第131話 夢見る願い 2
結局全然話さなかったし、離さなかったけど、気が付けば家の前まで来た。
長かったような短かったような、不思議な時間だった。
ていうか今日はセシリアも来るんだね。疲れてないから?
「ごめん、ちょっと待ってて」
もう家に着くのに、リリーナが止まって言った。待つって何?
それを聞くよりも前に、家に走っていって、玄関でなにやらやっている。
気になるけど、セシリアと手を繋いでるから動けない。
「お待たせ。さ、行こう」
しかもすぐに戻ってきた。
なんで玄関まで帰ったのに戻ってくるんだか全然分かんないけど、まぁいいか。
そしてまた手を繋いで歩きだす。もうすぐそこなんだけどな。
ルナと言い、なんか昨日から変な……あれ?
「よしっ、開けるよー」
もう着いた。
なんでドア開けるのに気合入れるんだろう。さっき開けてたよね?
いや、そうじゃなくて……もしかして……
「まさか……ね」
「はいはいっ、行くよ。ただいまー!」
思わず呟いたのが聞こえたのかは知らないけど、なんか焦ってる?
本当に……?
そんなの……だって……
そうして3人で勢いよく家に入ったら――
「「「「「誕生日おめでとう!!」」」」」
沢山の人の声がした。
皆を見て、聞いて。
その瞬間にはもう、思考は止まってた。
「「10歳の誕生日、おめでとう」」
両隣から、もう一度言葉が届く。
「シア、おめでとう」
そしてルナからも。
聞こえてるけど、聞こえてない。
なんにも、わかんない。
「――――」
「――――」
「――――」
「――――」
誰かがなにか言ってるけどわかんない。
体が浮いた気がする……気の所為じゃなくて靴を変えられて運ばれたっぽい。
「……っ」
私は何を見てるんだろう。
だってなんにも見えないんだ。
「ぅ……っく」
朧げにしか見えないんだ。
勝手に溢れてくるんだ。
「ぁ……ぁあ……」
わかんないけど、わかってる。
見えない物も、見えない理由も。全部分かってる。
「うぁ……ぁあああっ」
でも、分かんないんだ。
どうしてこんなに溢れるのか、分かんないんだ。
「ぁぁああ……うわぁぁああっ」
止まんないんだ。声も涙も、全部。
「ぁあーーーっ! ぅああーーー!」
今までに無いくらい、大声でわんわん泣いた。
涙どころか鼻水すら垂らして、噦り上げて真っ赤な顔で泣き叫んだ。
まるで幼児……いや、赤ん坊のように精一杯に。
それでも少しずつ状況は理解出来るようになって、それがまた恥ずかしくて遣る瀬無くて。
きっと盛大に困らせた事だろう。
皆がオロオロしてるのが薄っすら分かったけど、どうしようもない。
頭を撫でられたり、抱きしめられたり、なんとか宥めようとしてくれてる。
嬉しいのか悲しいのか、なんなのか……
でもそう思う時点で、きっと嬉しさだけの涙じゃない。
自分の心がぐちゃぐちゃで分からない。
どれくらい泣いたのか全然分かんないけど、少し落ち着いてきた。
ヒックヒックと勝手に漏れる声に、ずびずび鼻を啜って。
拭っても拭っても零れてくる涙、真っ赤な顔。
きっと凄くみっともない姿。
恥ずかしいけど、どうにもならないから諦めた。
あんな夢を見たから、直前で気付いて期待したから、期待以上の沢山の人と声の衝撃は大きかった。
私の小さな頭と心じゃ、受け止めきれない、処理出来ない程に。
そんな衝撃を引き金に溢れたモノ。
きっと、凄く大事な事。
この街に来てようやく理解して、受け入れて……
今度こそ生まれ変わった【本当の私】としての、産声だったんだ。
自分でも何言ってるか分かんないけど。
そんな小難しい気取った理由を付けなきゃ、とてもじゃないけど居た堪れないんだから、もうそういう事にしよう。
だって、この数日で、自分という認識がしっかりとした物に変わったのは事実なんだから。
この街に来たのが新しい始まりだと思っていたけど、むしろここからがそうなのかもしれない。
そんなよく分からない事を、泣きながら何処か冷静になってきた頭で考えて。
ほんとにようやく落ち着いた。




