↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生少女は異世界で旅に出ます  作者: 沢口 一
第四章 王都騒乱編
95/168

第四十六話 ポンコツ勇者

 泣き疲れてヘトヘトになるまでわぁわぁ泣いていた私は、お父さんに担がれていつの間にか居間に連れられてきていた。


 そこには既に皆んなが勢揃いしており、芹奈ちゃんに腕をつねられて青い顔をしているセウェルス王子以外が生暖かい視線をこちらに寄越していた。


 泣き止んで冷静になってみると、あまりの恥ずかしさにまた泣きそうになる。


 私、カミラちゃんや芹奈ちゃんの前であんなに泣き崩れて、無くなりかけていた男としてのプライドは塵と消えた気がするよ。


 有栖ごめん、私もう男だった過去は捨てるよ……。そうしないとこの状況に耐えられません。


 そんな感じで顔を真っ赤にして俯く私の頭を、お父さんが優しく撫でてくれる。余計に恥ずかしくなるから、出来ればやめて欲しい……。


「事情はカミラから聞いたぞ。……本当に、辛い経験をしたんだな。お前がいきなりドラゴンと戦って死んだって話を聞いた時には、生きた心地がしなかったぞ」


 いやお父さん、それ遠方から知らせが届いた時とかに言うセリフだから。今生きてる私を目の前にして言うことじゃないからね?


「私も貴女を旅に出させたことを後悔したわ。でもまさか、カミラちゃんが吸血鬼だったなんてね……」


「ごめんなさい、お義母さん。私もあの時は記憶を失っていたので、まさか自分が魔族だなんて思ってもいなかったんです」


「いいのよ。それに、貴女はアリスの命の恩人なんだもの」


 申し訳なさそうに頭を下げるカミラちゃんを、お母さんは優しく抱き寄せる。


「そうだぞ。もしお前がいなかったら、アリスはこうして生きていられなかったんだ。むしろ感謝してるんだぜ。本当にありがとうな」


 お父さんはそう言ってカミラちゃんに笑いかけた後、今度は私にジトっとした目を向けてくる。おっさんのジト目は誰得なのでやめた方がいいと思うよ、お父さん。


「それよりも、アリスが転生者だったことの方が問題だろ。お前、いつから前世の記憶が戻ったんだ?」


「あっ、それは、その……」


 そうだ、私は有栖の記憶を取り戻してから両親には一度もそのことを伝えていなかった。こうして身体が大きくなってしまったのもあるし、最早隠す意味はない、か。


「5歳の時、サリィが失踪しちゃった日に思い出したんだ。多分、崖から落ちた時の衝撃で」


「成る程な。それで突然魔法が使えるようになっていた訳だ。今でも忘れないぜ、お前と初めて戦った時に使われた無詠唱魔法は」


「結局勝てなかったけどね」


「ということは、アリスが記憶を取り戻してからまだ二年くらいしか経っていないのね。あ、折角だから前世の事を聞いても良いかしら? 私、異世界の話って興味あったのよね」


「長くなるけど、いい?」


 それからはキラキラと子供のような眼差しを向けてくるお母さんに、前世のことを話した。


 日本がどんなところだったのか、今の勇者である芹奈ちゃんに告白した事、溺れて死んでしまった事、その全てを。


 両親はそれを表情をコロコロ変化させながら聞いてくれた。一人で勝手にビクビクして、二人に会いたくないと思っていた過去の私が酷く滑稽に思えるくらい、暖かい時間だった。


