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13話:復活の足音

 泣きまくる山本の元に吉報が届く。


「よお!って目赤いな。大丈夫か?前宮来月で一般病棟へ移動できるらしいぜ。担任とあいつの両親の会話盗み聞きしてきた」


「えっ…!」


 情報を持ってきたのは男子応援団に属する大山だ。元から親友で、一緒の塾にいるため情報が回るのは誰よりも速い。気づくと山本の目には涙が溢れていた。


「お前よっぽど心配してたんやな?ちゃんと復帰した時は、言葉かけてやんないとね。退院おめでとうって」


「ありがとう。大山さん。ほんとだ…涙出てる」


 彼女の涙はとても透き通っており、その清らかな心を映してるようにも見えた。


「練習大変だろうけど、互いに頑張ろうな。俺は団長狙いだけど」


「へー、団長かぁ〜。私もなれるかな」


「お前は背が小さいからなれねぇな」


 ポカポカと叩きまくり、大山は笑いながら逃げた。


「良かった…これで目を開ける事なく死んじゃったら本当に私、今まで助けてきたことが何だったのか分かんなくなるところだったよ。心配しすぎて頭クラクラ…」


 貧血を起こしたのか、山本はその場で倒れ込む。近くにいた守山が保健室へと運ぶ。すぐに診てもらった結果、顔を見て全て把握した。


「心配しすぎて倒れるとは…んー。この子は休み期間に守山さんも含めて練習してると聞いてるから、今までの疲れが溜まりすぎて溢れちゃったみたいだ。でも暫くここで休んでれば回復するよ」


「分かりました。目が覚めたら教えてください。2人で帰ります」


 すやすやと寝る山本の目には涙が流れていて、それを見た守山は良いことがあったんだと見て笑顔になる。


 そよそよと外から吹き込む風が心地良い時期、小鳥の囀りが響く保健室。その鳴き声につられて山本は頭を押さえながら起きる。


「あれ…私、教室でホッとしてなんでここに?」


「あら、起きたのね。守山が運んでくれたよ。なんか倒れたと聞いて僕がずっと様子を見ていた。本当はもう1人女性の先生がいるんだけどあいにく今日は会議で居なくて僕が診ていた。体温も問題なく、ただ疲れてホッとしたという言葉を聞く限り何かあったんだね?」


 山本はその言葉に頷くことしかできなかった。その質問に対して返答が無いのは深い理由があると見てこれ以上聞かれることはなかった。


 その数分後、守山が入る。


「目が覚めたのね!良かった…。近くにいたからなんとかなったけどいなかったらまゆっちやばかったよ?本当にもう…」


「ごめんね…でももう大丈夫だよ。待っててくれてありがとう」


 一方、同時刻で入院している前宮も変化があった。


「前宮さーん。今から体温測りますね」


 看護師が彼の脇を上げようとした時、手の平から微かな握り返しを感じた。


「昏睡から…目を覚ました?これはえらい事だ!主治医に伝えなきゃ!」


 看護師が走り出す。前宮はうっすらと目を開けていた。


(ここは…どこだ?)


 目をキョロキョロとしか動かせない中、主治医と看護師が入る。


「目が覚めたかな?ここは病院だよ。君は心臓の手術を受けてここに寝てるの。もう大丈夫だから心配しないでね」


 状況把握が出来なかったものも、記憶の断片を手繰り寄せてやっと思い出せた。自転車との追突事故が起こる前まで何をしていたのか、何もかも…。そして生きてる事に涙を流す。


「泣かなくても大丈夫だよ。明日からはICUを抜けて一般病棟へ運ぶから」


 その涙は、生きてることの嬉しさではなく違う意味の涙である事を、その時主治医と看護師は知る由もなかった。

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