2話:枯れた心を潤す女神
山本はタイムラインで流れていた内容を読み返して理解した上で、前宮に話す。
「この内容についてだけど、まずは結論を言うと親の考えが違うから前宮君の考えは正しいと思う。でもね、死にたいって言ったらだめだよ。生きてたら誰かに必要とされる時が来るから、それを信じて生き続けて欲しい」
「ごめんなさい。でももう人に迷惑かけるくらいなら自殺したほうがマシです。ほっといてください」
「だめ。ほっとけないよ。まだどんな人なのかも分からないのに、真由の願いだから生き続けて欲しい。親は親。あなたはあなた。自分の意思を強く持って欲しい」
チャットを送る2人の目は、涙で視界が分からない状態だった。
翌日、前宮がどうなってるのか気になる山本だったが職員室での怒号を聞いた時に彼の苦しみを理解する。
「勉強したくても家族の喧嘩で出来ず、それを理由にしても職員は甘えだと言い張る、か。ツラい青春の1ページになりそうだね」
卓球部の練習にも来なくなり、何とも言い難い空気が流れる。練習相手の植松は、ラリーをしてはサーブの練習と持ち前のスタミナを強化した。しかし、すぐに山本の違和感に気づく。
山本の荒いラリーと定まりのないサーブ回転に、ラケットを卓球台の上にそっと置く。
「まゆっち元気無いよ?どうかしたの?」
「ううん。新しく入ってきた男の子が来ないから大丈夫なのかなって…」
「グループチャットでは休むって連絡が入ってるけど、どうなんだろうね」
2人は軽く心配する。そんな心配を糸も簡単にサボりという人がいた。
練習場に上山竜司が入る。新しく入った前宮がいないことに、後悔しながらも笑う。
「こんなサボり魔なら誘わなきゃよかった。もう嫌だわ」
そんな一言を言ってる間にも彼はもしかしたら自殺してるのかもしれないのに、なぜ呑気なことが言えるのか理解に苦しむ。
練習に来ることなく最後の大会が始まる。誰もが来ないと思った時、1人の青年が前を横切る。
「前宮遅いぞ。サボってばかりいやがって」
「わりぃな。面倒ごとに巻き込まれたからしゃーないやろ」
すぐに大会が始まるも、初戦敗退に終わった。原因は心の傷を癒すまでの時間が長すぎたというものだ。山本も個人団体共に負けて刺激のない終わり方を迎える。
「やっぱ私たちの高校つまらないな。応援団入ってみようかな…」
山本はそんな呟きを列車内でした時、1人の女の子から連絡が来る。
「なみからだ。なんだろう」
守山からの連絡を見て、目を見開く。内容は姉紗耶香からの応援団入団の誘いだ。
「友人の誘いだから行こうかな。青春さえ楽しめればそれで良いしさ」
山本は何も考えずに、応援団へ参加する由を守山に伝える。
しかし、これが地獄の始まりだと言うことを予想していなかった。
春休み前に山本は、守山とその友人高部と女子応援団へ入団することを伝えた。最初の練習で山本は絶叫する。
「最初って柔軟からなのね…。足に重りを入れて…痛い痛い痛い!」
山本の両足に下げられたのは25キロの重りで両足に付けられた。他の人たちは無言でする中、山本の絶叫に団長が怒る。
「それで痛いとか言うなよ!やる気あるのか。これからが厳しいのに、そうやって痛いとか弱音を吐くバカがいるか」
山本は声を殺して痛みに耐える。想像以上の激痛に、泣きながら小さく声を出したりだ。彼女の小さな心に1つの疲弊した、何かが覆われていくような感覚を覚えた。
「まゆっちまだ最初なんだから泣かないでよ」
「だって…痛かったんだもん…」
守山が慰める中、山本は重りを外して痛めた足の関節を押さえていた。
その後も冒頭の練習から何もかも教え込まれたものも、殆どが上級生により檄を飛ばされながらだったので覚えるどころかスパルタに恐怖を覚える。
「今日の練習はここまで!次回ヘラヘラしたら血が出るまでするからそのつもりで」
団員は大きな声で返事をしてこの日の練習は終焉する。山本の心は、すでに限界を迎えていた。
帰宅した時は、既に夜10時を回っていた。先輩団員の助言により、寝る前の自主練を行う。重りを付けてから痛む足を動かしながらその小さな体に耐えれるギリギリまで…。
「この痛みに耐えた先に得るものは大きいよね…。悔いのないようにしなきゃ」
山本の心は、自分の枯渇した青春魂を潤すがために必死に演舞の振り付けを覚える。