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第129話 誕生日 6 才能発見、そしておやすみ

「注意点としてはこんなもんか。嬢ちゃんの力でも引けるような軽さだが、それでも小さな獣くらいは狩れる武器だからな。気を付けろよ」


 一通り教えたので、最後に1つ言い聞かせる。

 たった今彼女が理解した事を、団長は言外に含ませているのだ。


「ん。分かってる……命を奪う武器、だもんね」


 言われるよりも先に理解してはいたが、改めて真剣に返す。

 軽く考えていい筈も無いのだから当然だ。


 そんな彼女の様子に、団長は満足そうにしている。

 きっとこういう所で、歳の割に……とやたら過大評価されてしまうのだろう。


 彼らがシアの本質――ただのポンコツと知る日は来るのだろうか。



「これは練習だ、ゆっくりでいいから1回1回集中しろ」


「武器だって個人で好みや向き不向きがある。どうしても扱えないと思ったら諦めて構わないからな」


 ダリルとフェリクスも、これから実際に使う上で大事な事を伝える。

 先にも言われていたが、弓など当たらなければ意味が無いのでとにかく当てられるようにしなければならない。


 持ち運ぶので矢は有限だし、場合によっては矢を取り落としたり破損したりなんて事もある。

 1本1本が大事であり、無駄撃ちなど出来ようも無いのだ。


 数撃ちゃ当たる……なんて、よく狙った上での話である。

 なんとなくでただ撃つだけでは無意味だ。


 そして扱えない武器を無理して使うのもまた無意味。

 どうにも自分には無理だと思ったなら諦める事も必要だ。


「ん。大丈夫、それもちゃんと分かってる」


 反論などしようもない至極当然の事だからか、シアも素直に返事をする。



「とりあえず試してみろ」


 ひとまず実際に使わせてみようと団長が催促する。

 基本を教えるだけではなく、そこまで見てからセシリア達の方に戻るつもりだ。


 言われた通りシアは矢を番え構える。

 ほんの少しだけ強化をしてしっかりと引き、集中して狙い……放つ。


 初めて故に的までの距離は10メートルも無く、ド真ん中でもないがちゃんと的に矢が突き刺さる。


「お、当たったじゃないか。いいぞ」


 距離も近めで的も大きいが、それでも初めてで当たったからか団長が褒める。

 子供だからと甘やかしているようにも見えるが、多分それも正解だ。


「……なんか思ったより勢い無いような」


「そりゃお前、体が小さいからな。弱い弓で引ききれてないんだから、威力はそんなもんだ」


 しかしシアとしては予想よりも弱いと感じたようだ。


 それもそのはず、体の小さい彼女では一般的なサイズの弓は引ききれない。

 その上かなり弱く調整されているのだから、威力が出る訳も無い。


 ダリルが教えてあげるが……どうやら彼女は、先程色々と理解したつもりでも想像力が足りていなかったようだ。


「それでもさっき言ったように、一応狩りだって出来るからな。――ほれ、もう1回だ」


 それでも押し固めた土壁に刺さるなら団長の言う通り、小動物くらいは狩れるだろう。

 微妙な表情をして残念そうなシアに言い聞かせ、もう1回やってみろと軽く背中を叩く。


 素直に再度集中して射ると、さっきの矢よりも中央寄りに突き立つ。


「おお、上手いぞ。そのまま続けてみろ」


 今度はダリルが褒める。

 そうして気を良くしたのか、2射、3射……と続け、どれもしっかりと命中していく。


 流石にだいぶバラけた位置に刺さっているが、5本を放って外す事が無かったのは甘やかしでもなく素直に褒めて良いだろう。


「距離が近いとは言え、子供が初めて使ったと考えたら充分だな。結構向いてるんじゃないか?」


「えへへ……そうかな」


 なので今度は更にフェリクスも褒める。

 他の2人も横で頷いており、シアは照れくさくなっているようだ。

 3人続けて口々に褒められれば恥ずかしくもなるか。


 だが事実、なかなかに上手い。

 何故かというと、魔法の制御が達者な事が影響している。

 あの特別な力もそうだが、距離と位置を含めた正確なコントロールが出来る。


 全く違う物ではあるが、狙う感覚が似ているのだろう。空間把握が上手いのかもしれない。


 目に見えて的に当てられる事と、褒められた事で調子が上がっているのか……距離を離して続けていく。

 遊びなんかでは無い事は理解しながらも、的当てを楽しんでいるようだ。


 距離を離した事で外す事もあったが……毎回集中しつつもテンポよく放ち、殆どをしっかり当てていく。



