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第165話 隣街 1 ある意味、謎の一行

「もうっ! 何あの人達、失礼しちゃうなぁ!」


 シアがなにやらぷんすかと怒っている。

 他の皆は苦笑いしながら窘めているが、考えてみれば当たり前の展開だなと納得してしまっている。

 なので荒れているのは彼女だけだ。


 さて、では一体何があったのかと言うと……

 無事にリーンウェルに到着した一行は、街に入る為に門で手続きをした。

 手続きというか、身分証を提示してシーカーである事を伝えるだけだ。

 どの街も、他国でさえも、しっかりと身分を証明出来れば基本的にはあっさり通れる……筈だった。極普通の者ならば。


 僅か12歳の少女(見た目は10歳程度)、精霊、まだ大人と言える程の歳ではない少女2人と大人の男1人。

 そんな一行が普通だとは誰も思わない。シーカーです、旅をしていますなんて簡単には信じてくれないのだ。


 ただし端から全てを拒絶するわけではない。

 何か裏があるのでは、何か事件や犯罪なのでは、家族というのは本当なのか、この精霊は一体何なんだ。

 信じようにもあまりにおかしい話なので、疑問だらけでひたすらに時間が掛かっただけである。


 シアの姓が姉であるリリーナと違う事も、その疑問に拍車をかけた。

 心の底から家族と思っていても、どうしても姓を変える事は出来なかった。彼女にとってそれだけはそのままでありたかったのだ。


 そんなこんなで、やたらと細かい事までしつこくじっくりと質疑応答をさせられたのであった。

 家族や親友を疑われたりと、シアにとっては失礼と感じられる程であり、その所為で無事に街に入った後もぷんぷんしているわけだ。


 一応擁護しておくが、彼らも意地悪でそんな対応はしていない。

 あくまで街の出入りを管理する仕事として、疑問と懸念を解消しようとしていただけだ。悪意など無いそんな彼らを責めるのも、あまりよろしくはないだろう。



「うーん……この先も街に着く度に同じような事になる気がするから、気にするだけ無駄だと思うよ~?」


 頬を膨らませるシアを宥めるついでに、いつものように後ろからこねくり回すセシリアが軽い口調で言う。

 なんとなく嬉しそうにしているのは、きっとシアが怒っている理由を察しているからだろう。

 彼女はなにもただ面倒だったから怒っているわけではない。大切な人達を巻き込んだ事に怒っているのだ。勿論原因が自分だという事も理解している。


「そうそう。ていうかあたしなんてもっとだよ」


 ルナはシアの頭にぐでーっと乗っかっており、彼女とはまた違った理由でうんざりしている。


「何処にいったってあたしは驚かれるし、色んな視線を向けられるし……諦めよ?」


 そう続けてシアの髪を弄び溜息をついた。

 セシリアといいルナといい、シアは手慰みに弄られてばかりだ。実はリリーナも時々やっている。

 距離が近づいて分かりやすく可愛がられているだけだ。

 しかし団長達にも頻繁に頭を撫でられるので、触りたくなる何かを発しているのかもしれない。


「まぁ……それもそっか。はぁ、諦めよ」


 そしてシアも溜息をつき、これでもう収めようと言われた通り諦めることにした。

 なんだか最近は色々と諦めてばかりな気がするが、どれも仕方ない事だ。決して彼女が情けないわけではない……多分。


「切り替え早いなぁ……」


 良くも悪くもシアの単純さに、リリーナは笑みを溢す。

 こんな単純な性格だからこそ本人も周囲も沢山の事を楽しめる、と考えれば良い事の方が多いかもしれない。


「さ、収まったなら宿に行こう。空いてないなんて事はまず無いだろうけど、早いに越したことはない」


 とりあえず一段落ついたらしいので、セシルが次の行動を促す。

 何はともあれ、まずは宿を取らなければならない。日々街を行き来する者達は限られるので、泊まれない可能性は考えるだけ無駄だ。

 しかし荷物がある以上はさっさと宿に置いてしまいたい。


 そんな環境での宿の運営は儲かるとは言えない。なので食堂も兼業して稼ぐ為、夕方に近づいた今の内に向かう方がスムーズである。

 もう少し時間が経てば食事目的の客が多くなり、面倒になりかねないからだ。何処ぞの精霊が注目を集めてしまうので。


「はーい。先導よろしく、女の子達を侍らせるおにーさん?」


「なんか棘があるんだけど……僕シアちゃんに何かしたっけ……?」


 先程最も疑いの目を向けられていたセシルに、シアが揶揄うように返事をした。

 10歳くらいにしか見えないちっこいのを含め女の子3人(+1人?)を連れて旅をする男というのは、やはり多少なりとも探られるものだ。

 シアとしては先の怒りとはまた別に、そんな彼に面白さも感じたらしい。


 門でのやり取りはさらりと対応して見せたが、珍しくシアの辛辣とも言える揶揄いには狼狽えている。


「ふふっ……シアちゃんは兄さんとももっと仲良くしたいんだよ」


「可愛いもんでしょ? せっかく一緒に旅をするんだし、いいんじゃないかな。ねぇ、お義兄さん?」


 姉達は察しているが、そういう理由である。

 誤魔化す為に揶揄ったというのに、簡単に見抜かれている事にその当人は若干照れている。


 しかしフォローしつつ釣られて揶揄うリリーナの発言は、また別の意味を含んでいる気がする。


「嬉しいけど、出来れば普通にしてくれると助かるかな……」


 苦笑いで返すセシルだが、リリーナに対しては多少の気まずさを感じているようだ。

 彼女が含ませた意味をしっかり理解してくれたらしい。

 彼女達にとって本当の義兄になる日はいつになる事やら。



 さておき、宿に着いて受付を済ませて部屋に行き荷物を置く。

 勿論ちゃんと部屋は空いている。決してフラグでもなんでもなかったので大丈夫だ。

 ただし部屋は1つだけ。男が居るとは言え1人だけなのだから、わざわざ2部屋取る事も無いという判断だ。

 彼としては正直心苦しいようだが、余計な出費を増やす事も心苦しい。


 しかし実の妹は置いておいて、リアーネの妹達にも信頼されているとなれば、それを裏切る事などあり得ない。

 そもそも野宿で寝食を共にしている以上、今更な話である。

 真面目で誠実なセシルは、しっかり気を遣える男なのだ。



「じゃあこれで一旦街に出ようか。時間的にあまり動けないだろうけど、適当に軽く見て回るには丁度良いだろう」


 と言う訳で、宿を出て街の散策だ。

 もうすぐ夕方。食事をしてしっかり休む事を考えれば長時間は動けない。

 しかし明日も散策をする予定であるし、その辺りはどうにでもなる話だ。

 気の向くまま歩いてみればそれでいい。


 好奇心の塊のようなシアにとってはそれだけで楽しめる。

 シアがそうなら、勿論ルナも同じだ。そんな彼女達に釣られて皆も同様に楽しめる。


 隣街故にあっという間だったが、この旅での初めての街。

 ワクワクと逸る気持ちは続いている。そんな気持ちが溢れるまま、笑顔のまま。

 軽い足取りで進むシアを追って、ルナもセシリアもリリーナもセシルも続く。


 やはり彼女は皆の中心なのだろう。誰が望むでもなく、自然とそうなる。

 魅力溢れる世界を旅する、そんな彼女もまた魅力溢れる少女……なのかもしれない。

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