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4話:黄金世代

 暖かい風が吹く春へと季節は変わり、桜が咲こうとしている中でも応援演舞の練習は健在だった。


 山本も足取りは良くなってきているものも、精神が弱いのか間違える度に表情は曇り、体を痛めて泣き叫ぶ日が多くなった。そんな様子に白石は見逃すはずもなく…


「山本!そんな事で泣いて誰かが慰めるとでも?身も心もボロボロになったからって泣くという甘えに走るなら帰って。そんな団員いらない」


「もう…泣きません。すいませんでした」


 山本の足も含めて心も体も完全に疲弊しきっていた。いじめもあったので尚更の事だ。


 練習が終わり、家に帰宅した後お風呂へと入るが体に残る傷跡を見て泣き出しそうになった。


「もう、体に傷がこんなに付いてしまうなんて思ってもなかった。この傷滲みそうだな…」


 お湯を流す度に痛みが全身を駆け巡り、その痛みに耐えながら入浴を済ませる。気づけば午後11時を過ぎていた。


 寝る前に山本は失敗した演舞の動きと、痛みで泣いてしまった動きを確認した。失敗した演舞の方は理解出来たものも痛みに耐えきれず泣いた動きは、どうしても痛むのか泣きながら無理に足を動かす。


「ツラいよ…なみ、本当に私…大丈夫かな」


 山本は、泣きながら気が済むまで失敗した演舞の練習を血が滲むまで重ねた。


 翌日、山本は1番乗りにグランドへ到着して練習に率先した。先輩や他のメンバーが揃うまでに、山本の着る練習着は汗だくでその努力が伝わるほどだ。


「まゆっち今日早かったね。すごい練習したのか、汗の量ヤバいね」


「なみもそう思うかな…。昨日の夜、失敗した箇所を気が済むまでやったの。白石先輩を怒らせたくないからさ」


 2人でガールズトークをする中、同じ学年の女の子が2人話に参加する。


「練習をすることは良いことだけど本番前に怪我したら意味ないよ」


「私もそう思うよ。山本は頑張りすぎて体壊すからさ」


 2人の前に現れたのは、高部千聖と山本のクラスメートの栗原理恵だ。この2人も、守山の誘いで応援演舞に参加している精鋭で仲の良い親友でもある。


 話の盛り上がる4人だったが、鬼の練習を課す白石がその姿を見て激怒する。


「まだ1年なのに、そうやってゆっくりする暇ないでしょ!練習しなさい。失敗して後悔するくらいなら、全身を怪我してもう動けないってなるくらいまで努力をしろ!」


「はいっ!」


 白石に返事を元気よくしたつもりだが、返ってきた答えは予想外のものだった。


「嫌々な返事をするくらいなら辞めて良いよ」


 理不尽な理由だと言える。

 

 山本の苛々も頂点に達しようとしていたが、その苛々を練習にぶつけるという常識では諸刃の剣とも言える動き方を白石の前で披露する。


「山本の動き、前より良いね。もし、私たちの世代が終わって山本たちの世代ってなったらきっと感動を呼び込む力はあるかもしれない。守山もそう思わないかい?」


「私の妹、七海も良い感じですね。こんな感じで未来の女子応援団が続くと良いけれども、もしかしたらどこかで危機になる可能性もあるかもしれないし、または記憶から消されたりするかもしれない。応援団の行く末を私たちで、出来る限り最後まで見届けましょう」


 団長との会話を楽しむ2人だが、そんな練習する彼女たちを見て頷きながら練習内容の動画を撮る団員がいた。


「先輩。とりあえず、ここまで撮りました!後々グループチャットに載せておきますね」


「お疲れ様、小山さん。練習の様子見てるけど結構動き良くなってるよね。君を団長にして正解だよ」


 白石の思いも小山に行き届いてる様子で仲の良い2人を見た紗耶香は、羨ましそうな眼差しを送る。


 練習が終わると、山本たちは痛みに耐えた足の治療を自分なりにカバーしていた。特に足の踵は血だらけで、指も皮が捲れてしまうほどのものなので消毒をするたびに涙を流す。


「痛いよね…その傷」


「守山紗耶香先輩〜ツラいんですよ…。もう耐えれる自信がありませんよぉ。この演舞が終わったら辞めようかなって思ってるくらいですよ」


 傷を見て理解する守山紗耶香と、ツラさを語る山本。しかし、意外な人物が辞めることを話す。


「私はこれで辞めようかなって思う。自分のこともそうだけど、部活が好きだなって思う時があるから私には向いてないのよね」


「栗原さんがそんな事話すなんて珍しいね。部活も青春だから良いと思うよ」


 中学から一緒の栗原と山本は、理解出来る友人でもあるので否定的な意見を言わず、肯定的な意見を言うようにしている仲なので分かり得るものだ。


 守山紗耶香はあまり納得がいってない様子だが、あまり仲を引き裂くような事を言わないようにと心がける。


「そっか。悔い残らないなら止めないよ」


 紗耶香はそのようにしか声をかけることしか出来なかった。


 校門に集められると、白石が最後に言葉をかける。春休みが終わりを迎えようとしていたので、後輩に応援魂を伝えようとしていた。


「私はこれから進学先へ向かうからあとは任せたよ。小山団長、君の演舞を見れるかどうか分からないけどその魂は伝わったと私は思う。副団長は守山紗耶香、君にお願いしたい。みんな、本番まで頑張ろう!」


 鬼の目に涙が見える。白石の思いは小山の世代へと引き継がれた。

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