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第11話 始まりの追憶 7

「私だって……護れるんだ!」


 私が唯一出来る事。身を護るための壁。これだけは絶対に熟練しろと言われた防御。

 さっきは愚かにも使えなかったそれは、今まで繰り返した中でも見ない最高で最硬な壁――仄かに光る半透明の壁となって目の前に現れる。


 いつか考えていた、体を覆うのではなく壁として作り出すもの。

 自分以外も護れるもの。


 本来目に見えない筈なのに、物質として存在し見える程のそれは、なんの苦も無く攻撃を防ぎ流した。


「シア!?」


 お母さんは驚愕の声を上げながらも隙を逃さず再三暴風を吹き荒らし、今度こそズタズタに引き裂き魔物は消滅した。


 経験した事の無い程一気に魔力を消費した所為で、意識が飛びかけるも歯を食いしばって耐える。


「これは……魔力で壁を? しかも見えるなんてこんなのは聞いたことも……」


 困惑したような表情をしながらお母さんが言う。

 ダメだ、消耗が酷すぎて意識を保つのが精一杯だ。障壁を維持するだけのことも出来ず消えていく。


「……っ……はぁっ……はっ……」


 息も荒く、これじゃ自力で逃げるどころじゃない……


「シア……! つらいだろうけど、このまま逃げるわよ」


 普通じゃない障壁を気にする暇は無いんだろう。

 酷い怪我を負っていた上に、一気に大量の魔力を消費した私が衰弱した事を悟り、お母さんはそう言いながら私を抱えてまた走り出す。


 せめて自分で動ければ……まだ脚も治ってないし、今のでもう動ける気がしない……


「お母さんは……背中、大丈夫……?」


「これくらいなんてことないわ、大丈夫。でも……ごめんね、治療は待ってて……」


 さっきのお母さんが受けた背中の傷は出血が酷いのに……絶対大丈夫なんかじゃない。

 多少は治したみたいだけど、たったそれだけじゃあまり意味が無いような……でもそうか、体力も魔力も限界が見えてる。

 この先もまだまだ襲われる事を考えたら、これ以上魔力を使っていられないのかもしれない。


「そんなこと……ごめんなさい、自分で治せれば良いのに……もう……」


「大丈夫、大丈夫だから……安心して……絶対守るから……」


 お互い意識が朦朧としながら走る、走ってくれている。


「シアだけでも……あなただけは、絶対に……絶対に……護るからっ……」


 聞きたくない。それはダメだ。

 私だけじゃ……お母さんだって一緒に……

 お父さんを失って、お母さんまで……そんなの生き延びたって……




 お母さんに抱かれ進む。

 少しずつ周りに生きている人が増えてきた。

 戦いながら護りながら、声を掛け合いながら……力尽きながら。何人もの人が進んでいく。


 相変わらず地獄のような光景だけど、やっとの思いでようやく北門に集まる人達に合流出来た。

 北門では生き残った人達がギリギリの理性でなんとか統制されて、残った数台の魔動車に次々と乗り込み街を出ていく。


 元々台数は多くないのに、既にかなりの数が出てしまってる。残るはほんの数台……

 乗り切れなかったら最後、どう足掻いても見捨てて置いていかなきゃならない。

 それを悟ってか最期まで戦う為に残る人達もいる。


 誰を乗せ、誰が残るのか。

 非情な決断をする――よりも前に。


 多少なりとも安心した人達を嘲笑うように、覚悟を決めた人達を蹴散らすように、 頭上に現れたそれは。


 襲撃で最初に見た、巨大なドラゴンの姿をした魔物。

 結界を突破し街を破壊し続けた、絶望と恐怖の権化。

 一切の逡巡も無く、当たり前のように、大きな口を開けて破壊的なエネルギーの塊を放った。


 それが着弾する直前、私はもう一度障壁を張った。

 とうに限界だった筈なのに咄嗟に、一瞬で展開したそれは。


 私とお母さんだけを包み――爆風の中で砕けた。

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