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第16話 出逢い 3 嘘か真か

 想定外の事態に、漸く落ち着いたシアと隣のルナに団長が声を掛ける。

 そろそろ事情を聴いても大丈夫だろう。


「それで……つらいだろうが、もう一度事情を聴いても良いだろうか?」


 また泣かれるのも困るな、と不安気だ。


「……はぃ。大丈夫です……」


 ずびずび鼻を啜りながら、真っ赤な顔と目で向き直る。

 目はともかく顔まで赤いのは泣いた所為だけではなく、本気で泣いた恥ずかしさもある。


「じゃあ改めて。君は街が襲われ逃げた後遭難し、ずっと彷徨っていた……という事でいいか?」


「ん……そうです……」


 あれ、どんな設定にするんだったっけ……なんて。

 シアは泣いている間にすっかり忘れてしまった。さぁどうしよう。


「しかし街が襲われたなんて話は聞かないな。すまないが街の名前を教えてもらえるか? まさかとは思うが……」


 これでもハンターギルドとして結構活躍しているのだ。

 そんな自分達がこの辺りの街が襲われたなんて話を知らない筈が無い、と怪訝な表情だ。というかこの辺りと言っても先程発ったミスラか、自分達の住む街かの2つだけである。

 思い当たるとすれば、それは2年半ほど前の……


「アルピナ……です」


 あの襲撃を知らないことにシアは戸惑いながら故郷の名を答える。

 いくら数年経っているとは言え、あんな惨劇……記憶に新しい筈だ。


「っ!? それはフィーニスの……! やはり君は……」


 団長が思わず声を上げる。

 周りも大層驚いているが、少なくとも大人達には予想は出来ていたようだ。


「嘘!? だってあれはもう2年以上も前の……」


 セシリアもつい驚いた声を出す。

 急な大きい声に、抱かれているシアはビクッと情けなく驚いた。

 中身は大人だというのに、さっきからまるで幼児退行しているかのようだ。


 まぁそんなことは置いておいて、信じられない事であるのは確かだ。

 こんな小さな子供が多くの敵が蔓延る中を1人で、しかも過酷であろう山で2年以上も生き延びてきたなんて無理がある。


「それほど長い間1人で……よく生きていたものだ。もしかしたらとは思ったが、なんという……」


「山を越えてラスタリアに入ってきたのか。本当に、よくここまで無事に……」


 フェリクスとセシルも呟く。

 どうやって生きてきたのか不思議過ぎるが、山から国を超えてきている。


「えっ……ここって、ラスタリア? フィーニスじゃない?」


 そして分かっていなかった本人。まだ鼻を啜っているが思わず聞いてしまう。


 シアの故郷、フィーニスとここラスタリアは、アドラー山脈という大きな山脈により隔てられている。

 そんな山でウロウロと生活している間に国を越えてしまっていたらしい。


 しかし自由気ままに生きるルナにとって、地理など気にする事では無かったしそもそも知らない。

 そしてシアも地理はまだ最低限しか学んでいなかったのだ。

 山を彷徨っているうちに、自分達が大きな山脈の中の何処に居て何処を目指していたのかなど分かる筈も無かった。というかどちらもお馬鹿なので考えもしなかった。


「ああ、嬢ちゃんはあのデカい山脈を越えて来ちまったんだ。一体どうやって……」


 団長が答えるが、同時に疑問。

 山なんて戦いづらく、積極的に狩りに行かない故に敵も多いのだ。そんな中で子供が1人生きていくなんてまず不可能。


 さぁどう答えようか。

 事前に考えていた事は大泣きした事で完全に頭から抜けているらしい。

 シアは思わずルナを見るが、ルナとしてもどうしたらいいかさっぱり分からない。


「えっと、遭難してるうちにここまで来ちゃったのかな。私、防御には自信があって……それで、なんとか逃げ続けてたの」


 魔物等にやられなかった理由としては、護りに特化しているというのは納得しやすいかもしれない。

 そう思って唯一出来る障壁を張って見せる。


 球状に包んだ方が説得力が増すと思い、未だに抱き着いているルナと少女2人を纏めて包む。

 サイズに比例するように無駄に負担が大きいが仕方ない。


「山はあたしが魔物を頻繁に倒してたから……割と安全だったのかも! それにシアの障壁は凄いんだ、これを破れる奴なんてそうは居ないはず!」


 ルナも援護。

 山にどれくらい魔物が居るのかなんて、具体的に知る者は居ないから嘘などバレようがない。

 そして実際この障壁をどうにか出来るとは思えない。


「えっ!? なにこれ、すごい……」


「目に見えるほど高密度な障壁? こんなの聞いたこともない……」


 一緒に包まれた2人は驚きと困惑。

 障壁など普通は見えず、体を覆うものだ。どんな実力者でもこんな風には展開出来ない。

 信じられないが実際に包まれている以上受け入れるしかない。


「こりゃあ、たまげたな……」


「こんな幼い子がこれほどの……」


「おいおい、俺も魔法には自信があるが……こんなの出来っこないぞ」


 団長、フェリクス、ダリルの驚嘆の声が上がる。

 特にダリルの驚きは2人以上だ。彼はエルフの中でもより魔法に優れ、研鑽を積んできた。

 だからこそこれほどの障壁を張る彼女は、さぞ天才だろうと思った。


「ダリルさんでもですか……リリーナも驚いてますね」


 セシルも同じく驚き口が開いていた。

 リリーナは若くしてダリルに目を掛けられる程の魔法の腕を持つ。

 優秀なエルフの師弟――彼らがここまで驚くほどの才を持っているのだとすれば、生き延びてきたのも頷ける。


「あ、シアは魔法は全然ダメだよ。どの属性も最低限しか使えなくて障壁だけ凄いんだ」


「ルナ!?」


 いつの間にかいつもの調子に戻っていたルナが何故か横槍を入れる。

 何故ここでマイナスな情報を出すのか。ついつい普段の弄りが出てしまったようだ。


 シアが頑張って大きな障壁を張ったお陰で、とりあえず納得してくれそうだったのに。

 睨まれて若干申し訳なさそうな顔をしながら笑って誤魔化している。


 その障壁も用は済んだのでさっさと消してしまう。

 拷問めいて転がってきたダメージと、頑張って大きく展開した負担と大泣きした疲れが出始めたようだ。

 相変わらず弱い。見た目通りのか弱さ。


「どの属性にも適正がなかったのか……そんなことが……しかしだからこそ障壁に才があったのか……?」


「考えんのは後にしろ。――戦えねぇのにずっと逃げて生きてきたなんてな。運もあったんだろうが、大したもんだ」


 シアに魔法の適正が無いことに驚き考えを巡らせるダリルを一旦止めて、団長はシアに近づき頭を撫でる。

 まさかとは思うが、戦えない子供が生き延びてきたなんて信じて受け入れているのか。


 撫でられたシアは満更でもない顔をしている。中身おっさんがガチムチのおっさんに撫でられているのは気にしない。

 中身を知っているルナはなにやら微妙そうな顔をしているが、多分そのうち考える事を止めるだろう。

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