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第152話 真冬なのに水着回 1

 冬も真っ只中な夜、殆ど貸し切りの状態の店にて大勢が賑やかに食事をしていた。

 ムサイ男達ばかりだが、何故か少女達も混ざっている。


「なぁ……おい、ヴィクター。そろそろどうにかしてくれんか」


 その中で一際目立つ筋肉の塊、マーカスが困ったように隣の団長に懇願している。

 久々の登場だ。今日は団長達と飲み会といった所である……筈だった。


「子供なんて普段逃げられてばかりだから、嫌じゃねぇけど。色んな意味でこそばゆくて敵わん」


「贅沢な奴だ。――嬢ちゃん、そういう事だからもう離れてやれ。周りの目も痛いしな」


「はーい……」


 尚も続く彼の懇願。心底微妙そうな顔をして眺めていた団長だったが、周囲から向けられる視線が痛くて仕方ない。

 残念そうに返事をするシアの脇に両手を差し込んで運んでいく。


 彼女は何故かマーカスの筋肉に興味津々で、ぺたぺた触り続けていた。

 幼い少女が半裸のおっさんにくっついている絵面が酷すぎて、保護者達から睨まれていたのだ。


「なんでまたアイツに懐くかね。――嬢ちゃん、ちょっと重くなったな」


 出会った当初は変態扱いだったのに、今や懐いている理由は単純だった。

 真冬でも半裸な程に言動がおかしいだけで善人、その鍛え上げた肉体と実力に尊敬したからだ。


 シアを運びながらため息を付く団長だったが、久しぶりに持ち上げた彼女の成長を体感して呟いた。

 いつぞやにムッチリしている事を指摘されたシアだが、あれから身長も多少の伸びを見せている。

 ようやく健康的に育ち始めてくれたらしい。


「~~っ!? 太ってない! もー降りるぅ!」


 ただし言葉が悪かったようだ。割としっかり気にしている彼女からすれば、重くなったなんて言われるのは恥ずかしい。

 若干赤い顔でジタバタと藻掻いている。


「お、おいこら暴れるなっ……」


 成長を感じた喜びからの呟きだった為、怒り始めるのは予想外で落としそうになる。


「子供とは言え女の子だって事だ、気を付けなよ」


 それを眺めていたリアーネが微笑みながら小言を飛ばす。

 ようやく変態から離れてくれた事に安心したセシリアとリリーナ、リーリアとルナも同じような表情で迎える。


 どうやら家族揃って食事に来ていたらしい。

 というか、団長らが大勢で食事をすると聞いて、混ざりたいと我儘を言った彼女に付いてきた。

 しかしまさか変態に絡むとは思わず、どうにかしろと睨み続けていたのだ。



「そ、そうか……女の子の成長は難しいな……」


 しみじみ言いながら優しくシアを降ろす。

 色々と不満そうな彼女だが、大人しく皆の元へ戻っていった。


「珍しく我儘を言ったと思ったけど、あの人が目当てだったの?」


「ん。だって凄い筋肉だから……普段会わないし良い機会かなって」


 リリーナは彼女の我儘の理由を察したが、相手が相手なのでやはり微妙な反応だ。


「シアちゃんはムキムキな男の人が好きなんだねぇ……」


「ん。かっこいい。憧れ」


 セシリアも口を開くが、こっちはこっちでズレた反応である。

 シアとしては、男に興味は無いが筋肉には憧れるというだけだ。


「なんでカタコトなの……ていうか変態に近づくのはどうかと思うけど」


 ルナが突っ込む。流石の彼女でも、あの変態に懐くシアを心配しているらしい。

 とにかく絵面が酷いのだ。


「カッコイイ……」


 会話を聞いていたらしい、少し離れた位置のユーリスがボソリと呟いた。

 普通におっさん達に混ざっていたようだ。


 それを見た団長はニヤニヤしながら、ポンっと肩を叩いた。

 何か言い返そうとしたユーリスだったが、揶揄われるだけだと察して赤い顔で黙り込む。

 シアには色々と酷い目に遭わされているというのに、数ヶ月でどうやら完全に惚れてしまったらしい。可哀想に。



「俺の筋肉に憧れてくれるのは嬉しいが、珍しい子供も居たもんだ」


「そんな凄いの、どうやって鍛えたの?」


 マーカスの呟きにシアが訊ねた。離れはしたが、会話は出来る距離だ。

 成長に悩み、身体を鍛える事にも悩む彼女からすれば切実な話。


「聞いた所で君には無理だ。小さな女の子に出来る方法も分からんよ」


 答えるマーカスは申し訳無さそうだ。団長達から、シアの鍛錬について相談を受けた事は何回もある。

