第149話 お風呂再び 3
その後は特に騒ぐ事もなく、シアも以前のように沸騰する事もなく。
皆のんびりとお湯に浸かっている。
ただし今回シアを抱いているのはセシリアだ。
更にそのシアの胸元に、ルナもぷかぷか浮いている。
ふくよかなモノを枕にぬくぬくとリラックスしているシアは、色々な意味で気分が良さそうだ。
最早完全に開き直っているらしい。
それを見るリリーナは、ジトリと何か言いたそうな表情。
しかし自分から口に出したくないのか、ひたすら黙ったままだ。
そんな視線を知ってか知らずか、セシリアは呑気に口を開いた。
「それにしても、シアちゃんもしっかり体型を気にしてたんだねぇ」
幼い見た目だとは自覚していたし、成長を望んでいたのは周知の事実。
それでも、太っただの胸がどうのと気にするのは意外だったらしい。
その見た目もあって、まだまだ小さな子供という印象が強かったのだろう。
「まぁ……無頓着なのはちょっと違うかなって。別に女の子らしくなりたいって思ってるわけじゃないけど」
中身が何であろうと、どうせ女の子として成長していくのだ。
何事も見た目が良いに越した事はない、という考えらしい。
わざわざ太ろうなんて思う筈も無いし、ぺたんこよりはある程度の大きさも欲しいのだろう。
「ふーん……成長するといいねぇ」
まだまだ揶揄いたいらしいルナは、シアの薄い胸元をツンツン突きながら笑う。
「特別大きくなんて思わないから、リリーナくらいにはなりたいかなぁ」
対しシアは、そんな悪戯には特に反応も無く言葉を返した。
ぷにぷにされたなら反応しただろうが、薄い胸板ではその程度何も思わないのだろう。
思ったような反応が無くてルナは面白く無さそうだ。
「……へぇ?」
しかし素直に口に出した言葉は、違うところでよろしくない反応を見せた。
「あ゛っ……ちが、そういう意味じゃなくてっ……」
やたら低い声をボソリと漏らしたリリーナを見て、失言したと悟ったが遅かった。
「そういう意味ってどういう意味かなぁ? ん~?」
「あはは……ほら、同じエルフだし、なんかこう……ねっ。小さくてもいいから、ちょっとくらい欲しいなって――」
笑顔で詰め寄るリリーナから退こうにも、セシリアに抱かれているので逃げられない。
とにかく弁明しなければ、と口を衝いて出てきたのは更なる失言だった。
「誰がちょっとだコラ! 小さいってなんだー!?」
「ひゃ~っ!?」
決して本気で怒ってなどいないが、多少はカチンと来たのだろう。
逃げられないシアへ襲い掛かり、その小さな身体を擽った。
やられている本人も、殆ど悪戯に近い報復で安心したらしい。
むしろ楽しそうに悲鳴を上げている。
「わぷっ!? ぶへぇっ、がぼぼぼっ……」
ただし2人の間に居た、元凶とも言えるルナは巻き込まれて沈んだ。
呑気にぷかぷか浮いていたので、咄嗟に魔法でどうにかする事も出来ずお湯に呑まれて暴れている。
まぁ散々、人の体型を弄るなんて失礼な言動を繰り返していたのだ。良いお仕置きになるかもしれない。
「わっ、ちょっ!?」
「ひゃぁああ!? ルナ!? どこ触ってっ――」
「この、年下の癖に無駄にデカいモノ晒してっ!」
「なんで私までぇ!?」
「ぷはぁっ、待ってあたし小さいから溺ぼぼぼっ……」
勢いのまま4人でわちゃわちゃと騒いで大暴れだ。
さっきまでのんびりリラックスしていたのに、最早お風呂どころではない。
「……あたしは普通がいいなぁ……」
リーリアは巻き込まれないように、隅っこで小さくなっている。
バカ騒ぎに呆れながら、微かに膨らみだした胸に手を当てて呟いた。
先程からの皆を見て、大きくても小さくても面倒そうだと感じたのだろう。
それはそれで、また巻き込まれる形になりそうだが。
結局この大騒ぎは、シアが疲れてのぼせるまで続いた。
今回は魔法を使ってあっという間に水気を取り去り、さっさと着替えてリビングで一休みだ。
「うー……」
シアはソファに横になりダウン中、その上に同じくルナが伸びている。
小さなルナは巻き込まれただけでもめちゃくちゃにされたようだ。
「全く……なんでまたのぼせるんだ? 随分と賑やかだったけど、遊ぶ場所じゃないだろう」
「「ごめんなさい……」」
そしてセシリアとリリーナは、揃ってリアーネに軽くお説教をされたところだ。
ふざけ過ぎた自覚はあるらしく素直に謝っている。
本来ならそこにシアも居る筈なのだが、のぼせて横になっているお陰でお説教は回避したらしい。
「とにかく、もう寝てしまいなさい。だいぶ寒くなってきた時期だ、下手したらシアが風邪をひきかねない」
「そ、そうだね。ちょっと早いけどもう寝ようか。シア、行くよ」
もう冬も目前だ。こんな事でシアが本当に風邪なんてひいたら笑えない。いや何処かの誰かは笑うだろうけれど。
リリーナはシアを抱き上げて部屋へ向かう。一緒に寝るという事は覚えていたらしい。
セシリアが寝るのはリリーナの部屋なので、必然的に3人一緒になるのだ。
ただし布団は別れるのだが……ちゃっかり自分が一緒に寝るつもりなのか、さっさと行ってしまった。
「ちょっと!? シアちゃんと一緒に寝るのは私なんだけど!?」
慌ててセシリアも追い、リビングはあっという間に静かになった。
「本当に賑やかだな。リーリアは大丈夫だろうけど、湯冷めしないようにね」
「うん、それくらいは大丈夫」
延々と呆れ続けていたリーリアが一番大人だったかもしれない。
将来はシアより遥かにお姉さんになるだろう。
「ま、それはそれとして、そのうち買い物に行こうか」
「わー、そしたらあたしもちょっと大人だ」
しっかりと成長が見えてきた以上、少し早いかもしれないが下着は用意した方が良いだろう。
姉達に憧れてきた彼女は自分の成長を素直に喜んでいる。
そしてそれは家族を愛するリアーネにとってもまた、喜ばしい事である。
「シアは……だいぶ先かな」
今はまだまだ成長の兆しも見えないが、この先にもまたその喜びが待っている。
ちょっとした喧嘩や身体の事。家族の成長を見て、未来を想う彼女の表情は柔らかかった。




