第143話 誕生日 あの時ルナは 2
その後はいくつかお店を回って、無事にリーリアの分のプレゼントも買う事が出来た。
とりあえず買えたならさっさと家に戻って、何か他に準備する事があるならやらないとね。
ちょっとその辺の食べ物とか気になるけど、その為のお金じゃないんだし我慢我慢。
家に着いたのはちょっとだけお昼を過ぎた頃。
シアが帰って来るのは夕方らしいし、時間は充分だね。
「ただいまー」
「ただいま、お姉ちゃん」
「おや、良いタイミングで帰ってきたね。丁度お昼ご飯が出来たとこだ」
やったね。こっちもこっちで運がいい。
精霊はご飯なんて正直要らないんだけど、美味しい物を食べるのは幸せだ。
誰かと――家族と一緒なら尚更ね。
「ルナ、一旦プレゼントは置いとこうか」
「そだね」
2人分とちょっとの食事だから、テーブルに物を置いても邪魔じゃないでしょ。
置いてからリーリアと手を洗う。どうも人は家に帰ると手を洗うらしい。
雑菌がどうとか衛生がどうとか、なんか色々あるみたいだけどよく分かんない。
手だけでいいのかな。いいんだろうな。
いや、流石にあたしだって汚れたらすぐ洗うけどさ。ちょっと出かけてたくらいじゃ汚れなんて見えないのに不思議だ。
とりあえず健康でいる為の、人の在り方っぽいから真似してる。
多分精霊って病気とか無いと思うけどね。
「で、良い物は買えたかな? お金を見るに随分使ったみたいだけど……」
「あぅ……それは、そのぉ……ルナのプレゼントが……」
「え、あれはかなり安くなったんでしょ? 問題無いって」
ある程度食事が進んだ頃、リアーネが傍のプレゼントやお金を見て言う。
そしたらリーリアがしどろもどろになったけど、あたしのは問題無い筈。
凄く安くなったって事くらいはあたしにだって分かってるもん。
「一体何を買ってどうなったんだか。――あぁ、随分と高そうな買い物したね。逆に良く2つも買えたね、これ」
そのままリアーネがプレゼントを確認。
ふふん、驚かれるくらい凄い買い物が出来たって事だね、流石あたし。
値段はもう覚えてないけど。
「いくらだっけ?」
「もう忘れちゃったの……? 1つで2万コール以上だったのに、2つで1万コールだよ」
考えても思い出せないから、リーリアに聞いてみた。
そうそう、なんかそんな感じだった……ような気がする。
「は? なんて?」
「1つで2万で、2つで1万だってさ」
リアーネはよく分かってないみたい。もう一度あたしも同じ事を繰り返して伝えてあげる。
これって4万が1万になったんだよね。全然違うじゃんね、おっちゃんは気前が良いな。
「あぁ、うん……え?」
「お姉ちゃんが壊れた……」
「いや、え? なんでそんな破格どころじゃない買い物になったんだ?」
まだよく分かってないらしくてボケっとしてる。目が点になるってこういう事か。
高い物を安く買えたって良い事だよね?
理由は結局意味分かんなかったけども。
「なんか、あたしが買ったら謳い文句が出来てどうたらこうたら、って」
「後からもう1つ強請って、なんとか買えたんだよ……あたし胃が痛くなっちゃった」
「それは……良いのかな。まぁ売ったのは店が決めた事だろうし良いんだろうけども」
「言っとくけど、無理矢理売らせた訳じゃないからね。ほんとに向こうが決めた事だし」
よく分かんないけどお店の人がこうして売ってくれたんだから大丈夫だよ。
寄越せなんて脅したりはしてないんだし、気にしたってしょうがないって。
「流石にそんな事はしないと信じてるよ。――しかし、宝石が良いだけに装飾が無いのが寂しいな」
「そうだねぇ。ちょっと気になるけど、その宝石がビビっと来たんだよ」
うん、ただの石だけじゃ面白くないんだよね。
でもその綺麗な色の宝石は他に無かったし、あのお店じゃ他の選択肢なんて無かったんだ。
「装飾が無いからその値段で抑えられたんだろうね。よし、私がついでにこれも弄ってあげよう」
「え? 弄るって、どういう事?」
「簡単な装飾くらいは私でも出来るって事さ。私のプレゼントも似たような作業をしているから、そのついでだ」
ちょっと残念だけど諦めてる……と思ったらリアーネが装飾してくれるらしい。
そんな事まで出来るなんて凄い、けど時間は大丈夫なのかな……
「それは嬉しいけど、そっちの作業が――」
「どうにかしてみせるさ。私に出来る事なら精一杯ね」
心配だから聞いてみたけど、リアーネは言い切った。
凄く真面目な顔、やってやるぞって感じ。
この人もシアの事を本当に想ってくれてるって、あたしには分かる。
ううん、皆もそう。
真剣にシアを想って考えて動いてる。