 信頼出来る者として、彼女の事情を全て聞いているのだ。

 だからこそ、その質問から本心を察して答えてくれたらしい。


「むー。どうにかなんないかなぁ……」


 察してくれた事は理解しつつ、解決しない事に不満そうに口を尖らせている。

 成長したい、鍛えたい、出来れば余分なお肉を落としたい、なんて考えて日々モヤモヤしているのだ。


「まぁ、出来そうな事と言えば……水練くらいじゃないか?」


「……そうか、すっかり忘れていた。学校に通ってないならやるべきだったな」


 それでも何か助言になりそうな事を……と、マーカスが教えてくれた。

 水練――つまり泳げと言う事だ。

 普通は学校で学ぶ事の1つであり、完全に忘れていた事をフェリクスが団長を見ながら言う。


「そうだったな……よし、今度皆でやるか」


「この辺りじゃ水辺での戦闘は殆ど無いが、無駄にはならない。良い機会だし、これからは多少組み込もう」


 団長とダリルは揃って肯定した。むしろ今後の鍛錬にも組み込んでいくつもりらしい。


「出来るかなぁ……難しそう」


 それを聞いたセシリアは不安そうだ。

 なにせ水練とはただ泳ぎを学ぶだけでは無い。ハンターともなれば、様々な深さの水場で戦う為、もしくは装備を纏って水中を動く為の訓練に変わる。

 この街の周辺では水辺で戦う事は殆ど無いので優先順位は低めだが、しかし大切な事でもある。


「……んぇ? 今真冬だよ?」


 今世ではまだ泳いだ事は無いなと呑気だったシアだが、今が真冬な事を思い出した。

 どこでやるのかと疑問らしい。まさか真冬に外で泳がないよね、と若干の不安もある。


 ちなみに山の中でも川や池、湖に行った事は勿論ある。しかし敵や危険な生物が居るかもと考えたら、精々が浅い川にしか入れていないのだ。

 そしてその警戒は正しかった。ルナならまだしも、シアには対応出来る筈も無い。



「遊ぶ所じゃねぇが、冬だって出来る場所はあるさ」


 団長曰く、冬でもその為の場所があるそうだ。所謂温水プールである。

 夏ならば遊ぶ為のプールはあるが、水練用となれば別だ。というか本当に別物として作られている。


「そうなんだ、楽しそう!」


 話を聞いているのかいないのか、呑気なシアはプールが楽しみなようだ。


「だから遊ぶ場所じゃないんだって。まぁ楽しむ方が良いけども」


「じゃあ今度シアちゃんの水着を買わなきゃね!」


 そんな様子にリリーナは一応言い聞かせた。聞いてくれたかは分からない。

 ただ、シアだけは別扱いと考えれば楽しんでくれた方が良いのは間違いない。


 セシリアはもう彼女の水着を買う事を考え始めた。

 装備を纏っての水練はシアには早い。まずは1から泳ぐ事を教える為の水着だ。


 この世界、素材以外は水着も地球と同様だが……考えるだけ無駄だろう。そういうものだ。


「うっ……お願いします」


 水着という、これまた性差の大きな物を選んで着る事を考えたシアはなんともいえない表情だ。

 女性らしい物か、子供らしい物か、どちらも気が進まない故に悩ましいのだろう。


「ふむ……ユーリス、これくらいならお前も良いだろう。さっき言ったように良い機会だ、混ざれ」


「えっ!? 俺も……えぇ!?」


 そして団長は良い機会だからと、ユーリスも混ぜる事にした。

 この程度なら彼の息子育成の予定とは大きく外れないのだろう。


 まさかの提案だったのか、当の息子はかなり驚いて焦っている。

 父達に教えて貰える喜びは勿論あるが、気になっている少女が水着で一緒に……という事の方が衝撃なのだろう。

 年頃の男の子らしい事である。



「じゃ、そういう事で……今度詳しく決めて連絡する。準備はしておけよ」


 息子の慌てぶりには目もくれず、団長は確定事項として話を終わらせた。

 あっさり決まった話だが、大事な事なのは間違いない。


 シアとしても初めて泳げる事が純粋に楽しみらしい。そしてルナも、彼女に釣られて期待しているようだ。

 この2人がプールなど不安しかないが……保護者がしっかりしているので大丈夫だろう。多分。


 ちなみに、ずっと会話に混ざらなかったセシルだが……

 大人だからと酒を飲み始めて早々に眠くなり、黙って眠気に耐えていた。

 どうやらお酒には弱いらしい。

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