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第142話 誕生日 あの時ルナは 1

 あたしはルナ、精霊だ。

 今日は凄く大切な日。あたしの親友、シアの誕生日……らしい。


 精霊であるあたしは、どうしたって価値観ってのが人とは違う。

 同じようなつもりでも、やっぱり何処か違うんだ。


 何時何処で生まれるのか自分でもよく分かっていない、不思議に塗れた精霊からすれば、誕生日なんてよく分からない。

 それを祝うって事もさっぱり。というか祝うってなんなのかってくらい。


 でも、分からないなりにも今日という日を、精一杯お祝いしたい。

 だってあたしの一番大切な、親友の為だから。



 だから、今日はシアとは別行動。

 プレゼントなんて分からないけど、とにかく買い物に行く。

 精霊が街で買い物なんて、それもまた面白いかもね。


 もしかしたら、あたしが何をするつもりなのかシアには分かっちゃってるかもしれないけど、良い物が買えたらいいな。

 いや、なんだかんだ分かってないかも。だってお馬鹿だし。


 今までだって誕生日の事なんて一言も話してなかったし、忘れてるかな。

 というか自分の誕生日を忘れるってあるのかな。

 まぁそんな事はどうでもいいや。


 あたしには物の価値さえ分からないから、リーリアと一緒に買い物だ。

 この子、一応シアと同い年らしいけど……しっかりした子だよねぇ。

 なんならシアよりしっかりしてるんじゃないかな。あいつ本当に中身が大人なのか不安になってきたや。


 あぁもう、だからそんな事はどうでもよくて。

 とにかく何を買うのかしっかり考えなきゃ……



「ルナー? 悩みながら飛んでるとどっかぶつかっちゃうよ?」


「ん……わっ!?」


 リーリアに注意された瞬間、気付いたら目の前にお店の看板があってびっくりした。

 街はごちゃごちゃしてて危ない……いや森も同じか。そんな注意散漫になるくらいに悩んじゃってるのか。


「お? このお店綺麗じゃん、宝石だってさ。プレゼントってこういうのがいいんじゃない?」


 ぶつかりかけた看板を見て、ついでに中も見てみれば、そこは宝石を売ってるお店だった。

 指輪とかペンダントとか綺麗な物だしお祝いとして贈るなら良いかも。


「えぇっ!? 宝石なんて多分貰ったお金殆ど使っちゃうよ」


 そういう物なのか。やっぱり価値が分かんない……ちょっと綺麗な石じゃないのか。

 いやでも、もしかしたら高くない物もあるかもしれないし見てみよう。


「ちょっと見てみようよ。良さそうな物探してみるから、リーリアは値段見て」


「えー? ほんとに入るの? あたしみたいな子供が入るお店じゃないと思うんだけど……」


 まぁまぁ、そんな事あたしには知ったこっちゃないし行こう行こう。

 むしろ精霊こそお店なんて入らないんだから、子供くらいどうってことないって。


「やっほーぅ」


 そうと決めればさっさと突入。


「あぁ、ほんとに行っちゃった……ていうか挨拶軽いよ」


 リーリアもさっさと付いてきなよ、こういうのは勢いが大事なんだよきっと。多分。



「うぉっ!? せ、精霊……何の用で?」


 お店に突入してみれば、なんかおっちゃんが驚いて聞いてきた。

 そういう反応はいいから、宝石見せてよ。


「大事な人の大事な日に贈る物を探してるんだ。なんかない? 多少はお金あるみたいだよ」


「精霊が買い物!? 人の為に!? ウチで!?」


 あぁもううるさいな。説明したんだから教えてよ。

 いいや、勝手に見て回るか。


「ちょっとルナ、勝手に動き回っちゃダメじゃないかな」


 だって話進まないし。

 ほうほう、近くで見るとほんとに綺麗だねぇ。でも触るのは流石に止めておこう。

 お、あっちもなんか良さげ。


『あー、えっと、君があの精霊が物を贈りたいって子?』


『へ? あ、いや……あたしはただの付き添いで……ていうかお金なんて1万コールくらいしか使えないんですけど……』


『あぁ、そうなのかい。一応それくらいの値段の物も多いけど、精霊が気に入る物があるかな……』


