第121話 プレゼント 3 忘れて欲しい失態
そして割と真面目な大人達とは対照的に、のんびりと疲れを癒すようにまったりと話している彼女達はと言うと――
「あー……今日も直帰しないとキツイかなぁ……ごめんねシアちゃん」
やはり相当疲れているのか、セシリアは今日も自分の家へそのまま帰るつもりのようだ。
残念そうに何故か謝っている。今までが頻繁に入り浸りすぎているだけで、別に普通の事なのだが。
「……何が?」
謝られたシアはよく分かっていないので、一瞬考えたものの首を傾げて聞き返した。
「まるでウチに来れないのをシアが悲しんでるみたいな言い方ね」
「ああ、そういう……」
何故当たり前のように家に来ること前提でいるのか……と呆れながら、説明するようにリリーナが言う。
それを聞いてシアも意味が分かったのか、思い出したように納得して頷いた。
「酷い……ちょっとくらい気にしてくれてもいいのに」
呆れるリリーナと並び、まるで何も気にしていないようなシアを見て、セシリアは冗談めかしてわざとらしく悲しむ。意外と元気そうだ。
「別に……」
とは言え、気にしていない風を装っているだけで多少は残念な気持ちは有る。
そう思われるのが恥ずかしいだけだ。だからなのか、そっぽを向いてボソッと呟いた。
まだ10日程ではあるが、やはり彼女も揃って居る事が日常としてしっかりと染みついている。
「残念ではあるみたいだよ?」
「ルナうるさい」
そんなシアの様子など、ルナからすれば簡単に分かるのだろう。ニヤリと笑って揶揄うように本心をバラしてあげる。
そうすればシアは恥ずかしそうに顔を赤くして反応してくれる。ルナはそれが楽しいのだ。
「あはは、ルナには分かっちゃうんだねぇ……あっ!」
2人の微笑ましい姿に頬を緩ませるセシリアだが、ふと何かを思い出し慌てたように声を上げた。
「急に何? びっくりするじゃない」
「え、あー……その……何でもないよ」
結構な大声だったのでリリーナは驚いて、何事かと文句を言う。
というかシア達もびっくりしているけれど、聞かれたセシリアは誤魔化した。
「よく分かんないけど、忘れ物とかじゃないならもう帰るよ?」
「それは大丈夫。ある意味忘れてた事ではあるけど……」
全く意味が分からないけれど、何でもないなら追及することも無いだろうとリリーナは気にしない事にした。
どうやらセシリアは何か忘れていたらしいが、なんとも曖昧な様子。
「あ、ちょっと待って。先にトイレ行ってくる」
もう帰る、と言われてシアは少し慌てて口を開いた。
のんびりしている間、何故かトイレを我慢していたようだ。
「っ!? そうだね! 早く行った方が良いよ!」
それを聞いたセシリアはなにやら凄い反応を見せた。
素早くシアを見て勢いよくトイレへと追い立てるような様子は、誰がどう見てもおかしい。
「なんでトイレにそんな反応してんのよ。なんか本当に変態染みてきてるような……」
なのでリリーナは、いよいよヤバイかも……と、引きながらも真面目にセシリアを心配する。
付き合いの長い親友がどんどん変態的な言動をしていくようになっているのだから仕方ない。
「違っ、そういうんじゃなくて……えーと……」
おかしな勘違いをされて、それは違うと慌てて弁明するが、なんだか説明さえしどろもどろで言葉になっていない。
「とりあえず行ってくるけど、付いて来なくていいからね?」
「違うんだってば! ほら、また大変な事になってもアレだから……ね!」
身の危険でも感じたのか、シアは怪訝な表情で後退りする。可哀想に、溺愛するシアにまで変態として認識されてしまっているようだ。
なので余計に酷く慌ててしまい、とにかく違うんだと弁明を続けようとして要らん事まで口走ってしまった。
「んなぁっ!?」
まさかセシリアがあの件を引き出してくるとは思いもしなかったのか、がびーんと驚愕してしまう。
あんな恥ずかしいネタで揶揄ってくるのはルナしか居ないと思い込んでいたのに、とんだ伏兵も居たもんだ。
あっという間に顔が真っ赤になっていく。
「ぅあーっ!」
あの時の事を思い出し、それを言ったのが信頼していたセシリアだったのもあり、居た堪れなくなって涙目で叫びながら走っていってしまった。
彼女からすればトラウマ級に恥ずかしい事件なのだろうから仕方ない。
「ああっごめん! そういうつもりでも無くて!」
どうにもセシリアは話をはぐらかそうと混乱していたようで、思わず言ってしまった事を後悔した。
その慌てぶりは傍の2人を冷静にさせる程だ。
「あたしでもそのネタは使いづらいのに」
「よく蒸し返せるわね……」
2人はセシリアのやらかしに呆れている。
シアをフォローしようにも難しい事なので、呆れる以外無いとも言える。
というかルナはむしろ感心しているまである。
揶揄う良いネタだとは思っていたけど、流石に内容が内容なだけに彼女でさえあの日以来控えていたというのに。
「違うんだよぉ……」
シアちゃんに嫌われたかも、なんて悲しみからガックリと膝をついて嘆いている。
既に当のシアは居ないが、それでも否定の言葉を洩らしてしまうくらいだ。




