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第166話 隣街 2 街に着いたらサブクエ消化

 特に何事も無く一夜明けて、次の日。

 朝食を済ませてから一行は改めて街へと繰り出した。


 リーンウェルは街1つ丸ごと使った大農場だ。

 農耕、牧畜。いくつもの区画に別れて管理されており、それに携わる者が殆ど。

 そんな広大な農場がいくつもあるなら、街そのものもそれに合わせた景観になるものだ。


 つまり他の街と比べても自然が多く、あえて舗装されない道も多い。

 誤解を恐れずに言うならば、地球で言う所の田舎である。

 とは言え技術や生活水準に殆ど差は無い。


 気軽に外に出れない以上、この世界の街はある意味閉鎖的であると言っていい。

 そうなれば其々に違う文化が根付いているのも珍しくない。なので所謂田舎な環境も、1つの文化でしかないのだ。


 異なる文化だからこそ興味を持ち、楽しむ事が出来る。

 そう考える人が多いからこそ、シーカーという存在が一般的に扱われる。

 それもまた1つの文化、なのかもしれない。



 という訳で、そんな街はシアにとってはまさしく旅の目的そのものである。

 勿論それに続く皆にとっても、大きな意味のある事だ。


「おぉ~……」


 先程から殆ど開きっ放しのシアの口から、何度目かの感心の声が漏れる。

 広大な畑に並ぶ作物、沢山の家畜。圧巻の一言だ。


 勿論魔法や魔道具で温度の調整が可能なので、作物の種類も豊富だ。

 地球の高度な技術による農場とは、似たようで全く違う。そんな光景にシアは興奮と興味が尽きないようだ。


「はぇ~……管理された自然ってどうなんだろうって思ってたけど、見てみなきゃ分んないもんだね……」


 ルナも同じく口を開けてばかりだ。

 自然で生まれ自然で生きる彼女達精霊にとっては、この光景にはまた違った感想を抱くものらしい。


「凄いよね。こういう街に皆支えられてるんだよ」


「ハンターが護って、それを周囲が信頼して支えるように。誰だって皆支え合ってるんだ」


 セシリアがシア達に言い聞かせるように呟く。

 それを聞いたセシルも、兄らしく良い事言ってやろうと纏めてくれた。


 支え合う、そんな事はきっと誰でも分かっている事だ。

 だけど実際に見る事はまた違う。

 分かった風に言うセシルだって、こうして見て回って改めて感じる事もあるだろう。


「こういった街を、人を、護るのがハンター。やっぱり私は、ハンターの誇りは手放せないかな」


 リリーナもまた改めて、ハンターとして護るという事を意識している。

 きっとセシル同様いつか旅を終えた時が来たら、もう一度護る側に立つだろう。


「うん。こうして見るからこそ、もっと強く護りたいって思えるんだね。こうやって感じる事も、団長達には分かってたのかな」


 全てを糧にしてこいと言われたが、まさにその通りであった。

 言ってしまえば、たかが隣街。見ようと思えばいつでも見れた物だ。

 それをしなかった事、同じような事がこの先も続く事に、セシリアは感慨深く語る。


 始まって早々に旅の意味を体感出来た事は、皆にとって喜ばしく良い事だっただろう。



 とは言え、これで満足してしまってはいけない。

 まだまだ街を見始めたばかりだ。見たい物、見るべき物は他にもある。


 これだけの生産があり、それを輸送するなら当然多くの商団も訪れる。

 田舎とは言ったが、その賑やかさはかなりの物だ。


 昼になり食事も合わせて、そんな賑やかで人の多い場所に向かう。

 夕食と朝食で既に2回食事をしているが、この街の料理は美味しい。

 人の多い産地そのものなのだから当然かもしれないが、とにかく豊富で美味しいのだ。


 そんな場はやはり笑顔溢れる平和な物だ。一行も朗らかに会話と食事が進んでいく。

 しかし、ここには似つかわしくない暗い表情で話す者達が居た。

 どうやら何か困っているようで、その話はこちらにも聞こえてしまった。

 つい昨日、何かが農場に入り込み作物や家畜を襲ったらしい。被害は大きくないものの放置は出来ない、という事らしい。


 そして好奇心旺盛なシアが反応するよりも先に、セシリアとリリーナが動いた。

 改めて感じいった事で、この街の人の為になる事をしたかったのだろう。


「あの、すみません。話が聞こえたんですけど――」


 とりあえずセシルも加わり声を掛け、話を聞く。

 自分達が元ハンターで実力もそれなりにある事、シーカーとなって見識を広めている事、この街を見て力になりたいと思った事。

 包み隠さず話した結果、仕事として調査を引き受ける事となった。


「まぁ一応他にも話は回ってるから、すぐ終わるかもしれないけどな。ともあれ協力は助かる、よろしくな」


 当たり前だが既にハンターや警邏隊に話は通っており、正直こちらの出る幕は無いかもしれない。

 それに旅の途中なのだから、1つの事に何日も時間は掛けられない。達成出来ずに発つ可能性はあるし報酬も後だ。


 それでも動いた。動けるのが彼女達だ。

 勿論シアとルナだって、助けになるなら快く協力するつもりだ。

 仕事になる話に子供が混ざっては不信感を持たせかねないと判断して、黙って後ろに控えていただけである。


「そんな事ある?」


 と言うより、こんなゲームのクエストみたいな事が実際に起こるのかと感心と面白さが勝るらしい。


「何が?」


 流石にそんなシアの考えている事なんて分からないルナは、何を言ってるんだろうと聞き返す。


「なんでもない。こういう事もあるんだなーって……出来るなら人助けはしたいもんね」


 ゲームだクエストだなんて言ったって理解される筈も無いので、シアはとりあえず誤魔化した。

 なんにせよ、そんなクエスト染みた事だって旅の醍醐味と言えるだろう。

 報酬でお金を稼げるなら、シーカーとしても意味のある事だ。


 シア達は好奇心で、セシリア達は善意で。

 きっと彼女達はこの先も、こうして何かしらに首を突っ込む事になりそうだ。


 なにはともあれ、そんな訳で初めてのサブクエスト開始である。

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