 あっちはあっちでなんか話してるし、このまま見て回ろう。

 へー……同じ物を2人で持つとかもあるんだ。恋人や夫婦で……じゃあ違うや。

 いやでも……うーん……


『あっという間にお店に入っちゃったからどうしようって思ったけど、ちゃんと真面目に見てる……』


『どうやら本当に大切な人に贈る大事な物のようだね。精霊がそんな買い物なんて信じられないけど、実際ウチに来てるんだから信じるしかないな』


『うぅ……真剣に選んだ物が凄い高い物だったら断るの気まずいよぉ……』


『そこはまぁ、ウチも商売だしなぁ……いやしかし精霊が買ったとなると話題として……うーむ……』


 あっ! これ、凄く良いかも。

 シアの眼と同じ綺麗な青緑色の宝石。でも装飾も無くてただ石をぶら下げたペンダントじゃ、ちょっと普通過ぎるかな?

 でもこれ良いなぁ……


「ねーねー、これ良いと思うんだけど!」


 プレゼントなんて散々考えたって分からなかったんだから、ここはもう直感に従おう。

 この後にピンと来る物が見つかるか分かんないし。値段見てないけど。


「シアちゃんの眼の色だ。確かに良いかもね」


「おぉ、精霊は見る目があるな。そいつは……あっ……」


 あっ……て何? 

 もしかして凄い高い物……?


「それって一体いくら……ひぇっ!? 2万超えてるよ!」


 あちゃ~、残念。貰ったお金が確か2万だったよね。じゃあ無理か。

 なんか、凄く悔しいな……


「それじゃ買えないね……せっかく気に入ったんだけどな。他を選ぶ気にはならないし、もう行こっか」


「えぇ……あっさりしすぎ……ちょっ、待ってよぉ」


 無理って分かったなら居る意味も無いし、別の物を探しに行こう。時間だって限られてるんだから。

 なんか悔しいから居たくないしさ。これはこの人に渡せば元の場所に戻してくれるでしょ。


「ま、待ってくれ!」


「んぁ?」


「はぃ?」


 机の上に宝石を置いて、お店を出ようとしたらおっちゃんから待てと言われた。

 何さ、買えないのに呼び止められてもどうしようもないでしょ。

 それともあたし、何かしちゃった?


「せっかく精霊が買い物に来てくれるなんて凄い事が起きたんだ、このまま帰すのも後味が良くない」


「はぁ……よく分からないけど、それくれるの?」


「え、いやそれは流石に、こっちも商売だし……安くするくらいが精一杯だ」


 どうやら安く売ってくれるらしい。

 値段はよく分からないけど、安くしてくれれば買えるって事くらいは分かってる。


「そりゃそうか。リーリア、いくら使えるの?」


「へ? まだあたしの買い物もまだだし、あんまり沢山お金使っちゃダメだし、1万が限界かも……?」


 買うのはあたしのプレゼントだけじゃないもんね。ここで使えるのは限られてる。

 その辺りはもう2人に任せよう。よく分かんないことを考えても仕方ない。


「さっき聞いた通りだね。1万だと半額以下になってしまうが……この際思い切って売ってしまってもいいかもしれないな」


「うそっ!? そんなの悪いですよ!」


「いいじゃん、お店の人がこう言ってるんだし」


 ちょっとちょっと、なんでリーリアが退こうとしてるの。

 せっかく安くしてくれるって言ってるんだから、そのまま受け取ろうよ。


「なんだか最近は精霊を見たって人が多かったが、君の事だろう? こっちの利益は減るけど、精霊が買ってくれた宝石となると話題にしやすい」


「あたしが買っただけでなんの意味が……」


 話題にして何になるんだかさっぱり分からない。


「精霊をも惹き付ける宝石を売ってるって謳い文句が使えるじゃないか。最近街に来たんなら早い者勝ちだ。他の店が同じ様な事を言い出す前に宣伝してしまおうじゃないか、ってね」


「いや、だからそれになんの意味が……まぁいいや」


 説明してくれたけど、やっぱり分からない。

 ていうか街に来た頃、そこら辺のお店で皆で何回も食事したりしてるんだけど。そこの人達も同じ事を言ってるんだろうか。

 そもそも、それって言っても信じるものなの?