 そうして私が全てを語り終えた時、何故か少し目元を赤く腫らしたセウェルス王子が立ち上がった。


「アリス、私は先に戻り父上へ『転移門(げーと)』が本物であったと伝えよう。あとはゆっくり家族団欒の時を過ごしたまえ」


 彼はそれだけ言って、目元を拭って去っていった。あの王子様、腹黒だし女好きだけど意外と涙もろいのかもしれない。


 しかし王子様はああ言っていたけれど、あまり長く席を外してしまうのは明らかに良くない事だ。まだ謁見は終わっていないのだから。


「そういえばアリス、あの方は一体誰なんだ? 格好からお貴族様だって事は分かったから、相応の対処はしたんだが……」


 ……あれ、まさか芹奈ちゃん説明してなかったの? 私がそう目線で訴えかけると、テヘペロと舌を出して下手くそなウィンクをかましてきやがった。


 芹奈ちゃん、この世界のお貴族様がどれだけ高嶺の存在なのか全然分かってないんだね……。


「……今のお方は、セウェルス・フォン・ノルトハイム様だよ。一応、この国の王子殿下だね」


 その瞬間、ティーカップが割れる嫌な音が二回鳴り響き、私とカミラちゃんは両親に担がれて中庭へと放り出された。


 いきなり何なんだ? と思って二人に抗議の目を向けると、より一層強い眼差しで睨みつけられて鼻っ柱に指を突きつけられた。


「お、お前な! 王子殿下だけ一人で先に帰らすなんて、不敬罪にされても文句言えない程の大失態なんだぞ!? なんで最初に言わなかったんだ!?」


「えぇ!? 私さっきまではてっきり芹奈ちゃんが言ってくれてるものかと思ってたし……」


「え、わたし!? わたしは、えーと、まあ何もして、なかった?」


「芹奈さんってやっぱりポンコツ勇者ですよね」


「ぽ、ポンコツ……。否定できないのが悔しいわ」


「待て待て待て! そ、そちらの方は勇者様、なのですか……?」


「きゃーっ! 私勇者様なんて一生見れないと思っていたのに、まさかお話しできるだなんて! ねぇねぇ勇者様、アリスとは一体どういう関係なの?」


 こうして、状況説明してなかった芹奈ちゃんとセウェルス王子のせいで中庭は混沌と化してしまった。


 私は少し慣れてきてしまったけど、やっぱり一国の王子様の影響力って凄い。あと芹奈ちゃんがこれだけ敬われるのは、なんか複雑な気持ちになる。


 嬉しいでもないし、悲しいでも悔しいでもないし、困惑とも違うし。何だろう、この言い表せないモヤモヤした感情は。


 なんて思いながらホゲーっとこのカオスを見ていたら、突然お父さんに首根っこを掴まれてカミラちゃんと一緒に『転移門(ゲート)』へと放り込まれてしまった。


 突然のことに対処出来ずにベシャッと顔面からダイブしてしまった私達は、その顔に伝わる感触が土ではなく質の良いカーペットのものだと理解して、即座に姿勢を正した。


「ほっほっほ、どうやら両親との再会は上手くいったようだな」


 顔を上げると、まるで子供の成長を喜んでいるような暖かい表情でこちらを見る王様と目が合った。


 このお方、やっぱりお節介焼き過ぎるよ。普通謁見の最中にこんな事するかな……?


「……はい。感謝いたします」


 私の言葉に満足気に王様が頷いた時、『転移門(ゲート)』から芹奈ちゃんが帰ってきた。


「ふむ、全員揃ったな。……それでは結論を出すとしよう。セウェルス」


「はい。私が確認したところ、『転移門(ゲート)』の効果は本物でした。また二度の発動に対してもアリスに魔力欠乏症の兆候は現れておりませんし、連続発動にも問題がないと確認できました」


 流石騎士団長を務めているだけあって、セウェルス王子はちゃんと見るべきところを見ていた。私を戦力の一部として見做すのなら、『転移門(ゲート)』発動によるリスクをケアする必要があるからね。


「ふむ。では条件を満たす事は可能であると判断し、勇者とアリスが共に発つ事を認めよう。異論のある者はいるか?」


 王様の問いに、異議を唱える声は上がらなかった。


 こうして、何故か私が盛大に巻き込まれたりしたものの、芹奈ちゃんが私の旅に同伴することが正式に決定した。


 私はホッと一息ついてから、展開していた『転移門(ゲート)』を全て閉じる。


 途中で急遽帰ってきちゃったことだし、今夜は両親の家に泊まろう。そして夜遅くまで語り合おう。


 初めて出来た彼女のことも、紹介しなきゃいけないしね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。