦闘の後始末という、気の滅入る作業が先に待っているのだが……これも大切な事。

 ひとまずは合流という事で、シアとルナ、セシリア達は駆け寄ったのだった。

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