第112話 強度実験 2 一応ギルド内ですけど
「あ、すまん、いつも使う球体で頼む。コイツを包む感じで」
「石? なんで積んでるの?」
しょんぼりしているユーリスは無視。
ダリルはシアに要望を伝えながら、障壁の傍へ魔法で拳大の石を作り出しわざと不安定にズラしながら積んでいく。
ビシッと整った綺麗な正方形の石で地味に凄い。
適正でなくとも制御が上手いあたり、やはり彼は魔法に関しては相当な腕らしい。
「護られてる内側への衝撃も見れるかもと思ってな。それで出来るだけ離れてくれ」
石を積み終わった彼が言うには、内部への衝撃も見たいから、らしい。
確かに内側に衝撃が伝われば、不安定にただ積まれただけの石は揺れるなり崩れるだろう。
手元に何も無かったから石を作っただけらしい。
出来るなら障壁の中にいくらか水を注げば分かりやすいだろうが、完全に遮断された空間には誰であろうと魔法は発生させられない。
シア本人だけは障壁を越えて魔法を発生させられるけれど、それでも直接突き抜ける事は不可能である。
そしてシアが障壁越しに魔法を使える事を知っているのは、ルナを除けば先の喧嘩で見たユーリスくらいだろう。
なので彼女に頼んで水を注いで貰う考えなど誰も無い。
「これくらい離れればいい? 遠いと結構つらいかも」
とりあえず言われた通りに石を障壁で包み、ある程度歩いた所で止まり正直に負担を伝える。
どうやら遠くなるほど制御が難しく負担も大きくなるようだ。
「よし、じゃあ全員シアの辺りに集合。本気で攻撃するから危ないぞ」
つらいと言っている以上ゆっくりするのも可哀想だ。ダリルは素早く皆に指示を飛ばし移動する。
本気で攻撃と言ってもここはギルドの鍛錬場、範囲は相当絞るつもりだが危ないのは変わらない。
「うーし、なら最初は俺がやろう」
「ん。いいよ!」
全員がシアの周囲まで離れたのを確認して、フェリクスが大剣を手に1歩進み出た。
団長とダリルが頷いたのを見て、彼はシアを見て確認する。
彼女のゴーサインを聞いて、全身に力を漲らせて踏み込んだ。
突風を纏った大剣での渾身の一振り。
それが障壁へと当たった瞬間、轟音と衝撃波が広がる。
風圧で地面もなかなか広く抉り、後ろの皆にまで風が届いた。
「ほぅ……」
打ち込んだフェリクスの感嘆の声が聞こえる。
どうやら障壁はビクともしていないようで、中の石も多少揺れた程度だ。
かなりの威力だったのだがしっかりと防ぎ切った。
皆揃って、なかなかに驚いている。
「これを防ぐか。思った以上かもしれないな」
冷静に観察しているダリルは、次は俺だと言わんばかりに前へ出る。
「待て。地面が抉れてるとこにお前の魔法を撃ったら、下の地面が吹き飛ぶ。ユーリス、地面を均して思いっきり硬くしてくれ」
やる気満々なダリルへ団長が制止の声をかけ、ユーリスに地面の補修と補強をさせるように伝えた。
確かに障壁の下の地面が吹き飛んだら、宙に浮く事になりシアの制御が変わって予想外の事態になりかねない。
「なんで俺……まぁいいけど」
この場で地属性に適正を持つのが彼だけなのだから仕方ない。
言われたユーリスは文句を言いながらも綺麗に地面を均して、出来る限り硬く押し固めた。
ノロノロとやっていたらまた怒られそうなので素直に素早く動いているらしい。
「じゃあいいか? ……いくぞ」
確認をしてからダリルは魔力を練り上げていく。
腕を突き出した彼の周囲にも雷が走り、如何にもとんでもない攻撃をするのだと伝わってくる。
先のフェリクスの攻撃を防いだ事から、生半可な威力では実験にならないと考えたのだろう。
時間をかけて集中し、実戦では簡単には使えないだろう魔法を放った。
轟音と閃光と共に撃ち出すのは先日のグリフォンにも使った雷の槍。
だがしかし威力は数倍ほどもある。ダリル自身も反動を受けたのか大きく仰け反り、後ろの皆にも衝撃波が伝わる。
宙を駆ける雷は障壁に当たり、爆音と雷を轟かせ炸裂する。せっかく硬くした地面もまたもや広く深く抉れてしまった。
威力はともかく範囲は極力絞ったのにも関わらず、これほどの魔法とは……やはり彼もまた、この街でトップクラスの実力なのだ。
「おいおい、殆ど全力だったぞ。マジかよ」
障壁は依然としてそこにしっかりと存在していた。しかし中の石は大きく揺れ、いくつかが崩れていた。逆に言えばその程度の衝撃しか伝わっていないのだ。
その予想以上の防御に、流石のダリルもかなり驚いている。
「精霊が誇らしく言うだけあるな。おい……」
「はいはい、やりますよ」
団長も随分と真面目な顔で見ている。次は彼がやるのだろう。
もう一度ユーリスを見て声を掛ける。
それだけで何を言いたいのか分かった彼は、大人しく地面を均していった。
今のを見て、更に広範囲で念入りに補強する。
どうせ呆気なく抉れるだろうが、それでもやらないよりはマシだ。
内心、あの護りがあまりにもヤバイ物だと認識を改めてビビっているのだが、それはしっかり隠している。




