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第134話 夢見る願い 5

「次あたしー!」


 リーリアも用意してくれたらしい。

 言いながら箱を持ってきて、キラキラした笑顔を見せる。


 受け取ってゴソゴソと開けて中を見てみれば、いくつもの本やノート、ペンなんかが詰め込まれていた。


「急で悩んだけど、シアちゃんは頭良いから、ちょっと難しそうな本とかにした!」


「うわー、面白そうな本ばっかり。ありがとう!」


 言われてよく見てみれば、確かになかなか小難しい本ばかり。


 生物やら魔道具やら魔法やら、と一般的よりも少しだけ深掘りした内容みたい。

 特別専門的という程では無いけれど、少なくとも私達の歳では学ばない物だ。


 私は知能は誤魔化せても、この世界特有の知識はまだまだ知らない。

 学校に行かないのならまさにこういう物が必要だった。

 色々あってそれを考える事も忘れてたね……


 ちゃんと私を見て考えてくれた事が分かるから、これもやっぱり嬉しい。

 同じ事しか言えないけど、嬉しい以外に言えないんだから仕方ない。


「もしかしたらこういう本も意味無いくらい勉強出来ちゃうかもって思ったけど、良かったぁ」


「ううん、なんだかんだ言ってまだ基本的な知識しかないから、助かるよ」


「今度また一緒に勉強しよ。ついでに色々教えてくれたら嬉しいかなぁ」


「勿論、いつでも……は無理かもだけど、嫌だなんて言わないからさ」


 おまけに一緒に勉強する約束もした。お互いに大事な事だし全然構わない。

 あと、鍛錬が無い日はやる事に悩みそうだから助かる。


 リーリアってほんとに良い子だよね。

 私の中身が大人じゃなかったら、こんなしっかりした10歳でいられるか不安だよ。


「ほら、ルナ。最後だよ」


「うー……」


 私達の会話が終わると、セシリアがルナを呼んだ。

 さっきからずっとお腹にくっついたままだったけど、真っ赤な顔でゆっくり離れていく。


 もしかしてルナもプレゼントを?

 あのルナが?


「なにその顔。あたしが用意するのがそんなにおかしい?」


 意外過ぎるからじっと見てたら文句を言われた。

 多分相当変な顔してたかも……うん、口開いてた。


 でも仕方ないじゃん、まさかルナがお祝いどころかプレゼントを用意してるなんて思わなかったから。

 いや、今朝言ってたのはそういう事だったんだって分かるけど……


「だって、ルナが? 全然想像出来ない……」


「そりゃ、お祝いとか贈り物とか全然分かんないし、誕生日だって忘れてたけどさ。頑張って考えて買ってきたんだから!」


「買ったの!? 精霊がお店で買い物って、もう事件じゃない?」


 更に驚くことに買ってきたらしい。

 精霊が買い物なんて、お店の人はひっくり返るんじゃないかな……


「うるさい、もういいから受け取れ!」


 まだ赤い顔で箱を開けて、恥ずかしいのを誤魔化すように怒りながら中身を握って突き出してきた。


 私の眼と同じ色をした宝石のペンダント。

 ていうか……え、宝石? 


「綺麗……だけど宝石って、高かったんじゃ?」


 この世界じゃ宝石は前世程の高価な取引はされないけど、それでも安くも無い。


 しっかり加工されたアクセサリーなら、やっぱりなんだかんだ多少は高い買い物になる筈。そういうお店なんて行った事無いけど。


「知らないけど、なんかお店の人が安くしてくれた」


「なにそれ……て、そっちは?」


 精霊が買い物に来た珍しさで値引き的な?

 多分話のネタとしては物凄い物だろうし。


 そしてルナが持ってる箱に同じ物がもう1つ入ってるのが見えた。2つ買ったの?


