幕間 とある夜の一幕②
長かった第三章が終わり、アリス達は王都へ向かって旅立ちました。
そしてPV数が20000に到達しました!
月並みな言葉ですが、感謝の気持ちで胸が一杯です。
本当にありがとうございます。
これから更に過酷になる二人の旅路を、どうか引き続き見守っていただけますと幸いです。
「……そうか、では結局件の少女を始末する事は叶わなかったということか」
「今回は正直言って予想外のことが多すぎたんだよ。……ったく、まさか吸血鬼の生き残りがセットでいるだなんて、誰が予想できんだっつの」
蝋燭の灯だけが照らす薄暗い書斎の中、二人の男が紅茶を啜りながら難しい顔で相対していた。
この書斎の主であろう背の高い男は、黒を基調にした厳かな装いをしており、その声もまた地を鳴らすように太く強い低音であった。
それだけで、彼がどれ程高貴な存在なのかは簡単に見てとれる。
一方、客椅子に座っている男のなりは質素なものだった。安っぽい田舎服を身にまとい、室内だというのに頭には麦わら帽子を被っている。
客椅子の前に置かれたテーブルに足を乗せてふんぞり返っている様は、育ちの悪さを如実に表していた。
「……ふむ、あの事件で吸血鬼は絶滅したものだと思われていたからな。また過激派が騒ぎ立てるとも分からぬ故、そちらについては他言せぬよう努めよ」
「……ま、俺としても面倒事は極力避けたいからな。いいぜ、黙っといてやる」
「お前は相変わらず、任務に失敗した割に偉そうな態度を取るのだな」
「俺から傲慢さを取っちまったら、何も残らないぜ、ご主人様」
相変わらずの酷い態度で両手をひらひらと振る男に呆れたのか、もう一方の男は深い溜息を吐いた。
「それで、例の餌はどうしたのだ?」
「あー、あの卵ね。そりゃ当然返してやったぜ。ちょっと殺されかけたりもしたんだが、まあ返してやったら素直に消えてくれたぜ。正直キツかった。ドラゴンとやり合うのはもう二度と御免だな」
男はあっけらかんとした様子でそう言った。巫山戯た調子ではあるが、ドラゴンと一戦を交えても無傷である時点で、相当な実力者であることが伺える。
「それ程の腕がありながら何故標的を殺せなかったのだ? お前の腕なら容易い事だったろうに」
「馬鹿言うんじゃねぇよご主人様。この俺にあんなに可愛らしい少女を手にかけろって言うのかい? そんなの無理に決まってんだろうが」
男は信じられないといった表情で、部屋の主を見る。それでも自分で手を下さず遠回しに始末する事は厭わない辺り、狂っていると言えよう。
「それに、そんなことをしたらあの吸血鬼のお嬢さんに何されたか分かったもんじゃねぇ。人間はともかく吸血鬼はヤベェ。それはご主人様にだって分かってることだろう?」
だからさっさと逃げ帰って来たんじゃねーかと、男は舌打ちしながらボヤく。
「……まあよい。だが次はしくじるなよ」
「あいよ。まあ今回の件で二人の実力は粗方把握したし、次は失敗しねーよ」
男はそう言うと、椅子から立ち上がって扉の方へと歩いていく。その瞬間、田舎の商人か何かにしか見えなかった姿が一変した。
背丈は10cm以上低くなり、スラッとした細身の体型も寧ろふっくらとしたリンゴ体型に変化した。
その顔は真っ白に塗られており、目の辺りに青色の化粧が施されている。鼻は大きく赤く変化しており、真っ赤な口紅と合わせて酷く不気味な印象を与える。
服装も青や黄色、赤色が入り乱れた目の痛くなる装いに変わっている。その見た目は、正に道化であった。
「もう変装は辞めか、レオよ」
「『擬態』し続けるのに疲れただけだよ、ご主人様。……それと、最後にこれだけは言わせてくれ」
レオは扉の前で立ち止まり、ギロリと刃のように鋭い眼差しで男を睨みつけた。
「邪魔なものは排除する。そんな考え、もう古いと思うぜ。あの二人、超いい娘だったんだぜ? 正直殺したいとは思わねぇ。片方は俺らの同胞な訳だしな。俺はご主人様の下僕だから命令には従うが、果たしてその選択が本当に正しいのか、ご主人様もよーく考えといてくれよな」
レオはそれだけ言い残して、部屋を出て行った。
一人残された男は何かを考えるように顎に手を当て、そして何事もなかったかのように仕事を再開する。
蝋燭に照らされた顔からは読み取れない心の内には、一体何を秘めているのか。それを知る者は、ただの一人もいないのだった。
◇
少女は歌う。夜風に乗せて儚げに、美しく舞う花びらのように華やかな歌を。
少女は想う。共に過ごした日々を、鮮やかな光のように眩しい思い出を胸に抱く。
天に向かって手を伸ばし、しかし少女が求めるものには届くことなく空を掴む。
少女は決意する。自らを縛める、残酷な運命を打ち破ることを。
しかしまだ時ではない。焦りは破滅を招くもの。だから少女は歌うのだ。
いつか、伸ばした手が届く日を夢見ながら。




