第164話 のんびり往こう、何処までも
よく晴れた良い天気、春真っ盛りと言った昼下がり。
平原に雷鳴が轟き、断末魔と共に魔物が散ってゆく。
昨日街を発ったシア一行だ。魔物の群れとの1戦を難無く終えた皆は一息ついて汚れを落としたりとのんびり。
ハンターの仕事にも使われる馬達は、戦闘音に驚く事もなくどっしりと待っている。
実はこの3頭は団長が買い取って贈ってくれていたりするのだが、過ぎた話なので置いておこう。
彼女達は昨日街を出てから、さっそく西へ東へと無駄にウロウロしながら湖に到着。
ランブレットから北東に位置するその湖は、コースト湖と呼ばれている。なんだかお買い物をしたくなる名前だが、ただの偶然だ。
湖はランブレットとミスラともう1つ、リーンウェルと言う3つの街と街道に囲まれている。
平原の中にある大きな湖なだけに、様々な生物が集まる場所だ。
故に残念ながら、湖で遊ぶなんて事は出来ない。そもそもまだそんな気温ですらないので、仮に実行しても何処かの誰かは風邪を引くだろう。
彼女達が湖に着いたのは夕方頃。少し離れた所にルナの魔法で岩宿を作り夜を明かした。
なんとも便利すぎるが、この世界では珍しい話ではない。やっているのが精霊という所は異常に珍しいけれど。
この湖はハンターの活動範囲の目安になっている。つまり距離としてはその程度しか進んでいない。
中央を目指し北上する予定ではあるが、旅初日という事もあり知識と技術の復習と実践を兼ねてゆっくりしていたのだ。
先程名前の挙がったリーンウェルが、今彼女達が目指している目的地である。
ランブレットと中央のちょうど中間に位置するそこは、大農場と言える重要な街だ。
どの街も生産はしているが、残念ながら自給自足には充分ではない。こういった農業の為だけの街から輸送され支えられているのだ。
ようやく話を戻せたが、その道中での戦闘が開幕の雷である。
既に実力者として数えられる程になったセシリアとリリーナとセシル。そこに加えて精霊のルナ。
ハッキリ言ってそこらの敵相手の戦闘などあっという間に片が付く。
シアも歳を考えれば充分やれている方ではあるが、如何せん仲間が強いので活躍も何も無い。
それでも今回は多少数が多かったので、シアも参戦し無事に終わらせる事が出来た。
共に行く仲間らしくちゃんと活躍出来た事で、なんだか満足気である。
「実戦でシアの力と合わせたのは初めてだけど……やっぱりとんでもないわね」
「うんうん、便利すぎるねぇ」
一息付きながらリリーナが感慨を呟き、合わせてセシリアも同意。
なにせほぼ破られない防御というのは本来有り得ないのだ。
数秒護って貰って、じっくりと魔力を練り上げ大火力を叩きつける……なんて事が実戦で出来てしまう。
「流石、あの山で生きてきただけあって反応も良い。護られることに甘えてしまいそうだよ」
その便利過ぎる防御に甘えてはいけないと、セシルは自戒を込めて口を開いた。
ちなみに反応は良いが体が追い付かないのがシアだ。それでも護れるからなんとかなっているだけである。
本人はそんな評価を聞いて、ふんすと誇らしげにしている。何故かルナも同じ表情だが、やはりシアが褒められると彼女も嬉しいのだろう。
「矢もしっかり当ててくれるしね。しかも魔力さえあれば撃ち放題」
「そりゃ団長達が背中を押せるわけだ。悩んでたのはシアちゃんがまだ子供だからってだけだったし」
再度姉達から褒め言葉を掛けられる。
シアの魔法は適正が無いので、どうしても攻撃には向かない。しかしそれをカバー出来る弓矢は数年の鍛錬で随分と上達した。
貧弱さはマシになった程度だが、身体強化には以前より耐えられるようになった。そこに体の成長もあって、弓は実戦に使える強い物に変わっている。
「えへへ……そんな急に褒められたら恥ずかしい……」
そこまで言われると流石にむず痒いらしい。
だがしかし、実際まだ小さな子供なのによくやれているものである。
それを褒めようと思う姉達の気持ちも当たり前の話だろう。
休憩中だからか、頭を撫でたりと存分に可愛がっている。
最早諦めてされるがままな彼女だが、その表情はやはり柔らかい。
しかしいつまでも休憩はしていられない。
頃合いを見計らってセシルが口を開いた。
「さぁ、そろそろ行こうか。リーンウェルはもうすぐだ。ゆっくりするなら街に着いてからにしよう」
丘の向こう、遠目に街が見えている。さっさと進んでしまった方が良いだろう。
彼の言う通り、街が見えているのにわざわざ外でのんびりする意味も無い。
その言葉を皮切りに其々馬に乗り出発だ。
勿論シアは手伝ってもらっているが、今回はセシリアの方に乗るらしい。
「リーンウェルって行った事ある?」
「私は数回……まぁ皆そんなもんかな。観光とかはしてないから楽しみだね」
セシリアにしがみついて、目指す街について聞いてみる。
ランブレットとは一応隣街という扱いなので、ハンターなら仕事で訪れた事くらいはある。
それでもしっかりと街を見て回ったりなんてした事は無いようで、純粋に楽しみに感じているようだ。
きっとそれはリリーナとセシルも同様だろう。
そのまま多少の会話を挟みつつも進んでいく。
のんびりとも急ぐとも言えない速さで、逸る気持ちに合わせるように、タッタカタッタカ音を響かせ揺られながら……




