第132話 夢見る願い 3
ずっと皆が何か言っていたけど、全部忘れた。
いつの間にかソファに移動してるし、やっぱり隣にはセシリアとリリーナが居るし、ルナなんて座ってる私の上に乗ってお腹に抱き着いてる。
「落ち着いたかな?」
「ほら、綺麗にするよー」
隣の2人がそう言ってお世話してくる。
もうお約束みたいになってるタオルで優しく拭かれた。
「ぶぇ……」
まだ少し溢れてくるからか、変な声が出た。
もうこの程度じゃ恥ずかしいとも思わないや。
「うぅ……シアぁ……」
お腹のルナがなんか言ってる。というか、泣いてる?
どうしてルナが泣くのさ、そんなの見た事無いから困る。
「……なんでルナが泣いてるの?」
「だって……シアがそんなに泣いてたら、あたしも……」
私に釣られてなんてそれこそ珍しい。
そういえば保護された時はどうだったっけ?
いや、あの時以上に物凄く泣いちゃったけども。
「シアが泣いたら……あたしもつらいんだ。なんか……痛いんだ。胸がギュッってなる」
そっか。ただ嬉しいだけじゃない私の気持ちを、なんとなくでも分かってくれたのかな。
言葉にすると恥ずかしいし、自意識過剰みたいになりそうだけど、それくらい私を想ってくれてるって事かな。
それは……嬉しいな。
「ん……ほら、ルナも」
リリーナが持ってたタオルを受け取って、一応私の顔を拭いたのとは反対側にして、小っちゃいルナの顔をゴシゴシしてあげる。
「うぶぁ……」
やっぱりルナも変な声が漏れて、思わず2人で笑った。
周りの皆も、私がようやく落ち着いたから安心したのかな、黙って見守ってる。
ていうか、せっかく私の為に用意してくれたのに、凄く待たせてる。
やば、料理とかいっぱいあるのに、冷めちゃったんじゃ……申し訳無いな。
「あの、ごめんなさい。こんなに泣いちゃって。せっかく色々用意してくれたのに、待たせちゃって……」
だからつい、また謝ってしまった。
そんなの皆は望んでないって分かってるのに。
だからやっぱり、皆口々に気にするなって言ってくれる。
それがやっぱり、嬉しい。
「俺らがそんな事を気にするとでも思ってるんなら、ちょっと悲しいなぁ? ん?」
団長が笑いながら言って近づいてきて、大きな手で頭を撫でられた。
「ぅ、ごめっ……ありがとぉ……」
お礼を言ったらまた溢れた。
一体どれだけ出てくるんだろう、干乾びるんじゃないかな。
「あーあぁ……また泣いちゃった」
「仕方ないよ、シアちゃんだって感極まっていっぱいいっぱいなんだし」
「料理なんて後で俺が軽く温めてやるよ。俺の魔法は見ただろ? ちょっと温める程度一瞬でどうにだってなるっての」
2人をまた困らせちゃってる、そんなつもりは無いのに。
そういえば魔法で温めればいいんだった。
それはそれで手間だと思ったけど、団長程の腕ならこの量もあっという間か。
「別に魔道具でもいいけど?」
と思ったらリアーネさんが笑いながら言う。
たしかレンジみたいな物があるんだっけ。魔法で熱を弄ってなんかするやつ。
割と高価らしくて私は見た事無かったけど、この家にはあったんだね。
「どっちも使えばいいだろ。高価な魔道具を見せたい気も分かるが、張り合うな」
そしてダリルさんも。
そっか、作る側からしたらアピールしたいものなのかな。
もっと早くに見せてくれたら良かったのに。
「まぁとりあえず、まだシアもぐずってるし料理は後でいいだろ。先にこっちにしよう」
今度はフェリクスさんが箱を指差して皆に向かって言った。
それ、プレゼント……だよね。
祝ってもらえるだけでもこんななのに、そんなの贈られたらどうなっちゃうんだろう。
「そうしよっか。ほら、シアちゃんこっちこっち」
そしたらセシリアが手を引いて私を立たせて、テーブルの方へ歩いていく。
ルナは落ちないようにお腹にくっついたまま。……セミ?
「剥き出しよりはと思って箱に入れたけど、結局すぐ開けるなら変わんなかったか?」
「ううん、こっちの方がワクワクするから良い」
「そうですよ、分かってないなぁ、ダリルさんは」
「悪かったな……」
そうそう、プレゼントって言ったら箱じゃないとね。
でも気になるから早く開けてもらう。
ちょっと大きめの箱が1つ、小さな箱が3つ、中間くらいの箱が1つ。
まずは目立ってる大きめの箱から。
「誕生日って思い出したのが昨日だったから、1人1つはちょっと無理だったけど、皆で考えて皆で用意したからね」
「気持ちはちゃんと皆の分あるからさ。さて、最初はこれ!」
1人1つなんて貰ったら、それこそ逆に困っちゃうかも。
嬉しいけどどうしていいか分からなくなっちゃいそう。
セシリアとリリーナがそう言って開けた箱には……服?
「普段着のワンピース、運動用の上下、あと上着で1着ずつ。結構良い服だからね、丈夫だし汚れにも強いんだよ」
「大きめに注文したけど成長したら着れなくなっちゃうから、そしたらまた買いましょ」
それってもしかして、ハンターとかが着るやつじゃ?
すっごい丈夫だけど割とお高いやつ……嬉しいけど、いいのかな。
いや、気にしたら悲しませちゃう、素直に受け取ろう。
なにより普通に、本当に嬉しい。
「すごい、軽くて柔らかいのにすっごいしっかりしてて丈夫そう。――ありがとう、すっごく嬉しい」
全体的にシンプルだけど、フリルが付いてたり少し可愛い感じ。
好みまで考えてくれてる。
なんか、感動して語彙が消えてる気がするけどいいや。
「喜んでもらって良かった」
「ただ、これから寒くなってくるのに、冬用の上着じゃないんだよねぇ……そこのお馬鹿のせいで」
「あぅ……だって、シアちゃんに似合うのを考えてたら季節とか忘れちゃってて……」
なるほど、デザインはセシリアが注文したんだな。
小さな子供用のなんて普通には売ってないもんね。
確かに袖が無いから上着としてみたらちょっと涼しい恰好。
ていうかワンピースも袖が無いんだけど、何をどう考えてたんだろう。
別にいいけど、そんなに露出させるのが似合うのかな……
「まぁでも大丈夫だよ、寒くても魔法でどうにかなるから」
山じゃ雪の積もる中でもボロきれで過ごしてたんだから、薄着なんてどうって事無い。
魔法で体の周りの熱を弄ればいいし、慣れてるから消耗も全然気にならない。
むしろそうやって調整して過ごす人も珍しく無いんだし、気にしなくていいよ。
ていうか、思い返せばあの頃は本当にキツかったなぁ……お陰で魔法の扱いは相当上手くなったけど。
「あぁもう、本当に良い子だなぁ」
「私の所為だし、ちゃんと冬服は買ってあげるからね」
リリーナにちょっと激しめにわしゃわしゃ頭を撫でられた。
なんかまたキャラ変わった?
セシリアもまた別で服を買ってくれるらしい。
気にする程じゃないけど、有難く受け取ろうかな。