「ふむ……予想以上に使えてるな。これは続けていけばかなり期待出来そうだ」


 その様子を見て団長は驚く。

 なんだかんだ貧弱な子供と思ってしまっていたが、予想を超えてくれたシアを嬉しそうに見ている。


「成長して強い弓が扱えるようになれば化けるかもな」


 フェリクスもやはり同じように驚いているようだ。

 あくまでも特別に調整した弓であり、実戦で使われるような物はそもそも使う事も出来ないだろうが、それは将来に期待だ。


「……ただ、既に疲れてるのが勿体ないな」


 せっかく褒めちぎられていたけれど、当のシアは疲れて腕を降ろして息を切らしている。


 ダリルはそんなシアを何処か残念そうに見ている。

 弱い弓だというのに、少し使っただけでこれか……と若干の呆れも混ざっていそうだ。

 才能があってもそれを活かす体が無ければどうしようもない。残念な子である。



「結構疲れる……思ったよりキツイよぉ……」


 腕を上げ続けるだけでも割とキツイと言うのに、負担のある身体強化をしていれば彼女はこうなる。


 それに弓は腕だけで扱う物ではない。

 確実に酷い筋肉痛になる事が分かっているので、それも含め嘆いている。


「まぁまぁ、今はそれも仕方ない。むしろ疲れても当てられてるじゃないか。初めてなんだ、誇っていいぞ」


 団長がシアの頭を撫でて励ますが、まるで娘のように可愛がっているようでなんだか微笑ましい。ユーリスが見たらまた嫉妬しそうだが。


 そしてやはりというか、シアも満更でもない様子。

 彼女の中身を考えれば、セシリア達が相手の時は多少の下心が無いとも言い切れない。

 しかしガチムチのおっさんに可愛がられても喜ぶあたり、純粋に嬉しいと感じているのだろう。


 やはり彼らに父性を感じているのは間違いなさそうだ。

 そうして純粋なのが分かるからこそ、皆に可愛がられるのかもしれない。



「休憩しながらでいいから、そのまま好きに続けていてくれ。くれぐれも怪我は無いようにな」


「はーい」


 シアが予想以上に上手く弓を扱って見せたので、またもや予定よりも時間を使ってしまった。


 丁度区切りもついたので、向こうで待たせている3人の所に行かなければと団長は撫でていたシアの頭をポンポン叩いて歩いていく。


 フェリクスとダリルも続いていき、1人ポツンと残された彼女はとりあえず一旦休憩にする事にした。




 その後もある程度数を撃てば休憩を挟み、ひたすら同じことを繰り返す。


 どうやら彼女自身、ようやく自分に出来る事を見つけられた事が嬉しくて楽しくて仕方ないらしい。


 流石に、今自分が使えている弓が実戦では使い物にならない弱い物だという事は理解しているけれど、それでも嬉しくて堪らない。


 後で確実に訪れる痛みの事は、集中している間は忘れていられるのだろう。

 休憩を挟んでも尚、どんどん疲労していくが……無意識に身体強化を続けて誤魔化しているようだ。


 それはもう、昼食の時間になるまで夢中になって繰り返し……そしてそこでようやく、自分がかなり疲れている事に気付いた。


 一旦気付いてしまうともう無理だったのか、途端に眠くなる。

 怠くて眠くて仕方ないので正直に理由を話し、いつぞやのように団長室で眠りについた。



 正直、周囲の皆は気が気じゃないだろう。


 元々の予定でもそうだったが、シアの誕生日を祝うという理由もあって軽い鍛錬にするつもりだったというのに。

 まさかの本人が疲れ切ってクタクタになってはどうしようもない。


 いっその事、控えていた治癒魔法に頼るのもアリかと考えてしまう程だ。

 頼むから夕方頃にはある程度回復していてくれと願うしかない。


 本当に、つくづく周りを悩ませてくれる人騒がせな子だ。



 そんなこんなで時間は過ぎていき――鍛錬は終わり、セシリアとリリーナは団長室で眠るシアの元へ訪れていた。


 元より彼女達がシアと遅れて帰宅するまでの間に、他の皆が準備を整える手筈になっている。

 シアが寝ている以外は予定通りで、きっと今頃は皆揃って家で料理やらを用意しているだろう。


 時間を置いてと言っても既に随分経っているので、いい加減気持ち良さそうにすぴすぴ眠っているのを叩き起こさなければならない。

 寝ている間に運んでもいいが、完全に寝起きでお祝いの場に突き出すのもよろしくはない。


 というわけで、可哀想だけど起こさないとね……なんて気を遣われて、優しく起こされるのだった。

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