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第147話 お風呂再び 1

 夜。もうすっかり寒くなってきた、9月のとある日。

 シアも完全に馴染んだ家にて、なにやら少女達の懇願する声が聞こえた。


「ごめんってばぁ~、そろそろ機嫌直して、ね?」


「そうそう、私達も悪気があった訳じゃないというか、意地悪したかった訳じゃないのよ? だから許してほしいな……ダメ?」


 相変わらず紛れ込んでいるセシリアと、自宅故に居て当たり前なリリーナの2人だ。


「私もすっかり忘れてたし、謝ってはいるんだけどねぇ……意外と頑固な子だ。リーリアも宥めてくれ……」


「あたしは知~らない。シアちゃんの気持ちも分かるもん」


 いや、彼女達だけでは無かった。リアーネまでもが困ったように呟いている。

 話を振られたリーリアは我関せず。姉達の肩を持つ事はしてくれない、というより最初から本当に知らなかった。


 一体何があったのか。シアがなにやら頑なになっているのは分かるが、何かしたのはセシリア達らしい。


「む~……」


 なにやら可愛らしく唸りながら、頬をぷーっと膨らませたシアは怒っているつもりだ。

 拗ねていると言ったほうが正しいかもしれない。


「もう何か妥協できる事をさせてあげれば? そっちが決めれば収まるんじゃない?」


 若干の呆れを見せながらルナも参加。


「そうだねぇ……じゃあシアちゃん。私がしたい事を一緒にするのが、私への誕生日プレゼントって事にしない?」


「むぅ……まぁ、私バカだからあげたい物も思い浮かばないし、それでいいよ……」


 ルナの提案を受けてセシリアが優しく問いかける。

 シアもいい加減受け入れて終わりにしようと、ボソボソと答えた。


 どうやらセシリアの誕生日で何かあったらしい。いや、何も無かったからこそか。


 というのも実は先月、その誕生日があった……のだが、誰も話題にしなかった。

 そして半月ほど経った昨日、会話の中で思い出したように軽く言ったものだから、何故今更教えるんだとシアが怒ったのだ。


 あれだけ衝撃的な自分の誕生日を経験したのもあって、大切な人の1人であるセシリアの誕生日をスルーした事が嫌だったらしい。

 同じくらい衝撃的にだなんて無理としても、しっかりと祝いたかったのだろう。

 丸1日経っても引き摺っているあたり、本当に拗ねているらしい。



 しかし彼女達にも理由はあった。

 鍛練に仕事にと忙しかったし、その頃はシアも新しい力の発展をと必死だったから気遣ったのだ。


 なによりあの誕生日を経験したシアが、重く捉えて祝おうとすると想像出来た。

 だからそんな重く大きな事ではなく、毎年来る軽い事なのだと、あえてそう振舞った。


 それがまさしく想像通りに重く捉えていたシアと食い違ってしまった結果である。

 お互いがお互いを大切に想うからこその問題だった。

 そしてお互いが事前に誕生日について話していれば良かった事でもあった。


 いくら幼児退行していようが、シアの中身は大人。

 どちらが悪いという訳では無く……いや、むしろどちらも悪かったと理解はしている。


 けれどどうすればいいのか、いくら考えても案が出ず拗ねていただけだ。

 それのどこが大人なのかは分からないが、とりあえずそんな感じである。



「まぁ、収まったなら良いけど……とにかく、誕生日はこれから何回も何人も来るからね」


 どうにか解決しそうなので、ホッとしたようにリリーナが口を開いた。

 何処か他人事のように言っているが、彼女も当事者の1人である。


「シアちゃんの時は、本当に特別なお祝いだったの。普通はもっと軽く考えていい事かなって、思うんだけど……どう?」


 セシリアも続き、若干不安そうにシアへ確認をする。

 彼女達がどう考えていたのかは、既に説明している。

 ひとまずは受け入れてくれたが、それで本当に解決するのかどうかが大事な所だ


「ん……分かってる。ううん、分かってた。でも何かしたかったんだ」


 親しい者達だけとは言え毎回誰かの誕生日を、シアの時の様にガッツリお祝いなんて正直無理がある。

 そしてそれはシアだって分かっていた。


 それでも、分かっていても尚考えてしまうくらいに、皆を大切に想っていただけなのだ。


「うん、それも分かってる。ごめんね、こっちの考えだけを押し付けようとして……」


「私こそ、ごめん……なさい。困らせるつもりなんてなかったのに……」


 お互いに悪かった。だからお互いに謝って、受け入れて、それで終わり。

 兎にも角にも、喧嘩とも言えないちょっとしたすれ違いは1日掛けて解決した。


 そしてしんみりした空気を変えたいのだろう。

 セシリアは早速、明るく気分を高めてしたい事とやらを言い放った。


「じゃあ、私のしたい事ね。久しぶりにお風呂入ろっか! それで一緒に寝よう!」


「え゛っ……」


 そのセシリアのお願いは、シアにとってはとんでもない事だった。

 そして受け入れると言った手前断れない事を悟り、体を硬直させて声を洩らした。


 この家に来た当初、無理矢理に連れて行かれた時の強烈な記憶は未だ鮮明だ。

 あの時はどうにかこうにか恥ずかしさや罪悪感は耐えられたが、その後は遠慮して1人で入浴している。


 ちなみにルナは魔法で充分という感覚なのだろうか、お風呂は気分次第だ。理由も無くシアと一緒に入る事も無い。

 子供同士のリーリアだって、わざわざ一緒に入ろうとはしない。


「……したい事ってそれ? 別にいいと思うけど、その顔はどうにかしなさいよ……」


 逃げられないシアにお願いする性格の悪さと、何故かだらしない顔をしているのを見てリリーナが呆れた。

 しかもサラッと一緒に寝る事まで追加しているのがまたズルイ。


「リリーナも一緒だよ? どうせならリーリアもね」


「私も!? 嫌よ、また……比べられるじゃない」


 どうやら静観しているつもりだったらしいリリーナまで、当然のように巻き込まれていた。

 別に皆でお風呂という事自体は構わない。

 しかし何処とは言わないが、前回思い知った身体的な差を改めて突き付けられるのは嫌なのだろう。


「いいから、シアと一緒に。ね!」


 だがそんな事は関係ないとばかりに、半ば強制的に決められた。


「あたしは良いけど……」


 ついでにお誘いを受けたリーリアもあっさり承諾するが、答えながら目線はリアーネに向かった。

 前回も彼女は一緒では無かったのだから、それでいいのかと聞きたいようだ。


「いや、残念だけど私は遠慮するよ。流石に狭くなるしね。それに――」


 その視線を受けたリアーネは、本当に残念そうに答えた。

 狭くなるのもそうだが、もう1つ理由がある。


「姉さんは止めて。これ以上私に惨めな思いをさせないで……」


 心底真面目な表情で、横から口を挟んだリリーナが拒絶した。

 同じエルフの姉妹でも差があり過ぎるからだろう。


「……これだからな。私だってコンプレックスだっていうのに」


 基本的にエルフは華奢だ。

 リリーナはちょっとだけ成長が遅いかもしれないが、逆にリアーネは成長し過ぎである。

 果たして三女のリーリアは……ついでに新しく増えた四女も、この先どうなることやら。


「ふふっ、やったねぇシア」


「よくない」


 またしても恥ずかしがるシアで楽しめるからか、ルナはご機嫌だ。

 さっそく揶揄っているが、言われたシアは既に顔を赤くしている。


 しかし入ると決まっているのだから、ウダウダしていてもしょうがない。

 諦めて諸々の感情を押し込め、脱衣所へと向かった。

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