第119話 プレゼント 1 意外とあっさり作れた
鍛錬が再開した後、何故かリアーネが戻ってきた。
そしてシアとずっとなにやら作業を続け……そんな事をしているうちに夕方になり今日は終わろうと皆は鍛錬を切り上げた。
お祝いの件もあり昨日よりも遅い時間になってしまったが、それでも本来の仕事が終わる時刻と同じくらいだ。
その後はセシリアとリリーナはシア達と、大人組はリアーネとで別れ離れた場所で話し合っていた。
セシリア達は多分なんてことないただの会話だろうが、大人達は例の魔道具のプレゼントの件だ。
昼食の時にリアーネへ連絡はしていたが、まさか連絡を返すのではなくギルドまで来て、そのまま作業を始めるとは思っていなかった。
しかも作業に没頭しているばかりで、結局進捗や彼らがどうすればいいのかは分からないままなのだ。
「で、どうなんだ? あの子の力で作れそうか?」
どうやらダリルは、プレゼントという事を抜きにしても単純に物として気になっているらしい。
あとはまぁ、作れるのかどうか分からなければ彼らも動きようがないからでもある。
「うーん……作れると言えば作れるんだけど……」
「曖昧だな。何が問題なんだ?」
聞かれたリアーネはなんとも煮え切らない様子で答える。
魔道具製作の事情など想像も出来ない団長は素直に訊ねた。
「試しに物凄く簡単な仕組みで、小さな壁を発生させる物を作ってみた」
説明するより見せた方が早いと判断して、リアーネは懐から加工済みの魔石を取り出して一番近かったダリルに手渡した。
小石程の青い宝石のような物だ。
魔石とは色も形も様々且つ綺麗な物だが、宝石よりは脆いのが特徴だ。
加工された見た目ではそれらは区別出来ないが、魔力の塊なので判別は出来る。
ちなみにこの世界で金属や宝石は、安くは無いが特別高価な取引もされない。
魔道具で生産出来るし、限定的だが個人の魔法でも生み出せるのだから貴金属とさえも呼ばれない。
希少性が無ければそういう物なのだろうが、まぁ今はそんな事は置いておこう。
「これか? なにも起きないが……失敗なのか」
彼女が渡したそれは、ここに来てから製作したものなので本当にシンプルな作りだ。むしろ作業場でなくとも作れるあたりに彼女の技術が伺える。
受け取ったダリルはとりあえず魔力を通して、普通の魔道具と同じように発動させようとしたが何も起こらなかった。
「違う、あの子しか使えないんだ。普通の属性とは違って、あの子以外には使えないみたいだね」
どうやらシア以外には使えないらしい。
しかし彼女だけだろうと使えたのなら、間違いなく成功はしている。
「それは……どうなんだ? 良いのか悪いのか俺には分からん。あの力……アルカナって呼ぶようにするんだったか。アルカナの機密性という意味ではかなり良いと思うが」
どこか残念そうな言葉に、フェリクスは考えながら返す。
とりあえず新しく決まった名前で呼ぶが、これはこれでしっくり来ない。日が経てば慣れるだろうか。
ともかく、シアの力――アルカナを出来るだけ隠したいのなら、例え紛失した場合でも他人には使えない魔道具というのは利点に感じられるが……
「その通りだけど、実際に試しながらの調整が出来ないんだよね」
「そりゃあ面倒だな。製作する側からしたら堪ったもんじゃないだろうよ」
困ったように返すリアーネに団長は同意した。
技師としての事情など分からなくとも、魔道具が繊細且つ複雑な調整が必要だという事は想像出来る。
フェリクスの言う通り良い事ではあるのだけれど、それを作る側としては面倒でしかない。
「うん、だから一旦土塊で形作る魔道具を用意して、その術式を転用してどうにかしようかな、と」
とは言えそこはリアーネも解決策は考えているようだ。
先に粘土などで成形する魔道具を作ってしまえば問題は無い。
形作るという点で見れば同じであり、二度手間ではあるけれど確実な方法という訳だ。
完成した後で実際にシアが使ってみて問題があれば都度修正すればいい。
その程度の調整はどんな魔道具だって同じ事でもある。
「なるほど、それなら確かに同じ事が出来るのか。しかしシアだけにしか使えないとは……やはりあの子しか持たない属性なんだな」
「適正の差は有れど、他の属性は皆使えるからな。これも1つの証明になるってわけだ」
皆はその彼女の案に納得したのか、これなら製作は確実だろうとひとまず安心したらしい。
フェリクスとダリルは改めてシアの力の特別さに呟いた。
どんな魔道具も適正に関係無く使えるのは、誰でも最低限は一通りの魔法が使えるからだ。
その大元となる魔力によって発動させられる訳で、それが通用しないシアの力はやはり特別であるという証明になる。




