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第126話 誕生日 3 世界共通ってどうなんだ

「さて、じゃあそろそろ行こうかな……シア、準備出来てる?」


「ん」


 立ち上がり、剣を腰に差しながらリリーナが声を掛ける。

 勿論シアもとっくに準備は出来ているというか、武器も何も無いので準備など気持ち的な物でしかない。


「いってらー」


 2人が揃って家を出ようとすれば家族が見送りに来る。

 それもまたシアにとっては嬉しいことだ。

 皆で挨拶を交わし、笑顔で歩きだすシアを見るリリーナも微笑みが零れる。

 逆に珍しくシアを見送る形となったルナは、どこか新鮮な気持ちになった。



「で、だ。私はまた作業に戻るし、もう渡しておこうか」


 2人を見送ったリアーネは、ルナとリーリアへ声を掛けた。

 残った彼女達は其々、今日の準備があるのだ。


 ルナが街へ出るのは1人ではなく、リーリアと一緒に行く事になっている。

 どうしたってお金は必要なので財布らしき袋を渡す。


「はーい」


 勿論受け取るのはリーリアだ。

 小さなルナが持つには邪魔だろうし、なによりも彼女はお金の事など知らないだろうという判断だった。


「ルナ、お金は分かるかい?」


 昨夜からの話し合いの中でも、それについては軽く話しただけなので改めてルナに聞いてみれば……


「分かんない!」


 想像通りだった。

 何故分からない事を自信満々に宣言出来るのか謎だが、お陰で本当に全く分かっていないという事だけはしっかり伝わる。


「だろうね……その中には2万コール入ってる。少し細かくしてあるけどね」


 若干呆れたものの、とりあえず中身についてリーリアに教える。



 この世界の通貨はコールという物で、国を問わず共通だ。

 では何処が管理を……と思うが、各国の代表が集まり自国の経済状況も合わせて話し合い、其々1年での造幣量を決めている。


 当初は好き勝手にやっていたが、共通である以上は巡り巡って世界中に影響が出るのだから当然である。

 国で別れようが、例え形式だけでも協力し合わなければ人類は生きてはいけない。ある意味ではその象徴でもある訳だ。



 物価に関しては地域にもよるが、恐らくは地球の先進国の一般的な感覚で通りそうだ。

 なにせ技術の発展はわざと遅くして、必要な物はしっかり必要な分だけ安定して供給されているのだから、経済だって安定するだろう。


 それが綺麗に行き渡るかと言えばそうとも限らないが……そこはもう仕方ない話。

 どうしたって多少なりとも貧富の差は出てしまうものだ。


 しかしその感覚でいくと、2万とは10歳の子供に持たせるには少し多いような気がしてしまう。



「えっ、そんなに?」


 その感覚は概ね正しいようで、受け取ったリーリアは驚いている。

 予想以上の金額を任された事で、子供ながら不安もあるかもしれない。


「念の為だよ、後で返しなさい。一応ルナの為にも説明しておこうか」


 勿論それを全て使っていいという話ではなく、足りないと困るから多めに渡しているだけだ。

 リーリアなら多少大きなお金を持たせても大丈夫だと信頼しているのだろう。


 物の価値はこれから知っていくとして、お金の事くらいは知っておくべきとルナに説明もする事にした。

 そこまで妹に任せるつもりは無いらしい。



「お金は金銀銅の大小で6種類だ。1コールから10万コールまで、それぞれ桁が増えるだけだから分かりやすいだろう」


 さっき食事をしていたテーブルへ移動し、リーリアに袋から出させて実際に見せる。


 銅貨(1)、大銅貨(10)、銀貨(100)、大銀貨(1,000)、金貨(10,000)、大金貨(100,000)……

 と並べた硬貨の横に紙を置き数字を書きながら教えていく。

 大金貨の実物はこの場には無いので文字だけだ。



「単純だね……それに見た目も。これなら人によっては自分で作れちゃうんじゃない?」


 案外分かりやすい物だったので拍子抜けしたようにルナが呟く。なにより見た目まで単純な作りだったので、特に優れた者なら魔法で作れるのではないかと指摘した。


「ふふ。大規模な魔道具を使って魔力を金属に含ませて作ってるから、例え偽造されても判別は可能だよ」


 当たり前だがしっかりと対策はされている。

 魔力を内包させる、というのは大規模な魔道具によってなんとか可能なレベルの技術だ。

 その魔道具は各国、大きな街のいくつかに点在しており、厳重に管理されている。