こんな素晴らしい人達に囲まれて……祝われるのはあたしじゃないのに、あたしが幸せに感じる。
今日は、あたしにとっても大事な日――なのかな。
そして気付けば夕方、大人達が集まってきた。
皆してなんか凄い沢山の美味しそうな物を持ってきたけど、知らない人が料理まで始めた。
あたしは流石に食べ物には手が出せない。料理なんて知らないし、下手な事は出来ないもんね。
あ、ユーリスとか言う奴まで居る。あいつまでシアを祝うのか、なんかムカつく。
きっと純粋にお祝いしようって思ってくれてるんだろうけど、馴れ馴れしいんだよぉ……
というか、完全にあたしは全部眺めてるだけだ。
悔しいけど、分からないまま何かやらかすよりは絶対マシだから我慢しよう。
早くシア帰ってこないかなぁ……
『よしっ、出来たぞ! ギリギリか!?』
『おぉ、リアーネか。まだ大丈夫だ、予定よりも少し遅れる筈だからな』
『凄いな、こんなに作ったのか……この宝石は?』
『それはルナのプレゼントだ。物は良いのに簡素だったから装飾した』
『……よくこれだけやって間に合ったな。色々と大丈夫か?』
『どれも既製品の流用みたいな物だ、そこまでの物じゃない』
『それでも凄いよ、流石だねリアーネ』
『ふふっ、私に出来る事でシアの為になるなら全力にもなるさ』
『それは良いが、気負い過ぎるなよ』
『それこそ大丈夫。――というか予定より遅れるって、何かあったの?』
『……あー、いや、シアがちょっと、疲れて寝ちゃってて……』
『嬢ちゃんは弓の扱いには才能がありそうだった、んだが……好きにやらせていたら全力で続けちまったみたいでな……』
『何してるんだ? 誕生日当日に、当の本人をまた疲れさせて寝込ませるって……』
いやほんとに何してんの!?
話は聞こえてたけど、ほんとに馬鹿だアイツ!
お前の為に皆がこんなにしてくれてるのに、なんで疲れて寝てんの!?
『面目ない、まさか嫌がっていた強化を無理して使ってまで続けるとは思わなかったんだ……』
『とりあえずただの疲労だし、昼から寝かせてるから多分大丈夫だろう』
『まぁ後から外野があれこれ言ったって仕方ないし、大丈夫そうなら良いんだけど……なんだかなぁ』
『多分、お前と同じだ。自分に出来る事ならって、精一杯やろうとしてるだけなんだろう』
『そう言われると何も言えないよ……いや言うわ。それをどうにか制御して支えてやるのが大人だろうに』
『それこそ、そう言われると何も言えねぇわ……』
あぁ、そっか……やっと自分に出来る事を新しく見つけたんだ。
護るだけで、他は全然出来ないってずっと悩んできたもんね。
そりゃあ、そんなのシアなら必死にのめり込むよね。
良かったね、シア。
準備してるこっちからしたら良くないけどね。
そして準備は進んでしばらく経った頃、シア達が帰ってきた。
最初にリリーナが来て、出迎えよろしくって言って戻っていった。
出迎えって何?
どうすればいいのか分かんないけど、とりあえず皆のやる事を見てからでいいか。
「ただいまー!」
「「「「「誕生日おめでとう!!」」」」」
3人が勢いよく家に入ってきたと思ったら、皆で一斉におめでとう。
なるほど、出迎えってこういう事か。あたし言えてないんだけど……
「「10歳の誕生日、おめでとう」」
セシリアとリリーナが遅れて、シアの隣で同じようにおめでとう。
あ、あたしも言わなきゃ。なんか恥ずかしい……
「シア、おめでとう」
ボケっとしてるシアの前まで飛んでいって、とりあえずおめでとう。
おめでとうって何なのか分かんなくなってきた。
ていうか反応が無い。
せっかくあたしが謎に恥ずかしい思いで言ったのに、聞こえてなかったら怒るぞ。
そのまま反応どころか、動こうともしないから抱いて運ばれて行った。
大丈夫かな……機能停止してるけど。
疲れて意識飛んでるんじゃないかな。
なんて思っていたけど、我ながら馬鹿な事を考えてた。
よく考えなくても、シアの様子を見たらすぐ分かるべきだった。
シアが泣いた。
大声で、鼻水を垂らして、真っ赤な顔で、精一杯泣きじゃくった。
こんなの見た事無い。想像もしなかった。
保護された時にも泣いてたけど、あの時とは全然違う。
痛い。胸が痛い。
熱い。眼が熱い。
なんで……あたしまで泣いてるんだろう。
苦しい。切ない。
精霊ってこんな風に泣けるんだ……知らなかった。
遣る瀬無くて、めちゃくちゃで、堪らなくなってシアに抱き着いて泣いた。
シアの前でこんな姿を見せるのが凄く恥ずかしくなってきたけど、多分コイツは気付いてないから大丈夫。
大切な人を想って泣くって、こういう事なんだろうな……




