第104話 決闘もどき 4 メスガキムーブは後が怖い
「さぁ、これで保護者の目は無くなったよ!」
シアは腰に手を当て堂々と受けて立つ姿勢で宣言する。
威勢は良いがやろうとしている事は障壁に引き籠るだけなので情けない。
しかしその情けなさを自覚しているからこそ、八つ当たりのように喧嘩を買ったのだ。
全てを防いで見せ、どうだ凄いだろうと誇る為に。
嫌な言い方をすれば、馬鹿にしてきた奴を逆に馬鹿にし返してやる為に。
大人な筈なのにそんな事をするあたり、本当に酷いコンプレックスなのだろう。
未だ名前も分からぬ喧嘩を売った彼も、自信たっぷりで仁王立ちする年下の少女に一瞬たじろぐが、こんな小さな子供がなんだと気合を入れ直す。
ちなみにちょうど昼時なのもあって、騒いでいた間に完全に誰も居なくなっている。
運が良いというかなんと言うか……
「ほら、一応渡しとくよ」
鍛錬場には木製の武器も置いてある。
その中から持ってきた剣を手に取り、もう1本を離れたシアの方へ投げて渡し、そのまま構える。
とりあえず木剣程度ならシアでも振れるが、威力はお察しだろう。
いや、筋肉痛の所為で振るのも厳しいかもしれない。そもそも隙だらけで当たりもしない可能性が高い。
それでも一応拾うが、構えも何もない――というか知らないので自然体で立っているだけだ。
「チッ、構えもしねぇのかよ。いいぜ、やってやる。魔法もアリでいいよな? 危なくないように控えめにはするけど……」
剣を使うのかどうかは知らなかったが、受け取ったなら良いだろう。
そして変わらず落ち着いて自信溢れるシアを見て舌打ちをする。
エルフ相手だからなのか、魔法も使わなければ実力とは言えないからか、条件を決めていく。
それでも怪我が無いようにと控えめにする辺りに彼の性格が出ている。
まぁ控えめにしないと本当に危険なので当たり前とも言えるが。
「勿論良いよ。じゃなきゃ何にも出来ないし」
当然だが素のシアでは本当に何も出来ない。
彼に言われなくとも魔法の使用は提案するつもりであった。
「準備はいい? 怪我したってあたしが治せるからね」
2人の間、離れて浮かぶルナが声を上げる。
シアが護るだけで攻撃はどうしようもないと分かっているだろうに、どういう決着を想像しているのか。
当初はシアを馬鹿にされた怒りからだったのだろうけれど、やはり彼女らしくこの状況を楽しみだしているのかもしれない。
「いつでもいいぞ。吠え面かかせてやる!」
「私もいいよ。後悔させてあげる!」
ルナへ返事をしながらお互いに指を突き出し叫ぶ。
せっかく構えていたのに挑発するために崩すあたり、やはり彼はお馬鹿なのだろう。
「んじゃ始め!」
ルナの開始の合図で2人は動――かない。
シアはそもそも動くつもりが無かったが、彼はどうしたのだろうか。
「っ!」
返事はしたけど急に開始と言われても……と慌てて構える。
単純に構えてなかったから遅れただけらしい。
いつでもいいなんて言っていたのに、本当に馬鹿だった。
「動かないどころかまだ構えもしないのかよ。なら遠慮なくいかせてもらうぜ!」
自分の事を棚に上げてなにやら言ってから、身体強化をしてグッと力を込めて踏み出すと同時に魔法を発動させる。
シアの周囲から石の棘だか槍だかが6本、グルリと囲むような形で勢いよく突き出す。彼の適正は地属性のようだ。
石を打ち砕いてから、逃げるもしくは正面を迎え撃つか。最初から大きく跳んで逃げるか。
一瞬で有利な状況を作り出した。
彼も言うだけあって、子供でもそれなりに実力がある訳だ。
一応、石は速度さえ有れど先端は丸く滑らかで、見た目では分からないがかなり脆く作られている。
なので顔にでも直撃しない限りは痛くても怪我は無いだろう。多分。
「なっ!?」
対しシアは障壁に包まれ、石の槍を全て防いで見せる。
踏み込んだ彼は驚愕するが、全く予想外の事態で止まれない。
槍が砕けていくが、単純に脆く作ったせいで通用しなかったのか分からない。
つまり障壁の強度の予想が出来ないので、勢いのまま剣を振るう事にした。
「残念だったね、そんなの当たらないよ!」
木剣とは言え勢いよく目の前で振られる武器に対し、身じろぎさえしないまま障壁で防いで見せる。
そうしてニヤリと笑いながら煽り、余裕をアピール。本当に良い性格してる。
開始の合図で障壁を張るのではなく、攻撃を待っていたのもわざとだったのだ。
ただし、実は精一杯の虚勢だ。
予想以上に彼の魔法が上手かった上に、同時に踏み込まれては内心大慌てだった。
急いで障壁を展開するだけしか出来なかったのをなんとか誤魔化しているだけである。
「クソッ! なんだよそれ!?」
強化をしてかなりの力で振るった剣が弾かれ、再度驚愕するが反撃を恐れてすぐに距離を取る。
何もかも意味が分からない上に、ニヤニヤと笑って余裕を見せているシアに対し、どう攻めるべきかと考えを巡らせる。
あんな意味不明な防御をするなら攻撃も警戒しなければ……と、じっとりと汗をかいて焦り始めた。
「今度はちょっと硬くするからな!」
しかし考えても全く策が浮かばないので、とにかく攻撃だともう一度石の槍を突き出す。
先と同じだが、強度を上げて障壁の防御がどんなものか確認するつもりらしい。
様子見なので正面から1本だけだ。
わざわざ宣言するのは、もし防げなかったら怪我をさせてしまうからだろうか。やはり変な所で冷静なようだ。
「ふふん。言ったでしょ? 私には触れる事さえ出来ないって!」
当然ながら障壁はビクともせずに槍は砕ける。
尚も自然体どころか、攻撃する気などありませんと言わんばかり。
剣を持ったまま右手を腰にあて、左手で口元を抑え微笑み、鬱憤を晴らすように馬鹿にしている。
よくよく煽る奴である。生意気な子供そのものだ。
多少の気を遣える程度には冷静さが残っていた彼も、もうこれ以上は無理かもしれない。




