第103話 決闘もどき 3 真面目なバカ騒ぎ
「おいお前ら何言ってるんだ、いい加減にしろ」
「そうだ、そんな事したって何にもならん。というか飯を食いに行きたいんだが」
ヒートアップしていく子供達をようやく止めに入る団長だが、もう遅い。
フェリクスも止めるがどうやら昼食を早く食べたいらしい。呑気か。
「んな事言ってる場合か。シアなら問題無いかもしれないが子供同士で決闘など――」
そんな呑気なフェリクスに口を挟むダリルも、戦いにならない事は想像出来ていた。
だからと言って子供が決闘なんて物騒な話を始めたら止めようとするのも当然。
しかしシアの力を観察していた手前つい余計な事を言ってしまい、火に油を注ぐ事になった。
「問題無い!? ダリルさんまでそんな事言うのかよ! クソッ、やってやる! 皆は飯に行けばいい、別に怪我する程戦うつもりじゃねーし!」
一応実力者として尊敬しているらしいダリルにまで問題無いと言われては、もう堪ったものではないのだろう。完全にやる気満々だ。
しかし飯に行きたいというのはしっかり聞いていたようだ。変な所で冷静な奴である。
しかも小さな女の子相手なので怪我を負わせるつもりもないらしい。決闘とは一体……
結局は目を掛けられているらしい子供より自分を認めて欲しいだけなのだ。
「いや、そういうつもりじゃ――」
「そうだよ! 怪我なんてさせられるわけないし! 皆はご飯食べてきて!」
「万が一があったってあたしが治してあげるから気にしないで!」
誤解させたと理解したダリルは訂正しようとするが遮られる。
相変わらず障壁に自信のあるシアは煽る煽る。
それはそれとして皆を巻き込むのも悪いのでご飯は行ってほしい。
なにより子供っぽく怒っているのを見られる恥ずかしさもあるのだ。
そんな事を気にするくらいならさっさと大人らしく収めればいいのに。
ルナの治癒魔法があるのも後押ししてしまうのだろう。
「どうすんだこれ?」
一触即発で睨み合う彼らを見て呟くフェリクスだが、多分全員同じ事を思っている。
「もうめんどくせぇ、好きにやらせよう」
考えるのが嫌になったのか団長は放置するつもりらしい。おい親父。
シアの障壁ならお互い何も出来ず怪我も無いだろうと思ってしまうので、戦う事自体には問題を感じ難いのがややこしい。
「いいのか……?」
ダリルは息子を放置する団長へ呆れた目を向ける。
「そうですよ、もしシアちゃんが怪我したら……うーん?」
「しない、のかな? いやでも……」
流石に決闘だのと言い出したあたりで、シアを少し心配して起き上がっていたセシリアとリリーナも今更ながら口を出すが……やはり障壁の事に思い至る。
精霊が言う程の物凄いらしい障壁には手が出せず、かといってシア自身も貧弱故に攻撃は出来ない。
決闘なんて言いつつも戦いにならない事に気付いたらしい。
とは言え子供の喧嘩……というか、戦おうとしているのを止めないのもどうかと思うので何か言おうとするのだが、何を言えば止まってくれるのか分からない。
しかし彼女達の性格ならもっと早くに口を挟みそうなものなのだが……
ぷんすか怒っているシアの新たな一面を見れた事を、ほんの少しだけ嬉しく感じてしまって眺めていたのだ。
彼女達もやはり呑気だった。
「止めるだけが大人じゃねぇ、て事にしておこう。後でたっぷり叱ってやる」
「えぇ……それでいいのかな……」
団長はそれっぽい事を言って切り上げようとしている。
怪我はしないだろうし、とりあえずやりたいようにやらせて後で叱ればいいと考えているらしい。
同じ若い男として、実力者である父を持つ身として、多少は彼の気持ちが分かって黙っていたセシルも思わず声に出してしまう。
そんな事を言っている間に2人とルナは肩を怒らせて皆から離れた所へと歩いて行く。そろそろおっぱじめるようだ。
「おい、本当にいいのか?」
一応団長の息子なので、目の前で代わりに勝手に叱ったりするのも気が咎めるというもの。
フェリクスは歩いて行ってしまった彼らを見て最終確認と言わんばかりに訊ねる。
他の皆も同様に、止めるならもう今しかないぞと視線を向ける。
「原因がなんであれ、子供同士の事に大人が首を突っ込み過ぎるのもな」
ここまで言われてもやはり止める気は無いらしい。
恐らく危険は無く、止める必要の無い決闘のような何かなら構わないという気持ちがどうしても大きいのだ。
それはまぁ分からなくもないが、原因である彼が言う事では無いと思う。
「おーい、気が済むまで好きにやればいいが、やりすぎるなよ!」
ついに直接許しが出た。
それを聞いてフェリクスもダリルも諦め、揃って3人で歩いていく。
一応ちゃんと考えた上で言っているのだからもうそれでいいや、後で厳しいお説教も待っているようだし全部団長に丸投げでいいか、なんて思っているのだろう。
残された3人も流石に放置は出来ずオロオロしていたが、再度大丈夫だからご飯食べてきてと言われ渋々鍛錬場を出て行った。