「これは、その……あたしの分……」


「自分のも買うなんて、そんなに気に入ったの?」


 意外過ぎる。

 確かにルナは割とおしゃれさんな気はするけど、自分の分もアクセサリーを買うなんて予想外だよ。


「違うよー。シアちゃんとお揃いのを付けてたいんだってさ」


「えっ? ……そっか、ふ~ん?」


 と思ったらリーリアから理由を教えられた。

 随分可愛らしい事するじゃん、ルナのやつめ。


 照れてるルナのほっぺたをツンツンプニプニしてやる。

 だって私もなんか照れちゃうし。揶揄って誤魔化してしまえ。


「や~め~ろ~っ」


 予想外だけど、そんな風に想ってくれてるのが嬉しい。

 本当に嬉しいしか言ってないなぁ。


 こんなに嬉しい事ばかりで良いのか不安になるくらい。これくらい良いよね。



「ちなみに、元はもっと簡素なデザインだったのを私が追加で加工してるんだ。2人で特別だぞ」


 リアーネさん、これも加工したんだ……1日2日しか無かったのになんでそんな沢山仕事出来るんだろう。

 もしかして寝てないんじゃない?


 それはそれとして、私とルナで特別なペンダントって聞くと凄い恥ずかしいな。

 でも……


「小さくて邪魔にもならないし、もうずっと付けてようかな。ね、ルナ」


「つ、付けたければ付ければいいじゃん。好きにしなよ」


 じゃあ付けよう。

 というか、3つも貰ったから急にチャラチャラゴテゴテしだしたな、私。

 どんな子供よ。


 そもそも、こんなちんまい子供に綺麗なアクセサリー複数って似合わないんじゃ……

 いや、せっかく貰っておいて考えていい事じゃないか。

 いやでも……うーん……



「……ねぇ、流石に3つも付けるのって変かな?」


 気になってしまったから、実際どう見えるのかを皆に向き直って聞いてみる。


「――いや?」


「まぁ……大丈夫だよ?」


「その、大事な物だし、良いと思うよ?」


 慰められた。皆微妙そうな顔してるじゃん。皆疑問形じゃん。

 どれも小さいけど、私みたいな痩せて不健康なちびっ子がこんな綺麗なのを3つも付けるなんて……

 アクセサリーに私が負けてるよね……


「うぅ……でも嬉しいから良いや。気にしない」


 複雑だけど、そんな態度を見せるのもとにかく失礼だ。


「成長したら印象も変わるって。ね?」


 それって逆に今は……うん、気にしない。しないったらしないんだ。


「ほら、ルナも付ければいいのに」


「分かった、分かったから自分でやるよ」


 ルナが握りしめてるのを奪って付けてやろうとしたら、恥ずかしがりながらも自分で付けてくれた。


「「えへへ……」」


 2人で顔を見合わせて笑う。

 こうしてお揃いで付けるのは本当に照れくさいけど、なんだか幸せだ。



 でも、とりあえず気分は切り替えて、改めてしっかり皆にお礼を言わなきゃ。

 このペンダントのお金を誰が出したのかも気になるけど、あえて聞かない方が良いかな。


 こんなにしてもらったら、私には返せる物が無いけど……それを気にするのも誰も望んでない。

 素直に有難く受け入れよう。


 ちゃんと皆の顔を見て、感謝を伝えようと深呼吸。


「あの……こんなに沢山の物、本当にありがとう。嬉しいとしか言えなくてなんかアレだけど……本当に、嬉しい」


 こうして沢山の物を貰うのが、どうしようもなく嬉しい。

 その理由も分かってる。


 だって全部、もう無いから。


「私には何も無いから……想い出の物なんて何1つ残ってないから」


 言っていて分かった。

 嬉しいだけじゃないあの涙は、きっとこれだ。


 今朝と同じだ。

 新しい物と同時に、もう戻らない失った物を突き付けられた――気がした。


「何にも無くなっちゃった事……気付かないフリしてた。だから新しい想い出が、嬉しくて悲しくて……」


 理解して思い返してしまえば、勝手にまた溢れてくる。

 だけど、悲しいからじゃない。

 今度は違う。


「ごめんなさい……ぐちゃぐちゃで分かんないから……」


 また皆を困らせる。

 私の事でそんなにつらそうな顔をしないで欲しい。


 そうさせる事を言っているのも自覚してる。もうめちゃくちゃだ。


「でも、本当に、嬉しいんだ……ありがとう。ありがとぉ……」


 それでも、伝えきれない程の感謝の気持ちは、涙と一緒に届くかもしれない。


 泣いてばかりだけど、今は、これが私だって開き直ってしまおう。

 溢れる気持ちと涙と一緒に、全部伝わってほしい。


 今度の涙は、嬉しさだけだ。


 誰も何も言わない。

 だけど傍に居てくれる。温かく触れてくれる。

 これが、幸せ。

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