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第120話 プレゼント 2 幼女に武器を

「僕らも何か用意したいけれど、君の家にある物をプレゼントしたって仕方ないから悩ましいんだ」


 セシルは彼女の家にある魔道具の事もついでに聞いてみた。

 そこが分からないなら何も用意出来ないのだ。


「有用且つ極一般的な物を私が持っていないとでも?」


 しかし聞かれたリアーネは、一体何を言っているのやら……なんて様子で返す。

 確かに、技師として活躍している者が有用で一般的な魔道具を持っていない訳も無かった。

 つまり彼らがプレゼントとして用意出来そうな物は既に家にあるのだ。


「てことは俺達が何か買った所で、良いプレゼントにはならないって事か。ならなんで俺達に案を丸投げしてったんだ……」


 それの意味する事を悟ったダリルが呆れたように言う。

 あんな風に、製作が無理だった場合の為の用意をお願いした意味が全く無かったわけだ。


 他の皆も同じく呆れた目を向けている。頭を悩ませていた彼らとしては怒ってもいいだろう。


「あー……いや、あの時は気が急いて冷静じゃなかったというか……ごめんなさい」


 その事に今更気付いたのか、リアーネは申し訳無さそうに答えた。

 どうやら意外にも冷静ではいられなくて完全に抜けていたようだ。

 いや、別に意外な事でもないかもしれない。


「じゃあ俺達は本当に何もしてやれないな……なんか無いか?」


 とりあえず呆れていても進まないので、団長は改めて自分達に何が出来るのかを考える。

 自分の事だけでは無いので、皆に相談する形として訊ねた。


「美味しい料理でも用意してあげて欲しいな。それなら私はギリギリまで作業に集中出来るからさ」


 とは言えすぐに答えの出る話でもない。

 そして時間に余裕があるとも言えないので、美味しい物を用意してあげるくらいが落としどころだろう。

 料理をする時間を作業に当てられるので丁度良いとも考えたらしい。



「結局間に合うのかどうかが問題だもんね。とりあえず大丈夫そうなのかな?」


 一番重要な事をセシルが訊ねる。

 今の彼女の言葉からして、ギリギリ間に合うかどうかと言った感じだ。

 ただしそれは装飾も含めた魔道具全体の形の調整である。


 と言うのも、術式を刻むだけが技師ではない。

 例えばアクセサリーとして持てる魔道具があるが、その装飾まで技師がやる場合が殆どなのだ。


「ひとまず武器を形作るとこまで出来てしまえば、後はどうにかなる筈。それがなかなか難しいんだけどね」


「武器の形ってのは難しいもんなのか?」


 武器の設計が難しいらしいが、そこさえ出来ればあとは大丈夫と確信しているようだ。

 それを聞けて皆は安心と同時に不思議がっている。

 細かい装飾だって出来るのに、分かりやすい武器という形が難しいのかと団長が訊ねた。

 

「なにせ剣や矢を作る魔道具なんて無いからね。今まで作られていない理由までは詳しく知らないけど、私には武器の造形なんて上手く出来ないよ」


 常日頃から触れている彼らとは違い、剣などの武器について詳しくない彼女には細かい所まで考えづらい。

 実物を参考にしながら時間をかけなければならないのだ。


「まぁ、石や氷で武器を作ったところで、本来の武器以上にはならないからな」


「矢なんて細長い物は特にそうだな。重いし砕ける。手から離れるから魔装も使えないし」


 ぼやく彼女に、一応そういう魔道具が存在しない理由を教えてあげるフェリクスとダリル。

 やはり実戦に立つ彼らの方が詳しいようだ。


「逆にあの力なら矢は向いている訳だ。矢としても軽すぎるが、耐久面では最高だ。剣としては良くは無いが仕方ないだろう。持ち運ぶ必要も無く壊れないだけで充分だ」


 2人の説明に団長が補足を入れる。シアの力で作られた物は殆ど重さが無いが、硬さは最早語るまでもない。

 欠点は魔力の消費と軽すぎる事だけで、後は良い事尽くめなのだ。

 ちゃんと使えれば、の話だが。



「しかし形ねぇ……あの子が剣をまともに使えるとも思えないし、むしろ軽くて余計な怪我をしかねないから片刃にした方が良いかもな」


 フェリクスが助言をしてくれた。

 利点を活かすなら異常に硬く鋭い剣になるだろう。扱いに全く慣れていないのに、そんな軽すぎる剣は危険だ。

 せめてまだ扱いやすい片刃ならマシだろう。


「そうか……やっぱり危ないから、気の早いプレゼントになってしまうかな」


「今更気にする事じゃないだろう。遅かれ早かれ結果は同じだ」


 危険だという事を教えられ、今更になって武器をプレゼントするのはどうなのかと考えてしまったようだ。

 しかしいつかは武器を扱うようになる筈だ。

 ならばむしろ今が良い。危険が無いよう教える為に彼らが居るのだから。


「逆にこれを機に武器の扱いも学んでいけばいいだけさ。丁度いいから明日は弓でも使わせてみるか」


 まさにそう伝えるダリルは、そんな事は気にしなくていいと励ます。

 そして言いながら思いついたのか、明日シアに試しに弓を使わせてみようと提案をした。


「シアちゃんに使えるような弓はここには無いけど……どうするんですか?」


「使えそうなやつを用意しておく。それなら疲れてクタクタになることも無いだろう」


 ここにある物は大人用の、少なくとも実戦で使えるような力の要る弓だ。

 そう進言するセシルは見ていないが、昨日の時点で既に触って使えないことは分かっている。

 そこはしっかり考えてあるようで、非力な子供のシアでも使えるような弓を用意しておくらしい。


「その辺りは私には触れようがないからお任せするよ。――いつまでも居たって仕方ないし、私は一足先に帰ろうかな」


 そこは彼らに完全に任せる事になってしまうけれど、信頼もあるので不安は無い。

 とりあえず助言も貰えたし時間に余裕がある訳でもないので、もう帰って作業に入るつもりのようだ。


「分かった、皆には伝えておく」


 それをわざわざ引き留める事情も既に無い。

 皆頷いており、セシルはその事をセシリア達に伝えておくとだけ言って彼女を見送った。


 ひとまず彼女の作業は間に合うと信じて、美味しい物を用意……というかまず考える事からまた始まる訳だが、今度は誰も悩まない。


 むしろ団長あたりは自分も楽しむ為に張り切っている。

 それは悪い事でもないし、そうして楽しんでもらった方がシアも変に気を遣う事も無く済むというものだ。

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