「はぇー……どうやるんだか分かんないけど、しっかりしてるんだね」


 精霊でもよく分からない技術らしい。


 しかし実の所()()()()()個人の魔法でも製造は可能だ。

 実際可能な者が居るのかは不明だけれど、偽造が出来ると公言する訳も無いのだから当然でもある。


 そもそも、それほどの実力に至るまでに研鑽を積める精神を持つ者は、偽造なんてケチな犯罪は犯さない。

 というかそんな実力があれば真っ当にいくらでも稼げる。


 なにせあまりにも高難易度だ。

 素材の生成から加工まで全てを魔法で一息に、且つ短時間でやらなければ中に含ませた魔力は散ってしまう。

 なので段階に分けての加工では通用しないのだ。

 正直考えるだけ無駄と言っていい程難しい話である。


 まぁ今そこまで語る事でも無い、話を戻そう。



「確かに魔力が含まれてる……思ってたより小さいや」


 ルナはそのまま1つを持ってまじまじと見てみる。


 実際に触れてみれば、確かに魔力が内包されている事も分かった。

 ただ、物が小さいだけに触らなければ分からない程度らしい。


 どれも円状で桁に合わせて一回りずつ大きくなっている。

 最小の銅貨が直径2センチ程度、ここには無いが大金貨でも直径4センチ程だ。


 価値は大きく変わるというのに、全て小さいというのがルナとしては不思議なのだろう。


「嵩張るからねぇ。この大きさでも纏めてみればこんなだし」


 ただ、その理由は至極単純な話だった。

 説明は終わりという事でリアーネはお金を纏めて財布に戻し、改めて見せる。

 1つ1つは小さくても、やはりかなり嵩張るしズッシリと重い。


「確かに、こんなジャラジャラ持ち歩くのは邪魔だよね」


 体が小さいルナからすれば、こんな袋を持ち歩くなんて邪魔以外の感想が出てこない。

 当たり前に本が普及している以上印刷技術は有るが、きっと紙幣となると偽造防止の点で難しいのかもしれない。


「世界中で使われてるから、今更変えるのも大変なのさ。それに基本的に大金を持ち歩く人も少ないんだ」


 世界共通というのも理由の1つだ。

 少しでも仕組みを変えれば世界中で面倒が起こるし、話し合った所で尚、各国で同時期に変更というのも難しい。


 なにより、基本的に持ち歩く金額は少ない。

 大金を持ち運ぶのは商人、もしくは旅人――シーカーくらいだ。

 そのシーカーだって出来る限り身軽で動きたいので、商人よりも少額になる。



「普通に生活する分にはこれで困らないって訳ね」


 理屈としては理解出来るのか、ルナはその説明で納得した。


 今回は何にいくら使うか決まっていないから念の為に多めに持つだけで、普通の日常的な買い物なら殆どの場合は半分程度で済む。


 金貨1枚持てば大抵の日常的な買い物が出来るのだから楽なものである。

 まぁお釣りで嵩張る事になるが、あくまで例えだ。


「そういう事。とりあえずこれだけあれば足りないなんて事はまず無いだろう。無駄遣いしないように」


 充分な金額を持たせるのは、ルナに物の価値を知ってもらう為と、リーリアに大きなお金を扱わせる経験の為という面が大きい。


 そこまでの説明はリアーネもしていないが、それはあえて言わない事で自然に自分で学んで欲しいからだ。


「あい」


「はーい」


 ルナだけならともかく、割としっかりしているリーリアも居るなら問題は無いはずだ。

 2人揃ってなんとも軽い返事だが大丈夫だと信じよう。



「じゃあ、私は作業に入るからね。何時に出るのかは知らないけど、気を付けて行くんだよ」


 と言う事で、リアーネは作業を始める為に部屋へと向かった。

 彼女も彼女でかなり大変そうである。


 残された2人がいつ家を出るのか、というか買い物の内容も大枠だけで詳細までは決まっていない。皆で相談しても難航していたようだ。


 それにしても……元より気が合う様子だったが、彼女達もいつの間にか仲良くなっていたらしい。

 むしろ今回の件を機に、より距離が近づいている。

 きっと今日のお出かけも、誕生日の件を抜きにしてもしっかり楽しんでくるだろう。


 今まではそこまで深く関わっていなかったユーリスやスミアを始め、シアの周囲では彼女を挟む事で他人同士も繋がっていくらしい。

 シア様様である。


 そのシアに今は悩まされているけれど……良くも悪くも皆の中心となっているのかもしれない。

 と言う感じで綺麗に話を纏めよう。

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