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第150話 とある本のお話 1

 それはとある日の事だった。

 いつの間にかすっかり冬となり、日が暮れるのも早くなった事に合わせて鍛錬も早めに終わっていた。


 最近は代り映えが無く見ていて面白くないのか、ルナは何処かへ遊びに行っている。

 そして一緒に帰る筈のセシリアとリリーナは少し仕事の話がある、という事でシアはギルドの外で1人ポツンと彼女達を待っていた。


 寒いのに何故外で待つのかというと、中は丁度人が多くなっていて子供は邪魔になると思ったからだ。

 寒さくらいは魔法で周囲の熱を弄ればどうにでもなる。

 繊細な制御が必要ではあるが、その程度はボロきれを纏って冬の山で生活していたシアにとって問題は無い。


 むしろ何もせずにただ待つ事の方が、彼女にとっては難しい事だった。

 なのでギルドの周りをウロウロと歩いていた所、ギルドの横……細い路地に、その本を見つけた。


 好奇心が服を着て歩いているような彼女だ。それを素通りする筈も無かった。

 表紙は真っ黒でパッと見ではなんの本か分からないが、なんだか薄い雑誌のようなそれを拾ってしまった。

 そして中身を見ない選択肢など存在しなかった。


「――っ!? ふぉぉおお!?」


 目を見開き、驚きながら奇声を上げた。

 しかし誰が通るかも分からない故に、慌てて口を閉じて周囲を見回す。


 そして誰も居ない事を確認して、もう一度本を開いた。


「ひゃ~……うわぁ……すご……」


 真っ赤な顔から小声が漏れ聞こえる。

 その彼女の視線の先、本の中身は――エロ本だった。


 あられもない男女の姿。恐らくは男性向けの、様々な種族からなる写真がずらりと並んでいる。

 この世界にこんな物があったのかと驚くが、文明の中で人々が生活すれば、性を題材にした物など当たり前の話であった。


 シアはそのあまりに衝撃的な数々に、何処かに行ってしまった心の中の【男】がムクムクと目覚めるのを感じた。


「嘘でしょ……なんで修正しないの……? せめて黒塗りとか……」


 そしてこの世界にはモザイク処理なんて物は存在しなかった。

 一切隠されないのはこの本が特別なのか、全てがそうなのかは分からないが。


「うわぁ……でっっか……えぇっ、こんな……」


 とにかくとんでもないモノであり、彼女を夢中にさせるには充分過ぎた。

 それはもう、自分に近づいて来る人の気配など全く気付けないくらいには。



「あ、居た居た。ダメじゃない勝手に何処か行っちゃ。心配しちゃうでしょ」


「ぅひゃぁあああい!!??」


 完全に忘れていたリリーナに声を掛けられて、シアは心臓が飛び出るかと思う程に驚き叫んで跳び上がった。


「わっ!? どうしたのよ、そんな大声で……何それ?」


「本? シアちゃん、落ちてる物に引き寄せられるのはダメって――」


 ただ声を掛けただけなのに絶叫されて逆に驚かされたリリーナだが、シアの手から落ちた物へ視線が向く。

 隣に居たセシリアが小言を言いながらもそれを拾い上げた。拾ってしまった。


「~~っ!? な、な何をっなんてモノ見てるのっ!?」


「? 一体何を……きゃぁああ!? ちょっ変なモノ見せないでよ!!」


 一瞬でシア以上に顔を赤くしたセシリアはまたもや本を落とした。

 釣られて落ちたそれを覗き込んだリリーナもまた、真っ赤な顔で怒りだす。


 自分から見にいっているのだが、それを突っ込む人は居ない。誰もそんな余裕は無かった。


「ぁ……ぅ……あぁ……ぇう……」


 一方、とんでもない場面を見られた羞恥心と恐怖でシアは体どころか思考まで固まっている。


 わたわたと真っ赤な顔をした少女3人が、とある本を取り囲む謎の絵面は続く。


「こ、こん……こんなモノ見ちゃ、ダメ! 早過ぎるよ!」


「私達だってこんなの……ちょ、なんでまた拾うのよ!」


 子供が見るような物ではないので、シアの視界から外そうとセシリアが拾い直した。

 しかし2人揃ってチラチラと視線が行ったり来たり。子供なのはお互い様なのだが、お年頃なのだろう。


