第124話 誕生日 1 在りし日の追想
というわけで、次の日の朝。
シアの誕生日当日になった。
周りの人がどれだけ頭を悩ませているのかなんて、何も知らない呑気な少女が目を覚ます。
既に皆も起きている時間だ。
一番早くに寝て一番遅くに起きるとは、寝る子は育つ……のだろうか。
ちなみに偶然にもリーリアは今日も学校が休みだ。
この街の学校はどうやら、4日行って3日休みを繰り返しているらしい。
と言っても、学校から帰ってきてからでも充分間に合う時間だ。
休みが多いと感じなくもないが、その休みを各自どう使うかで大きく変わる。
あくまで学校は極一般的な学びの為の場なのだろう。
例えばリーリアは家でも熱心に勉強をしているし、ユーリスは鍛錬ばかりだ。
各家庭、本人の意向でどうにでもなるようにしている……と言えば悪い事でもないかもしれない。
まぁ、それはさておき……リーリアが何を用意するかは分からないが、その為の時間が取れるわけだ。
昨夜シアが眠った後に話し合ったので、ルナもリーリアも何をどうするのかは決まったと思いたい。
その中心人物である当のシアは、相変わらず目を覚ましてもグズグズとのんびりゴロゴロしている。
「んー……むぅ……」
どうやらまだまだ疲労は回復しきっていないようだ。
昨日もなんだかんだで力を結構使っていたのもあるだろうが、治癒魔法に頼り切っていた幼過ぎる体は回復も遅いらしい。
それでも一応、ぐうたらと寝て過ごすつもりはないのか、ゆっくり体を起こしていく。
むしろ今日も鍛錬を頑張ろうという意識は高いままだ。正直、鍛錬のようなモノでしかないのだが。
「あれ……ルナが居ない」
いつも起きた時には傍にいたルナが見当たらないので、目を擦りながら独り言を溢す。
シアには考えすら及ばないが、きっと今日の為に準備か話し合いでもしているのだろう。
「まぁいいか……ふぁ……」
というか居ないからなんだという話だ。
傍に居て当たり前と思うのもよろしくは無いと思ったのか、わざわざ気にするのは止めた。
欠伸をした後、大きく伸びをしてベッドから降りる。
シアはこの伸びをするのが好きだ。プルプルと体を思いっきり伸ばす気持ちよさが堪らない……らしい。
そんなどうでもいい事は誰にも言っていないけれど。
そうしてしっかりと目が覚めたのか、服を着替え始める。
ルナが居ないから会話も無いので、なんとなくここ最近の事を思い返していく。
よく食べ(かなり小食)、よく動き(昨日は全然動けていない)、よく眠る(むしろ寝過ぎ)。
なかなかに健康的な生活だなぁ……なんて思いながら、今日も1日楽しく頑張ろうと意気込む。
「このまま続ければきっと、どんどん成長して体も強くなるよね」
自分としてもしっかり頑張っていると思っているようで、この先を思って前向きな独り言を呟く。
彼女の視線は机の上にあるカレンダーに向いている。
それが目に入ったから最近の事を思い返していたのだ。
今日でこの街に来て11日目。
初日は眠り続けていたので、体感としては10日。
たったそれだけの期間だというのに、思い返せる事が沢山ある事に気付いて嬉しくなったのか、とても柔らかい良い表情をしている。
「あ……」
しかしその表情は真逆の物へと変わっていく。
今日が何日なのか――何の日なのか思い至ったからだ。
「そっか……今日は誕生日だったんだ……」
当日になって気付くあたり、やはり彼女は自分の誕生日を意識していなかったらしい。皆に祝われてからようやく気付くよりはマシか。
けれど何故表情が曇るのか……それは単純な理由。
山に居た頃は当然だがそんな意識など皆無だった。
季節が巡って時間の経過を知るだけだった。
それが今は家族を得て幸せで温かい生活に変わった。
そこで誕生日という物を認識した瞬間、昔の家族を思い出してしまったのだ。
別に忘れた事など一時も無いけれど、それでも父と母に祝われた時を強く思い出していた。
自分が失ったもの、求めるもの、それを改めて突き付けられたような……そんな感情に襲われた。
「……っ! 大丈夫。なんてことない」
気丈にも彼女はその感情を振り切った。
首を振って、ついでに頬をぺちぺちと叩いて気持ちを切り替える。
それでも強く叩かないあたりが彼女らしい。
そうして部屋を出て、顔を洗いリビングへと向かった。




