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第123話 プレゼント 5 悩ませ幼女

 そのやたらと愛されてるらしいシアがトイレに行っているのを、いつまでも鍛錬場で待つ必要も無い。

 というか遅い。また絡まれている可能性がある。


 元より帰ろうとしているのだから、出口……つまりギルドの中へと戻ってしまった方が良いので、そちらに向かう。

 そうしてみれば、ちょうどシアがこちらへ歩いて来るのが見えた。


「シア、こっち」


 今は外へ出ていた者達が戻ってくる時間帯なので、ギルドの中は少し人が多い。

 シアを呼ぶリリーナの元へ、ぽてぽてと近づいて来る。


「もう帰るよ、大丈夫だよね?」


「ふんっ……」


 忘れ物とかは無いかという確認の為にセシリアも声を掛けるが、シアはぷいっとそっぽを向いてしまう。

 先程恥ずかしいネタで弄られたのは忘れていないらしい。


「ああ、怒ってるんだ……」


「ごめんってばぁ……揶揄うつもりじゃなかったんだって……」


 それを見てリリーナは苦笑い。

 怒るにしても随分と可愛らしい態度だ。本当に怒っている訳では無く、単純に不満を表しているだけなのだろう。


 しかしセシリアにとってその態度はダメージが大きい。

 冗談でもシアに嫌われたくないと、切なそうにもう一度謝る。


「あれ? 帰るって、他の皆は?」


 別に許さないなんて思ってもいないのだが、自分からあのネタに触れるのも嫌なのか反応はしない。

 しかし他の人が居ない事に気付いて訊ねた。

 むしろ話を変える事で、例の話は終わりという意思表示のつもりだ。


「姉さんは先に帰ってるし、大人達はちょっと残って仕事だってさ」


「そっか……」


 中へ戻る前に、既に大人達とは話をしている。

 なので姉が先に帰ったことも、他の人が残業というのも聞いているので教えてあげる。


 自分達を見てくれる上に仕事まで……と、シアは少し申し訳なく感じてしまう。

 きっと想像も出来ないほど大人達は大変なのだろうという事くらいは察せられる。



「あんまり気を遣う事もないからね。皆もそれは望んでないはずだから。……とりあえず帰ろうか」


「ん」


 しかしそんなシアの考えは筒抜けだったようだ。

 セシリアは言い聞かせるように優しく言い、そのまま手を差し出した。

 ここから出入口まで遠くもないが、人が多くなっているので小さなシアがはぐれないように念の為だ。

 決してセシリアが単純に手を繋ぎたいからだけではない……筈。


 昨日はこの時間よりは早く帰っていたので、この人の多い状態を知らないシアは素直に手を繋ぐ。

 ちゃんと意図は分かっている……というより素直に手を繋ぐ事で、もう怒ってないよと伝えたいのだろう。


 その態度でセシリアも理解したのか、もしくは手を繋いだからか、嬉しそうに一緒に歩いていく。



「ねぇ、今度からトイレも誰か一緒に来てくれない?」


「どうしたの?」


 歩きながらシアが少し恥ずかしそうに口を開いた。

 一緒にトイレに行ってほしいなんて言うのは恥ずかしいのも当然だが、そう言うだけの事情があるようだ。


「なんか、周りの人の目が……」


「あー……人が多いから……ごめんね」


 どうやら周囲から受ける視線に今更気付いたらしい。

 人が多くなって分かりやすくなったからだろうか。


 シアの言いたい事が分かってリリーナは呟く。

 人の多くなる時間に、普通は居ない子供を1人にさせた事を理解して申し訳無さそうにしている。


「こんなとこにシアちゃんみたいな子が居たら目立つし、誰だって気にするもんねぇ」


「悪い意味で絡むような奴はここには居ないと思いたいけど……」


 それはセシリアも同じであり、少し考えが足りなかったなと反省している。


 悪意を持って接するような者はこのギルドには居ないだろうけれど……だからと言って良いという訳もない。

 大勢の中で小さな女の子を1人にしたというのは変わらないのだ。


「とりあえずまたスミアさんには絡まれたよ」


 嫌な視線ではないので、ちょっとやだなぁ……程度の話だったのだが、2人は思ったよりも真面目に受け取ってしまった。

 そんな彼女達を見て、シアはあえて笑いながら返す。そんな大した話じゃないと言いたいのだろう。


 しかしやはりというべきか、遅かったのはまたしてもスミアに絡まれていたせいだったらしい。


「あらら、あの人も随分とシアちゃんを可愛がるねぇ」


「そうだったんだ。災難……だったね?」


 彼女の意図を察したのかは分からないが、2人はさっさと気持ちを切り替えた。

 絡まれたなんて言い方をしているあたり、今回も相手をするのが大変だったのだろうかと微妙に言葉を濁している。


「別にそこまで。普通だったよ」


 積極的過ぎる印象が強いから、つい絡まれたと言ってしまっただけで特に厄介でもなんでもなかったらしい。


 というのも、スミアは単純にシアを心配して相手をしていたのだ。

 人が多くなる時間帯……知らない大勢の大人の中に居るシアへ、誰かが接するよりも前に絡む事で護っていた訳である。

 スミアもこのギルドに質の悪い輩は居ないだろうとは思っていても、万が一を考えてくれていたのだがそんな事情は誰も知らない。


 シアの返事を聞いて彼女達も認識を若干改めたようだ。



「というかルナはさっきからどうしたの?」


 特に話が広がる話題でもないので、シアはさっきから気になっていた事を訊ねる。

 戻ってきたシアに反応することも無くずっと考え込んでいるので、そりゃあ気になるというものだろう。


「へっ? あー……まぁ、考え事だよ」


 一応会話は聞こえていたようで、ルナは反応してくれるが……言えないというか言いたくない内容なので笑って誤魔化す。


「ふーん、珍しい……」


 いくら珍しいとは言え、ルナだって考え事くらいは当たり前にするだろう。

 まぁそういう事もあるか……とシアは特に追及しなかった。


 気にしてるんだかしてないんだかよく分からない。

 お互い一言だけであっさり終わった会話に、傍の2人は本日何度目かの苦笑い。



 そうしてそのままギルドを出て、時々会話を挟みつつゆっくりと歩いていく。

 しばらく歩けば、途中で残念そうなセシリアと別れ帰宅。


 家族と話したり遊んだりといつも通りの日常を過ごす……と言っても、いつも通りと思っているのはシアだけだ。

 悩んだり作業に集中したりと大変そうなのに、それが自分の事なのだとは思いもしない。


 そうして時間は流れて行き……やはり疲労の所為なのか、シアは早くに眠りだした。

 これ幸いとシアを除く4人は明日の件について話し合うのだが、それもやはり彼女の知る所ではなかった。

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