「……って、2人だって見てるじゃん! なんで私だけ――」


「っ!? 処分! 処分よこんなモノ!」


 それをシアに指摘されて、リリーナは更に混乱したらしい。

 セシリアの手からはたき落した。


「あっちょっと! 誰かの落とし物なら一旦預かって――」


 拾って何処かに届けるなり預かるなりは当たり前かもしれないが、モノがモノだけに微妙だ。

 なんなら自分が見たいだけなのでは、と思われるだけである。


「いいわけないでしょ!」


 混乱したままリリーナは雷を放った。

 哀れ、お騒がせな本はその姿を灰へと変えた。


「あーっ!? なんてことをーっ!?」


 せっかく見つけたお宝を処分されたショックで再度絶叫する。

 灰と化した元お宝の前に膝を着き、しょんぼりと涙目だ。


 なにはともあれ、ひとまず狂騒の原因が消えた事で3人は次第に落ち着いていった。


「やっちゃった……誰かのだっただろうけど、仕方ないわね……誰にも言えないし」


「なにしてんのもう……」


 冷静になって、消し炭にしたのはやりすぎだと反省しているようだ。

 もうどうしようもない事だが、こんな事は誰にも言えないし謝る相手も分からない。


 セシリアはそんなリリーナに呆れつつ、意外と純情なんだなと新たな一面を見て楽しそうだ。

 潔癖とまでは言わないが、こういう物には少し過敏らしい。


「あぁ……せっかくのお宝が……酷いよぉ……」


「いや確かにやりすぎたけど、そもそも見ちゃダメだからね!?」


「そうだよ、あれは大人の男の人が見る物なんだから。ああいうのに興味が出るのは分かるけど、流石にダメっ!」


 落ち込むシアへ2人の小言が飛ぶ。

 正直彼女達よりも、シアの方がよっぽどそういう知識があるし男を理解しているのだが。


「うぅ……もう帰るぅ……」


 未だしょんぼりしたシアを連れて、とりあえず現場から揃って逃げるように家路を急いだ。


 落とし物なのか、捨てられた物なのか。それは分からないが、とりあえずアレに関わった事は3人の秘密となった。



 その後、セシリアとリリーナ、リアーネの3人で会議が開かれた。

 アレを話題にするのは嫌どころか、そもそも秘密のままにするつもりだったのだが……

 シアがそういう年頃なのだという事、そして同い年のリーリアにもまた大事な事であると改めて考えた末の判断からだ。


「そ、そういうのは私はちょっと……えーっと……誰か他に頼った方が良いような……」


 話を聞いたリアーネは珍しく顔を赤くして言い淀んでいる。

 どうやら大人振っていても耐性がない様子。


「そういえば姉さんはそうだったわ。こういう話なんてまずしないから忘れてた」


「そうなんだ……意外」


「お陰で私はあんまり教えてもらってないのよ。姉さんがちゃんと教えてくれたら良かったのに」


「仕方ないだろう、早くからやたら育った体の所為でちょっと嫌だったんだ。距離を置いていたらこうなってしまった……」


 リリーナがそういう事を学ぶ少し前に、両親は街を出ている。

 ならば性教育は姉がする筈であった……のだが、当のリアーネがこれだ。

 学校では最低限の事しか触れられないので、リリーナは自力で学んだのだ。


「なるほどねー。だから思わず消し炭にしちゃうくらい純情なんだ」


「ぅぐっ……いや、アンタも同じような……とにかくっ! 私はいいからシアとリーリアよ。ちゃんと教えないと……」


「早いかもだけど……アレを見ちゃって興味津々だし、今教えなきゃダメだよ」


「じ、じゃあその……シャーリィさんを頼ろう」


「お母さんに? 私も教わったし良いとは思うけど、なんか微妙な気分……」


 尚も情けなく狼狽えるリアーネの提案でひとまず決まりだ。

 明日と言わず、早々に機会を作るよう取り計らう事にして会議は終了。


 完全にお任せするのは流石に申し訳ないという事で、言い出しっぺ含め3人も同じく教える立場となった。

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