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第125話 誕生日 2 知らぬが幼女

「おはよー」


 丁度朝食が出来上がる頃だったらしい。皆揃ってシアを迎える。

 彼女がお寝坊なお陰で、皆は昨夜に続き話し合いが出来ていたようだ。


 其々が軽く挨拶を返し、自然な流れで席に着いて食事を始める。


「体はどう? 昨日は随分キツそうだったけど」


 昨日は全身痛がっていたが、今は見たところそんな様子は無い。

 シアも鍛錬に行きたがるのは分かっているので、一応ではあるがリリーナは確認を入れる。


「んー……まだちょっと痛いけど、全然大丈夫」


「じゃあ今日も鍛錬に行くんだ?」


 どうやら問題無い程度らしい。リーリアも会話に混ざり、今日も行くのかと訊ねる。


 彼女はシアがどれほど真剣に強くなろうとしているのかも、その事情さえ何も知らない。

 だから同い年の女の子が、そこまで鍛錬をしようとする事が不思議なのだろう。


 あとは恐らく、今日の準備の事もあってシアの予定を知りたいというのもあるか。


「うん、そのつもり。リーリアとはあんまり遊べてないけど……」


「それは気にしなくてもいいよー。あたしだって他の友達も居るんだし」


 最早当たり前にそのつもりではあるが、その分リーリアと遊ぶ事が無くなっている。

 その気持ちは伝わっているらしく、気にするなと返した。

 何よりリーリアにも友達が居るのだから、そもそもシアとばかり遊ぶ訳でもない。


 そういえばシアはまだ同年代の友人が居ない。

 ユーリスは同年代というには少し年上だろう。これくらいの年頃では3歳4歳の差は大きい。



「そのうちリーリアの友達に混ざって遊んできなよ。ずっと大人とばかり居ても、あまり良いとは言えないからね」


 保護者としてもそう感じていたのか、リアーネが少しだけ真面目に言う。

 子供らしく居て欲しいと思うからこそ、常に大人と居るだけなのは彼女としても少々好ましくないようだ。


「学校に行かないにしても、子供同士でちゃんと遊ぶのだって大事だよ」


 学校に行く必要が無い事は確認済みだが、同年代で友人を作らない理由にはならない。

 大人っぽい面があるとは言えやはりシアは子供。

 鍛練をしたがる理由も分かっているけれど、子供は子供らしく遊んで欲しいと感じるのはリリーナだって同じなようだ。


 むしろ周囲の皆も思っている事だが、彼女の意思を尊重してくれている。

 それでも2人がわざわざ口に出したのは、家族として……なのだろうか。



「んー……学校に遊びに行ってみたりとか?」


「うんうん、それも良いかもね」


 元より友人は作るつもりだったが、まさかこんな積極的に鍛錬を後押しして貰えるなんて予想はしなかった。

 だからついつい後回しというか、今は鍛錬を優先したいという姿勢になっているのだ。


 しかしこうも言われては……と、モゴモゴと食べながら考えて思いついた事を呟く。

 まぁ、子供が集まる場所として手っ取り早いのはそこだろう。

 遊びよりも鍛錬だ、なんて言わなかった事にリリーナも満足気に頷いている。


「そうなったらルナは大変かもね。精霊なんて珍しい存在はあっという間に囲まれるだろう」


 その時は当然ルナも居るだろう。リアーネはそう思い、想像出来そうな事態を教えてあげる。

 元気で明るいシアと、同じような性格で珍しい精霊。

 2人が子供達の中へ飛び込めば、それはもう賑やかになるだろう。


 ちなみに、極稀に子供達が遊ぶ中に精霊が混ざる事がある。

 恐らくは精霊の無邪気で純粋で自由な性格が子供と合うのだろう。



「うへぇ……」


 しかしルナは嫌がっている。別にほんの数人程度なら良いが、囲まれたくはないのだ。

 精霊にも個人の性格の違いがあるのも当然か。


「ルナはあんまり人の居る所に行きたくないもんね。ギルドには来てくれてるけど」


 普段街を歩く時もそういう態度を見せているからか、シアはそう言って若干申し訳無さそうな表情になる。

 鍛練に付き添って、人の多いギルドに来てくれているのだ。

 ルナとしてはそれだけシアの成長を重要視している、という事でもある。


 その言葉にルナはうんうんと頷いている。


「あー……そうだ、今日はあたしは別行動。ちょっと街を回りたいんだ」


 しかしすぐに気まずそうに口を開いた。

 人が居る所は嫌だ、という言葉に頷いておいてこんな事を言うのもどうなのか……といった感じか。

 勿論シアと離れて街に出る理由など言わずもがな。


「えっ? 珍しいね。昨日もなんか考えてたし……」


 それを聞いてシアは心底意外そうに驚く。

 シアが家に居る時に何処かに行く事はあっても、完全に別行動として離れるのは初めてだ。


 危険故に当然だが山でも少し離れる程度で、別行動などした事は無い。

 それに加え昨日もなにやら考え込んでいたし、どうかしたのかと疑問に思うのも仕方ない。


「まぁね。あたしだって色々あるの」


 返すルナはやはり理由は語らない。

 つい先程誕生日だと理解して、ここまであからさまに普段と違う言動のルナを見ても気付かないのがシアだ。


 というかそれほどまでに、今までの生活の中でルナと祝い事は無縁という認識なのだろう。

 価値観の違う精霊が、月日も分からない山で何を祝うんだと言われればそうなのだが。


「別にそれはいいけど……目立つんだから騒ぎを起こさないでよ?」


 昨日に続き、またもやあっさり受け入れてしまう。

 ただ、ルナが1人で行動する事に若干の不安があるらしい。

 普段ふらっと何処かに行く時とは事情が違う、という事は分かっているようだ。


「保護者か。というかそれはあたしじゃなくて周り次第じゃないかな」


「それはまぁ、確かにそうかもね」


 ルナにその気が無くとも、周囲が騒ぐ可能性は大いにある。

 なので、それもそうかとシアは納得する。

 騒ぎの種にはなっても、自分から何かしでかす事は無いと考え直したらしい。


 まさにその通りで、ルナは既に家族の一員としての自覚を持っている。

 自分のした事で周りに迷惑が掛かるかも……という判断を曖昧にでも出来るのだ。

 全くもって精霊らしくないが、それが今のルナなのだろう。


 精霊という不思議な生き物ではあるけれど、『人』として受け入れてくれたシアの影響だ。

 だからこそ『人』らしくお祝いもしたいし、皆と一緒に居たいのだ。


 まぁそんなルナの気持ちなど誰にも分からないし、知られるのも恥ずかしがるだろう。

 


 そしてそのまま、時々会話を挟みつつ食事は終わり……多少ゆっくりとした後、リリーナとシアが家を出る時間になった。

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