6話:守山七海と山本真由
泣きまくった山本だったが、その後の練習もツラい状態だったとはいえ効率良く終える。
「お疲れ!まゆっち。よく頑張ったよ。一緒に帰ろうか」
「なみもお疲れ!帰ろう!」
2人は学校の下校ルートに帰路へ着く。泣きまくった山本はフラフラで今にも倒れそうな状態に、守山は1つ手渡した。
「これ飲みなよ!どちらにせよ、今日は休んで明日も頑張ろ!」
「え、いいの?ありがとう!」
守山は1本のスポーツドリンクを山本に手渡す。キンキンに冷えていないとはいえ、その味はとてもスッキリするものがあった。
「ここで分かれるかな…。電車だからって寝過ごさないでよね!」
山本は、守山のネタに爆笑しながらも電車へ乗り、その場を後にする。
「なみ…本当に良い友人だよ。今日も塾ある事だから、体力回復しながら音楽でも聴いて心を落ち着かせよう」
電車の中で1人静かに、精神統一と疲労回復に専念する。その姿は、言い表せば僧侶のような姿だ。
塾の授業が終わると、そのまま帰宅をして今日の出来事を日記として書くことにした。いじめられたという事、守山七海という親友に助けられたという事と今後の応援演舞の練習に繋げようという考えだ。
「ハハハ…本当に運が悪いな。こんなにいじめられるなんて初めてだ」
苦笑いしながらも自主練習に取り組む。血の滲む努力がそこに見えていた。
翌朝、守山と一緒に学校へ登校した。昨日のいじめがあまりにも酷かったのか、フラッシュバックする時があるものも守山のおかげで練習へ打ち込むことに成功する。
「調子どう?まゆっち!」
「調子アゲアゲで、テンションも何もかも上がってるよ!」
新しき高校生の誕生なのだろうか、と思わんばかりにギャル語を展開する。中学からの付き合いというのは山本から見て守山以外にも、栗原、高部がいる為怖いもの無し!のように見えた。
練習が終わった後、1人になった山本は心細くなる。それは自分が失敗したところの反省と、どのようにして改善をするのが良策なのか応援演舞という名の沼に埋もれていた。
「どうやったら上手く動けるのか分からない…。気合いで乗り切るにしても、ただの精神論。団長に聞いて考えを聞きたくても、自分で考えろとしか返答が来ないだろうな」
今の演舞に対して貪欲になり、自身の青春に悔いを残さないという考えが山本の心に淡くも芽生えた。
しかし、心のどこかに迷いがあるのか動きにキレが無く、迷宮入りしているのが丸分かりで外部の人から見れば、何をやってるんだろう?という疑問が生じる。
夜が明けると、山本は元気よく学校へ向かった。しかし、校門には先客がいる事に気づく。目を遠くによく見ると、守山と退学処分になったはずの永谷が守山の蹴りと怒りをぶつけていた。
「お前が!まゆっちをいじめたんだね?本当に許さない。私は親友の立場だから、守るならこういう時にこそ鉄拳制裁しなきゃね」
「だから、僕は違うって…痛い!」
「黙れ!偽善者め」
新手の拷問のように見える、守山の怒りはまさしく山本の事を思ってこその行動で1撃1撃が魂と山本の流した涙1粒1粒を表しているようにも見えた。
「なみ…」
守山が叫んだ"偽善者"は何を指し示すのか、永谷のやっていたいじめを裏に表では良い人の仮面を被っているという事なのだろうか。よく観察すると守山の手は、永谷の返り血と自身も傷を負ってきたので血だらけとなりながらも痛がる様子を見せなかった。
「本当に私の妹は気が強いし仲間想いだな。団長になる器かもしれないし、これから成長するかもね」
「紗耶香先輩!?」
気づけば山本の隣に守山の姉、紗耶香が近づいてその様子を見られる。
「山本、君は本当に良い友を持ったね。絶対に守ってくれると思うし、私の思う限りだと妹の代でものすごく盛り上がると思うの。左翼長や右翼長っていう幹部もあるから目指してほしいな」
山本の肩を優しく叩きながら話す守山紗耶香。守山姉妹の優しい、暖かい気持ちに声を出すことなく、静かに山本は涙を流して泣いた。
永谷の姿がなくなると、守山は何事もなかったかのようにして2人の前に現れる。
「まゆっち!よく来たね。そしてお姉ちゃん…なんか謎メンツで面白い」
「なみの言う通り、謎メンツだね〜」
姉妹で笑い飛ばす。山本は、ツラく乗り越えることができないときには思いっきり笑い飛ばせば問題ない、と考えた。