 早い者勝ちっていうか、言った者勝ちじゃない?


「えっと、じゃあ本当に1万コールで売ってくれるんですか?」


「おうとも。商人として利益よりも機会を取る場合だってあるのさ。きっちり1万でいいぞ」


 どうやらこれで買えるみたい。良かった……けど、どうせならもう1つ欲しいな。

 親切にしてくれるなら、あとちょっとオマケしてくれないかな?

 いくらなんでも無理かな……でも言うだけならいいよね。


「じゃあさ、もう1つ欲しいな。大切な人同士で同じ物を持つんでしょ? だから――」


「ぬぇっ!? いや、それは……ちょっと、その……」


 言ってみたら、言い切る前に驚かれて微妙な顔された。やっぱダメか。

 でもなぁ……これを買うなら2つで、2人で持っていたいんだよね。


「流石にわがままだよ、ルナ。こんなに安くしてもらってるのに、そんな事……」


「えー、でも同じの2つじゃないとしっくり来ないし。だったら他の物を――」


 まぁ、わがままだよね。そりゃそうだよね。

 だったら別の物がいいかも。なんかこう、上手く言えないけど、2人でこれを持ちたいってホントに思ったんだもん。

 また探すのは大変だろうけど、1つしか無理なら他の物でいい。


「あ、あーっ! 実はこれ2つセットなんだったぁ! いやー忘れてたよ!」


 また言い切る前におっちゃんの声が。

 どうやら元から2つで売ってたらしい。そんな馬鹿な。


「えぇ……? もう何がなんだか……」


「いいの? やったね、じゃあ2つ買う! リーリア、お金!」


 リーリアは混乱しながら呆れてる。まぁ、言ってる事は正直おかしいしね……

 流石に嘘って分かるよ。でも、こうまで言ってくれたなら有難く買っちゃおう。


「これわざとやってるのかな……あの、本当に良いんですか?」


 お金を出しながらリーリアが確認。わざとって何?

 おっちゃんがいいって言ってるんだから大丈夫だって。


「ぐっ……かなり厳しいが、こんな珍しい事は逃すなと俺の直感が言っているんだ。謳い文句でこれ以上の利益が出るかは分からないが、売ると決めたなら勢いで売ってしまうぞ」


 そうそう、直感は大事だよ。これを選んだのも直感だし。

 そして勢いも大事だよ。さっさと買って次に行こう!


「じゃあ、あの……これ、お金です。本当に良いんですよね? 買っちゃいますよ?」


「いいとも! 決断が揺るがないうちに買って行ってくれ!」


 そうしてお金を払って、ペンダント2つを箱にしまってくれた。

 持たされてた買い物用の袋に入れて、とりあえずあたしが持つ。

 これくらいの大きさならあたしでも持っていられるし、あたしのプレゼントだからね。


「いやー、まさかこんなに早く決まって買えるなんて、良かったぁ。ね、リーリア」


 たまたま見つけたお店で、なかなか良さそうな物を安く買えるなんて運が良い。

 しかも早くに買えたから、この後の時間に余裕が出来た。


「なんか胃が痛くなってきた気がする……」


 朝ごはんで変な物でも食べた?

 それともシアみたいに、その辺の草でも食べた?

 いや、それはお腹痛いって言うか。まぁいいや。


「じゃーねー、親切なおっちゃん。助かったよ!」


「……ありがとうございました。ほんっとうに、ありがとうございました」


 2人でお礼。買ったのはあたしの分なんだけど、なんでリーリアがそんなに?


「ふっ……いいってことよ……子供が気にする事じゃないんだ、構わず行くといい」


 なんとなくおっちゃんもしょんぼりしてる気がするけど、とにかく次に行こうか。

 多分あたしの所為なんだろうけどね。

 気にした所でどうしようもないし、開き直ろう。

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