第109話 決闘もどき 9 お尻の話
「ていうかそんな物刺されたらそりゃ痛いでしょ! 本当に大丈夫なの!?」
「服に穴はないけど……可哀想に……」
痔だのなんだの言ってたのはつまり、そこに直撃したというわけだ。
そういう事かと今更理解して、リリーナは慌てて確認する。
確認といってもこんな所で直接見るわけにもいかないので聞くだけだが。
セシリアもしゃがんでシアのお尻を観察している……が、その行動はどうなんだろうか。
なんだか彼女が危ない癖を持っていそうな気がしてきた。
そのままお尻を撫で始めてもおかしくないかもしれない。
「え、あー……一応先っぽは丸かったし、さっき言った通り傷も無いし大丈夫だよ」
既に知られていると思っていたから恥ずかしさはなんとか耐えられていたのだが、それは勘違い。
今ようやく全てを理解された事に気付いたシアは、今更になって顔を赤くしている。
「石も大きくて刺さりまではしなかったしねー」
「座ろうとしたとこに……石が突き出て……ね」
ひとまずシアの尊厳の為にも、流石にズブリといった訳ではない事をルナが補足する。
さっきは全て彼の所為にしたが、改めて正直に説明をするものの……なんとも馬鹿馬鹿しい事件だからか歯切れが悪い。
「うへぇ……」
「痛った……」
「そりゃあ、怪我がなくて良かったな」
その説明を聞いて、フェリクスとセシルは思わず声を洩らす。
セシルなど痛みを想像してしまったのか尻を抑えている。
先程怒られたダリルもいつの間にか気を取り直して、怪我が無かった事に安心している。
「大丈夫なら良いけど……ていうかセシリアはいい加減お尻から離れなさいよ。変態みたいじゃない」
「あんまりお尻見られるのも恥ずかしいよ……」
いくら恥ずかしい場所とは言え、怪我をしているかどうかで嘘など言わないだろう。
リリーナは本当に大丈夫なのだと信じて、いつまでもこんな話をしているのも……と話を終わらせようとする。
ついでに未だにお尻を見ている変態染みた友人に注意もしておく。
見られていたシアも顔を赤くしながらセシリアから離れていく。
「あぁ、うん、ごめんごめん」
「最近あんたがちょっと心配になるわ……」
シアが離れていったので大人しく立ち上がり謝る。
リリーナは明らかにキャラの変わった最近のセシリアが心配らしい。
何か危ない癖で無いなら良いのだが……シアを保護してから母性に目覚めたのだろうか。
今までもリーリアという年下の子は居たのだが、あまり多く関わる事は無かったので彼女のこんな面など知り得なかった。
「失礼な……シアちゃんが嫌がる事はしないよ」
「そのままでお願いね」
とりあえず本人としてはそういう事らしいので、ひとまずは安心しておくとしよう。
流石にリリーナも、セシリアがそんな事をするとまでは思っていないので追及もしなかった。
「一応これ事故みたいなものだから……あんまり責めないでいいからね?」
離れた所で真面目に怒られている犯人を遠目に見て、流石に悪いかなと思って少しだけ擁護しておく。
全て彼の所為にしたり、弄ったり庇ったりと安定しない。彼女も彼に対してどう接していくか考えているのだろう。
初対面で喧嘩をしているのだから無理もない。
「事故は事故だろうけど、いいの? 降参しといて不意打ちしたのは事実じゃん」
元々はシアの膝裏を突いて転ばせるつもりだっただろう事は、横から見ていたルナには一応分かってはいる。
そこで偶然座る姿勢になってしまっただけなので、事故ではあるけれど……だからと言って彼が若干卑怯な事をしたのは変わらない。
「まぁ……仕返しされても仕方ないくらいには散々馬鹿にしたし……」
一応自覚はあるらしい。
シアも頭に血が上ってしまっていただけ、なのだろうか。
「そうなんだ……結構意外だね。怒るのも初めて見たけど」
なんだかんだ子供っぽいところもしっかりあるんだとセシリアは改めて思ったらしい。
隣でリリーナも同じく頷いて同意している。……そうか?
割と……いや、殆どが子供っぽいところばかり見せている気がするけれど。
時折見せる子供らしくない面の印象が強いのか。そんな面見せただろうか?
明るく元気で呑気な子が怒るのは珍しいという話かもしれない。
「シアがそれでいいならあたしも良いけどさ」
ルナはどうにも微妙そうな感じ。
シアを馬鹿にした事と卑怯な真似をした事で、なかなか辛辣な評価になっているようだ。
それでもシアが許すなら構わないとは思っている。
それはそれとして事故そのものは見てて面白かったので笑っていたあたりが彼女らしい。
「なんにせよ事故だって言うなら、向こうでガッツリ怒られてるし俺達は何も言わんが」
「そうだな。言いたい事はあるが抑えておこう」
決闘を持ちかけておいて、降参した後に手を出す……という所は少し言いたい事もある。
しかしだいぶ厳しいお叱りを受けているっぽいので、フェリクスとダリルは口を出さない事にした。
「僕としては彼の気持ちは分からないでもないし、反省したならいいんじゃないかな」
似たような立場であるセシルは彼の気持ちを一番理解している。
偉大な父を持ち高みを目指す中で、シアのような幼い少女に何も出来ずに負ける悔しさはかなりのものだ。
だからと言ってやっていい事ではないけれど、反省したならそれでいいだろう。




