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第111話 強度実験 1 本人も知らない

「なんで喧嘩になるんだお前達は……」


「険悪ではないし、もういいだろ。放っておけ」


 眺めていたフェリクスは呆れ、ダリルも無駄に関わる事も無いと放置を決めた。


 もっと険悪な雰囲気なら口も挟むが、ユーリスもなんだかんだ本気で怒ってはいないし、3人揃って楽しんでるように見えなくもない。


 それもそのはず――彼は団長に言われた通りに、自然とシア達と仲良くなろうと思っている。

 弄られてムカついてはいるけれど、それで心を開いてくれるなら構わないと考えているのだ。


 年頃の男の子としては、年下の可愛い女の子と仲良くなるなど気恥ずかしいが、弄り弄られなこの調子ならそんな事もないのだろう。

 なんだかんだ根は随分と良い奴らしい。



「シアちゃんの珍しい面が見れるから私も別にいいかなぁ……」


「それでいいのかな……?」


 そう思ったのは彼女達も同じらしい。

 呑気な事を言うセシリアに突っ込むリリーナだが、珍しい一面を見れる楽しさや嬉しさを感じているのは自分もなので、あまり強くは言えない。


「というか、そろそろ話を進めていいか?」


「そうするか。おい、そこ大人しくしろ」


 なかなか微笑ましいように思えなくもないが、とりあえず始めようとフェリクスが話を切り出した。

 先程言っていたシアの障壁の実験だ。

 ぎゃーぎゃー言い合っている奴らにダリルが注意して場を整える。


「話? 何の事だ?」


 ユーリスの説教で離れていた団長は当然知らないので訊ねた。

 シア達も素直に大人しくなって話を聞こうと彼らを見る。


「シアの障壁が実際どれほどの防御なのかを試してみようってな。盾として使っている以上、限界を知らないと危ないし」


「私の?」


「そうだ。自分では強度の限界を知っているかもしれないが、俺達は知らない。それにお前、今までも全部防ぐだけで避けようとした事ないだろう」


 昨日も障壁については話して実演していたけれど、また自分の話だとは思っていなかったらしい。

 軽く首を傾げキョトンとしている。


 いい機会だからついでと言わんばかりにダリルはシアの問題点を指摘した。

 昨日多少なりとも体の動かし方等を教えていて気付いたのだ。

 彼女は今まで、危ないと思った物を全て防いで生きてきたので避けるという意識が無い。

 そこに体の貧弱さも相まって動きが全体的にトロい。


「あー……うん……ていうか限界なんて知らない」


 言われて自分でも思い至ったらしい。

 しかも強度に関してはルナが色々試しただけで、実の所自分でも限界など知らないのであった。

 少なくとも精霊であるルナに破れない以上、途轍もない強度だという事だけは分かって安心していたのだ。


「そもそも、自分の力が魔力障壁の延長と考えていた所からして、体は魔力障壁で護ってないんじゃないか? むしろ同時に使えるのか?」


「あ、そっか。でも……やってみなきゃ分らないけど多分出来なさそう」


 ダリルはそのままシアへと予測を交え問いかけた。


 これも彼の言う通りで、彼女は自分の護りが魔力障壁を発展させたものだと思い込んでいた。

 だからこそ本来の魔力障壁は使わなくなって久しい。

 そして彼女の力はかなり集中が要るので、同時に出来たとしてもあまり強度は無いかもしれない。


「なら仮に障壁を突破なんてされたら、あまり言いたくないが多分死ぬだろうな。どこまで防げるのか知って、無理そうなら避ける判断が出来るようにならなきゃな」


 という訳で調べる必要があるんだぞ、と話を纏めた。



「なるほどな、確かにそりゃあ大事だ。だから今なのか」


「勿論シアの負担次第で止めるがな。今は特につらくはないか?」


 話を聞いて納得したのか団長が頷いている。

 鍛錬の後では力も出しづらいのだと、言わずとも理解してくれたようだ。

 フェリクスはシアを見て、この実験が出来そうなのか確認をする。


「大丈夫。途中で厳しくなったらちゃんと言うから」


 とりあえず今の所は問題無い。

 そして下手に心配かけたくも無いので、つらくなったら素直に言うつもりのようだ。

 ダリル達に迷惑を掛けた事から、その辺りは真面目に考えているらしい。


「よし、じゃあ早いとこ始めようじゃないか。余計な事で随分と時間を取られてしまったしな」


 大丈夫ならさっさと始めようとダリルがやる気を出した。

 貴重な時間を取られた恨みなのかユーリスを見て嫌味を言っている。言われた当人は気まずそうにしているが何も言えない。


「どうやって調べる? 嬢ちゃんを攻撃すればいいか?」


「そんな事するわけないだろう。多少離れたところに作ってもらいたいんだが……出来るか?」


 団長が具体的な方法を聞くついでに、笑いながら冗談を言った。

 流石にシアに向かって攻撃などする筈が無いのだが、彼女は言われた瞬間ビクリと反応していた。

 戦いに関する事にはやたらと厳しい大人達だ。

 もしかしたらやりかねないと思ってしまったのかもしれない。


 そんなシアを見て苦笑いしながらフェリクスは彼女に向かって訊ねる。

 そもそも離れた位置に作れなければ実験出来ないので、無理なら他に安全そうな方法を考えなければならない。


「ん、分かった」


 自分を攻撃するわけではないようで安心して息をついてから返事を返した。

 離れた位置に作るのは距離によっては厳しいが、無理ではない。


 言われた通りに壁を作り出す……ユーリスの前へ。


「え? ……俺じゃねーよ! 俺を的にしたいってのか!?」


 何故か目の前に現れた壁に一瞬呆けたものの、すぐにシアの意図を察して壁を叩きながらつっこむ。面白い奴だ。


「違うの?」


「当たり前だ!」


 わざとらしく首を傾げて言うシアへとギャーギャー憤慨しているが、周りは笑っている。

 彼が完全にそういうキャラとしてシアに認識されてしまった事が、周りの人達からしても面白いのだろう。


「別に構わないが」


「そんな馬鹿な!?」


 尚も笑いながらダリルが言うと、またもユーリスは叫んだ。

 皆笑っているし冗談なのは分かっていて反応しているので、どうやらノリも良い奴のようだ。


「冗談だ。さっさとどけ」


 しかしそんな遊んでいたって仕方ないので団長は容赦無く言う。


「なんか皆して扱いが……」


 そんな言い方も含めての冗談ではあるのだろうけれど、いきなり皆の扱いが変わった事に気付いて落ち込みながらノロノロと歩いて壁から離れた。


 今までも親しいと言える程では無かったが、それでも接点のあった人達にまで弄られキャラとして扱われる事にショックを受けてしまったらしい。


 シアとルナが完全に彼をそういう扱いにして、それに面白い反応を返してあげていたせいだ。

 彼の人の良さが招いたキャラ付けだろう。

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