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第159話 準備 1 食料は量より味

 旅立つなら今だ、と背中を突き飛ばされて数日が経ち、周囲も含めてかなりの慌ただしさで大騒ぎだ。

 いつかの未来の話のつもりでいたのに、余りにも唐突で予想外な展開となって大多数の者が困惑したまま準備が進んでいく。


 発端であるシアとルナはすっかりその気になっていて、期待を胸に必要な事を学んでいる。

 セシリアも内心を語った通り前向き。そこは急な話でも変わらないらしい。


 しかしリリーナは若干違った。突然仕事を辞めさせられ、準備を始めろと言われても困ってしまうのは当たり前だ。

 シア達と共に旅に出る事自体には期待がある。ワクワクしないとは言い切れない……が、どうにか感情やら諸々の整理をしなければならない。


 ちなみに、同じく唐突に巻き込まれたセシルは逆にやる気になっており、彼女達を引っ張り護る責任からか誰よりも真面目に準備中である。



 旅に出る5人はそんな感じだが、問題は残る家族だ。

 未だリアーネとシャーリィは不満気、リーリアもやはり同い年のシアが旅にという事は色々と思う事があるようだ。

 心配と不安だけとは言うが、それが大きすぎる。既に旅に出る事は決まってしまっている事が、余計に遣る瀬無さを助長してしまうのだろう。


 そんな家族の説得……少しでも安心させる事も合わせての慌ただしさだ。

 ギルドの方でも冗談では済まない騒ぎがあったのだが、なんとか収まって皆見送ってくれるらしい。



 ところで、準備と一言で言ってもその内容は様々である。

 毎日のように街の外に出るハンターでさえ、外で生活する術など学ばない。稀に大規模な仕事で数日の野宿をする程度だ。

 大勢での野宿と、少人数での旅では全く違う物なのは当然。


 比較的安全そうな場所を探し、無事に一晩を明かす。

 食料だって大量に持ち運べる筈も無く、ある程度は近場で調達しなければならない。

 それには知識と技術が必要であり、勿論移動手段と物資の用意だって必要だ。


 ちなみに野宿には、数時間の維持が出来る結界を使う。

 ただし予め魔石に魔力を溜めなければならないので、いつでも使えるとは限らない。

 数個を使い回して、街で溜めて置くのが基本だ。


 食料、着替え、武器、医療品、お金、野宿用の物、その他諸々。持ち運ぶべき荷物は多い。

 それらを運ぶ移動手段はよく考えなければならない。

 馬車等はいくらでもあるが、当然身軽では無いので険しい道が通れないし、常に護る必要がある。


 なので各々の荷物を載せた馬で移動する方が楽であり、つまり乗馬の技術も学ばなければならない。

 馬と言っても当然、異世界なのだから地球の馬とは色々と違う。

 ギルドでは時々使われるのでシア以外は乗れるのだが、まぁ何が言いたいかと言うと……


「シアちゃん……馬は諦めよ?」


「これも諦めるのぉー!?」


「飛べるあたしからしたらどうでもいいけど、少なくともシアが乗れてない事だけは分かるよ」


 そういう事である。貧弱な事を諦めたばかりなのに、乗馬すらも諦めろと言われて不満タラタラである。

 今はギルドにて馬の乗り方、扱い方を教わっていたのだが、小さく非力な彼女が経験も無しに屈強な馬を乗り熟すなんて急には無理だった。

 時間を掛ければ乗れるだろうが、そこまでの余裕は無い……というか多少乗れる程度では危険や面倒が増えるばかりだ。


 逆に彼女が小さい故に、他人の馬に一緒に乗った方が安全だろう。

 彼女自身の荷物も多くは無いので、いくつかに分ければなんとかなる筈だ。


 極端な話、馬そのものさえも大きな荷物になりかねない場面を考えると、数を減らすのはある意味メリットでもある。


「なんかこう、小さい魔動車とか無いの……?」


 街道を走る立派な車があるのなら、他にあってもおかしくない。

 前世の車を知っている身からすればそう考えるのは当然だが……


「無いわよ。というか動力が無いと動かない乗り物なんて旅に使えないでしょ」


 しょんぼり項垂れたシアを眺めながら、リリーナが教えてくれた。やっぱり無いらしい。

 そして彼女の言う通り、魔石に溜めた魔力が無ければ動かないのは面倒だ。

 最悪皆で魔力を注げば動くが、そんな事に大量の魔力を消費していられない。


 何事も安定を重視するのだから、何処をどれだけ動き回るか分からない旅では馬の方がよっぽど優れている。

 まぁ馬は馬で世話をして健康を維持しなければならないが、人も同じ様なものだしそこまで問題視するのも野暮だろう。



「とりあえず馬は諦めるけど……じゃあ後なにをすればいいかな?」


 そんな話を聞かされて、ひとまず諦める事を受け入れたシアは他に何をするべきかを考える。

 勉強は順調に進んでいるし、野宿に関してはこの場の誰よりも慣れている。

 馬がダメなら残る技術として学ぶ事は、ちゃんとした狩りや解体の実践くらいだ。


 急に狩りに出るなんて出来ない事くらいは分かっているので、大人しく訊ねたのだろう。


「とりあえず勉強しながら数日は小休止としましょ。あんまりにも慌ただしくてこっちも大変だしさ」


「んー……分かった。何を持っていくかとか考えるくらいにしとく」


 しかしひたすら慌ただしい事に疲れたリリーナは休息が欲しいらしい。

 流石にシアにもその大変さは想像出来たのか、すんなり受け入れた。


 何を持っていくか。簡単に言うが難しい話だ。

 皆で相談して取捨選択をしなければならない。


「食料とかよく考えなきゃだもんねぇ……」


「それもそうだけど、調味料! そっちの方が大事!」


 話を合わせつつ、後ろからシアの肩を揉んだり頬をぷにぷにしながらセシリアが会話に混ざってきた。

 何時頃からか手慰みにシアを弄るようになったらしい。

 されている側も気にしていないので、いつもの事として受け入れてしまっているようだ。


 しかし調味料に拘りを持つのも仕方ない話だ。

 そういった物が一切無い山で2年以上も生活していれば、何を食べるかより味を気にするのも分かる。

 人の居ない自然そのもの。食べられる物なら割とそこら中にあるのだから。


「すっごい実感ありそう……」


 そのシアの反応にリリーナは苦笑い。

 理由は察せられるので突っ込みづらいのだ。


「味は大事だよねー。街に来て一番驚いたのが料理の美味しさだもん」


 そしてその点に関しては精霊であるルナも同意。

 完全に料理に慣れ切った彼女はもう、自然には戻れないかもしれない。戻る気も無いだろうけれど。

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