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第108話 決闘もどき 8 勘違い

 シアが戻ったのはそれからしばらく経ってからだった。

 随分と時間が掛かったが……本当にお尻は大丈夫だったのか心配になる。


「ただいま~」


 シアの障壁の強度を確認するつもりなのもあって、彼らは鍛錬はひとまず後回しにしていたようだ。

 ぽてぽてと歩いて来る彼女を朗らかに迎える。


「おかえりシアちゃん、大丈夫?」


 トイレに行ったと聞いていたが、随分と時間が掛かっていたのでお腹でも壊したのかとセシリアは少し心配していた。

 一応、幼いとは言えシアも女の子なので直接的な言い方はしない。


「まだ痛いけど大丈夫……」


 お尻は無事だったらしい。

 しかしセシリアがそんな遠回しな言い方をした所為で、そこの目を逸らしている男から事の顛末を聞いて心配していると思ってしまった。


 素直に答えてくれたが、そんな事情など誰も知らない。

 どうやら彼は先ほど色々と考えていたはずなのに、事の顛末は未だに説明していないようだ。

 色々な意味でかなり言いづらいから気持ちは分からなくはないけれど……


「痛い? 本当に大丈夫なの?」


 なので痛いなんて聞いたら本当にお腹を壊したのだと思ってしまう。

 リリーナも心配して声を掛けるが、まさか痛いのはお腹じゃないなんて考えないから仕方ない。


「え……いや、まぁ……傷は無いし、痛いけど治癒魔法は使わなくても良さそうだから」


 いくらなんでも人に説明するには恥ずかしい場所なので濁して答える。

 お尻をぶっ刺された事を知られても、わざわざ自分で具体的に言いたくはないらしい。

 痛いと言いながらお尻を擦るが、そもそもの認識がズレているので勘違いが進む。


「傷? 痛いって、お尻が?」


「お前……その歳で痔か?」


 いまいちシアの言っている事が分からずリリーナは困惑するが、横からダリルが神妙な顔でとんでもない事を言った。

 確かに彼女の言動ではそう思いかねないけれど、10歳の女の子に向かって言う言葉ではない。


「何言ってんですか!?」


「ほんとデリカシー無いわね!」


 途端にセシリアは怒り出し、リリーナは彼の脛を蹴りつけた。

 まぁ自業自得だ。いい歳したおっさんが少女に言うのはちょっと引くどころじゃない。


「ぐぁ……」


「流石にどうかと思う」


「お前、やめとけって」


 地味に痛くて蹲るダリルだが、セシルとフェリクスまで呆れて冷たい目をして上から吐き捨てる。つくづく不憫な男だ。


 団長は何も言わないが、やはり可哀想なモノを見る目。

 しかし、ずっと目を逸らしている奴はいい加減説明した方がいい。でないと後が大変な気がする。



「痔って魔法で治るのかな……」


「えっ!? まさか本当に……?」


「ちょっ、シアちゃん何言い出してんの!?」


 痔と聞いて、もしかしたらなんて不安に思ってしまったのか、ボソッと呟いたがしっかりと聞こえている。ちなみにちゃんと治る。


 それを聞いてしまったリリーナは、まさか冗談ではなく本当にそういう話だったのかと驚いてしまう。

 セシリアも同じくそう考えてしまったが、流石に女の子が男達の前でする発言ではないので慌てて注意する。


 ルナは1人勘違いに気付いたのか笑っている。

 早く誤解を解かないと、シアがトイレで踏ん張っていた事になるので助けてあげて欲しい。


「え? だって私のお尻の話聞いたんじゃないの?」


「お尻の話って何!?」


 直撃してしまった話を知られていると思い込んでいるので、シアは呑気に首を傾げる。

 一方、セシリアは意味が分からないので更に混乱していく。


「んん? 聞いたから心配したんじゃ……?」


「待って、まずそのお尻の話を教えて――いや、こんなとこで言わなくていいわ」


 ようやく話がおかしい事に気付いたのか、シアは困惑し始めた。


 尚もよく分からないままなので、リリーナはとりあえずお尻の話とやらを聞こうとするが、人に言うべきではない恥ずかしい事かもと思い直して止めた。

 この様子では普通に恥ずかしい内容でも言ってしまいそうだと考えたのだろう。



「なんだかよく分からないけど……アイツが私のお尻を虐めた話だよ? だから痛いって――」


 もうごちゃごちゃと考えるのも面倒なのか、確認の意味も含めて奴を指差して言った。

 虐めたと言っても半分くらいは事故なのだが、全て彼の所為にしたらしい。


「「「は?」」」


「「「あ?」」」


 シアが言い切らないうちに、一斉に全員で指差された奴を見て声を上げる。

 幼い少女のお尻を虐めたとはどういう事だと、怒りも多分に含まれた声と視線だ。


「げっ……」


 最悪の状況だと理解した当人はもう滝汗を流すしかない。

 どうしようと焦るが、残念ながらどうしようもない。


「降参しといて後ろから不意打ちしたんだ。それでお尻にブッスリ……」


 笑っていたルナはここにきて面白がって、事実なのに誤解しそうな言い方で説明した。

 わざとそんな言い回しをするあたり、多少なりともシアを馬鹿にした恨みが残っていたらしい。


「ちょっ、違っ――」


「てめぇ……年下の女の子相手に何やってんだ……?」


 それを聞いた団長はさっきまでよりずっと恐ろしい顔でキレて、息子の顔面を思いっきり掴んでしまう。

 何も出来なかった腹癒せに悪戯したのかと思ったらしい。

 残念ながらそれは事実だ。


 自分も可愛がってる複雑な事情を抱えた少女に対し、息子が因縁付けて絡んだ挙句にそんな真似をしたとあれば……そりゃあ怒る。


「い、いや……魔法でちょっと――」


「石の棘だか槍だかでズドーンって」


 顔を掴まれたままモゴモゴと言い訳を述べようとするが、またもやルナが横から口を挟む。


「ああ!? そんなもんを女の子の尻にブッ刺したのか!? もっかいこっち来い!」


 怒り心頭、またしても隅っこの方へと引き摺っていく。

 真っ先に団長が動いていたので他の皆は何もせず口も開かなかったが、軽蔑した目を向けていた。


 哀れ……最初にさっさと説明してしまえばもっとマシに済んでいただろうに、後回しにした所為でルナに良い様に転がされてしまった。


 当のシアとルナはこっそり顔を見合わせてクスクス笑っている。

 やっぱりこの2人は性格が悪い。

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