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第157話 進路相談 1 いってらっしゃいは難しい

 旅人――シーカー。それは国も街も越え、世界を旅する者達。

 様々な経験を、出逢いを、まだ見ぬ景色を求め、危険を承知で世界を楽しむ者達。


 当然それに限らず、後ろ暗い事情から旅立つ者も居るけれど、それは一旦置いておくとして……


 そんなシーカーとは、生まれ変わってから思い描いていたシアのしたい事そのものである。

 故に彼女はどうしても、旅立てる程に強くなりたかった。


 彼女の根幹を成すのは、楽しく幸せになりたいという想いだった。

 いつぞやに思い知ったように、旅に出る事はあくまで手段であり目的では無い。


 このまま家族と共に過ごしていく事は幸せに違いない。

 けれどもやはり、せっかく生まれ変わったのだから世界を見たいという想いが強いのだ。



 年の瀬、1年の節目。大多数の者が過去を振り返り、同時に未来を語る時期。

 シアがこの街に来てから早2年半。

 学校には通わず、遊んで鍛えての生活を続けてきたが……流石にそろそろ、この先どうしたいのかを話し合ってもいいだろう。

 12歳で進路相談とは面白いが、彼女が色々と特殊故に仕方ない。


 自分の貧弱な体を受け入れ諦めるという悲しき決断を下した次の日、夜。

 いつも通り紛れ込んだセシリアを含め、家族で少し真面目なお話である。


 と言っても聞いている側は大して深くは考えてはいない。曖昧でもいいから何かしたい事はあるのか、程度の軽い話のつもりだった。

 しかし、聞かれているシアは空気に合わせてしっかり真面目に答えた。


 こんな自分を愛してくれる皆は絶対反対する、と確信があったがそれでも……1歩踏み出し心の内を曝け出した。




「「――――」」


 それを聞いた家族は無言。

 思ったよりも真面目に考えていて、それを答えてくれた事が意外だった。

 しかしそんな危険な事はさせられないという想いは当然。


 ただ否定するだけなら簡単だ。けれどそんな言葉は、それこそ簡単には伝えられない。

 彼女が本当に望んでいる事だと悟ったからこそ、誰もが口を噤んだ。


「どう……かな?」


 そんな家族の様子を窺い、何を言われるかと若干不安になりながらシアが訊ねる。

 別に今すぐ旅立ちたいという話ではない。いつかの未来の話だ。


 しかし危険な旅をするには、昨日諦めた彼女の貧弱さは大問題。

 いくら精霊であるルナが一緒でも、何があるか分からず危険過ぎて心配しか無い。



「――シアちゃん、流石にルナと2人で旅なんて許可出来ないよ」


 だからと言って、いつまでも黙っていても仕方ない。

 セシリアが厳しい表情でキッパリと伝え、続いて皆も頷いて同意している。


 予想通りに反対された事でシアも口を噤んでしまった。大切な家族にダメと言われて我儘を押し通す気も無いのだ。


 しかしセシリアはすぐに笑顔に変わって宣言した。


「その時は私も一緒に行く! だから2人だけでなんて絶対ダメだからね!」


「「えぇっ!?」」


 その言葉には流石に皆も驚き声を上げた。


「ちょっ……何言ってんの!?」


 確かに、シアを想うなら一緒に旅に出るのは良い事かもしれない。

 しかしそれ以前に、彼女は街を護るハンターなのだ。

 今やかなりの実力を認められた立場であると言うのに……それらを全て捨てて離れるのかと、慌ててリリーナが問い詰める。


「私ね、ずっと悩んでた。自分がしたい事ってなんだろう……って」


 しかしそんなリリーナを抑え、セシリアは静かに語り始めた。


「ハンターになった事を後悔はしてないし、誇りに思ってる。だけどそれって、自分に出来る事だからって、なんとなく流されてきたんだ」


 親友にさえ、家族にさえ隠してきた想いを。


「シアちゃんが話してくれた事を聞いてて、私も同じだったんだって分かった。今更になって、自分の心を理解出来たんだ」


 その親友であるリリーナは口を開けて驚いたままだ。

 まさか彼女がそんな悩みを持っていたとは夢にも思わなかったから。


「心配だからとか、大好きだからとか、そんな感情だけで考えてないよ。勿論それもあるけど、私がしたい事だから!」


 思い切って語ったセシリアは、どこかスッキリした顔をしている。

 ハンターとしてどんどん認められていく中で、より深く悩んでいたのかもしれない。



「――はぁ~……分かった。ちょっと複雑だけど……それなら私も一緒に行きたい。放っておける筈が無いもの」


「「えぇっ!?」」


 それを聞いて考え込んでいたリリーナもまた、大きく息を吐いて宣言した。

 またもや驚きの声が上がるが、当の彼女はそんな声なんて受け流してしまった。


「ちょっ、待ってくれ! いくらなんでもそんなホイホイ決めていい事じゃないだろう!」


 流石にリアーネは慌てて止める。

 元よりリリーナは純粋に家族と街を護りたくてハンターになったのだ。

 なのにこの場の勢いで決めているように見えて困惑しか無い。

 そもそも家族が危険な旅に出たいなんて、彼女にとっていくらなんでも事が大きすぎる話である。


「私は家族も街も護りたい。だけどっ……その家族が旅に出るっていうのに、いってらっしゃいなんて言えないの!」


「だから待てっ! 旅に出る事をさも決まった事のように言うな!」


「ちょっ……なんで喧嘩に……そんなつもりじゃ……」


 宣言した勢いのまま声を張るリリーナに対し、リアーネも更に慌てて止めようと必死になっていく。

 自分の話をきっかけに喧嘩が始まってしまったとシアもオロオロしているが、情けなくもどうにもならない。


「姉さんの心配は分かる! でも今すぐって話じゃないんだし、頭ごなしに否定はしないで!」


「ぐっ……でもっ……そんな……」


 妹の気持ちを汲んで、まずは考えてやるべき。

 そんな事は分かっているが、それでも心配と不安でどうにかなってしまいそうなリアーネは声を詰まらせた。


「もー! お姉ちゃん達ちょっと落ち着いてよ! そんな事ここで話したってしょうがないし、他の人にも相談しなきゃ!」


 流石に姉達が喧嘩を始めてはリーリアも黙って見てはいられなかった。

 というかハンターである2人がそんな意思であるならば、団長達にも相談しなければならないのは当然である。

 そもそもセシリアなど親にも伝えていないのだ。


「――そうね、ちょっと真剣に皆で話さなきゃ……」


「はぁ……分かった。明日……明日改めて、団長達も含めて話し合おう」


 妹に怒られて冷静になれたのか、2人はすんなりと落ち着いた。

 とにかく今は一旦保留とし、皆で話し合いをするのは決まりだろう。


「うん……私もなんか勢いで言っちゃったけど、家族にちゃんと伝えなきゃ……」


 セシリアも同様に冷静に考え直したのか、キリッと決意を露わに賛同している。



「なんでこんな大事に……? なんでぇ……?」


 すっかり置いてきぼりで話が進んでいる事に未だ困惑中である、そもそもの発端なシア。

 いつか思ったように、一緒に旅がしたいのは彼女も同じ。そう想ってくれた事は素直に嬉しい。

 しかしここまで大きな話になるのは予想外。

 なにはともあれ、改めて話し合わなければどうしようも無さそうだ。

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