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転生少女は異世界で旅に出ます  作者: 沢口 一
第三章 紫の夜編
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第十二話 フォルトでお買い物

 サキさんにしこたま怒られた私達は、その後宿を紹介してもらって今は買い出しに来ている。なんだかんだでサキさんは優しい人なのだ。


 私達も緊急クエストに行くべきなんじゃないかと主張したんだけど、直前までぶっ倒れていたCランク冒険者を派遣して何かあったら責任が取れないと却下された。


 特に今回の場合は最低でも相手がBランクの魔物と確定している。例え私達がそれを倒した実績があったにしても、簡単に許可が降りる相手ではなかったみたいだ。


 てっきり私達も駆り出されると思っていたのに、拍子抜けだったよ。


 代わりにAランク冒険者をも交えた大規模な討伐隊が結成されていたみたいだから、多分問題はないと思う。Aランク冒険者の強さは、私が身に染みて実感しているしね。


 なので今は、こちらは正式に許可が降りた魔境の森へ行くための準備をしているのだ。


 因みにレッドグリズリーの素材と魔石は全部ギルドに買い取ってもらった。そこに報奨金を合わせてなんと金貨二枚になったんだから、Bランクの魔物を沢山討伐するってすごい事なんだなって実感する。


「とりあえず必要なのは食料と、より強力な魔法付与(エンチャント)がされた服かな。緊急時用のポーションはまだ使ってないから余ってるし、あとは何が必要かな?」


「そうですね……。あ、魔除けの粉が少なくなっていた気がしますので、それを買えばあとは大丈夫だと思います」


「あー、すっかり忘れてたよ。ありがとうカミラちゃん」


「えへへ、どういたしまして」


 なんか昨日からこの娘妙に可愛い気がするんだけど、私の気のせいかな? あと距離が近い気がする。いや、これはいつも飛んで移動していたから感覚が狂ってるだけなのかも。


 ともかく、買うものが決まった私達はまず市場へ向かった。


 流石は魔境の森がすぐ近くにあるってだけあって、携帯食料のラインナップも充実しているなぁ。


 試食コーナーとかもあったから一通り試しと見たんだけど、正直どれも同じにしか思えない不味さだった。どれか一つくらいは当たりがあると思ったんだけどなぁ。


 とはいえ、魔境の森は非常に危険な場所だし、良い匂いのする料理をしてしまっては魔物を呼び寄せてしまうかもしれない。


 それはつまり、殆どの食事を携帯食料で賄わなければならないということで。


「うぅ……、でもこれもAランクに上がるための試練なんだ……」


「ま、不味いれす……」


 そういえばこの世界には勇者召喚とかいう地球から人間を強制拉致する儀式があるんだよね。それで"紫電"みたいな日本刀がこの世界にもあるわけで。


「それならカロリーメ◯トを作る技術も伝えて欲しかったよ……」


「なんですかそれ?」


「いや、なんでもないけどね」


 まあ、私だって知らないし無理な事だってのは分かってるんだけどさ、正直辛いです。


「それよりカミラちゃん、口直しにあっちの屋台でお昼ご飯食べ歩かない?」


「それいいですね! 是非とも行きましょう!」


 カミラちゃんも美味しいものが食べれるのがよっぽど嬉しいみたいで、両手を上げて喜んでいる。携帯食料を売っている露店の前で失礼極まりないけど、不味いのは店主も承知しているようで苦笑いしている。


 私はそこで携帯食料を一カ月分買い込んで、全てマジックバッグに仕舞った。私達が二人してLサイズのマジックバッグを持っていることに店主さんは驚いていたが、両親がAランク冒険者だと伝えると納得していた。


 それから私達は色んなものを食べて回った。なんのお肉かは分からないけどとってもジューシーな串焼きや、なんの魚かは分からないけどめっちゃ旨味が強くて脂の乗ったソテーなどなど。


「フォルトの料理美味しすぎない!? ここは要塞都市なんだよね? 美食都市って改名した方がよくない!?」


「私、こんなに美味しい料理食べたの初めてです……。幸せすぎてどうにかなっちゃいそうですぅ」


 多分携帯食料効果もあるんだけろうけど、それを抜きにしてもフォルトの料理はどれもこれも絶品だった。


 ただ、どの料理も素材に何を使っているのか全く書かれていない。それはつまり、そういうことなんだろう。


 もしこの世界に食品表示法があったなら、この街の料理は全てゲテモノ揃いになるに違いない。お父さんに昔、魔物の肉には信じられない程旨いものがあると聞かされたこともあるしね。


 なんなら今日売ったレッドグリズリーの肉も、一部では超高級食材として扱われているらしいし。


 でも、折角楽しんでいるカミラちゃんにそんなことを言って気分を害すのは私の望むところではないし、ここは黙っておこう。


 こうして気分良くお腹いっぱいになった私達は、魔除けの粉をこれまた一カ月分買い込んでから防具屋へと向かった。


 流石は要塞都市フォルト、三階建ての全フロアに所狭しと防具が並べられている圧巻の品揃え。


 階数が上がる毎に魔法付与(エンチャント)の効果が強くなっていて、特に三階のものはかなり上質だった。


 その分、金額も恐ろしいことになっているんだけど。三階で一番安いのが金貨二枚とか、ほぼ全財産が吹き飛ぶ価格設定になっている。


 とてもじゃないけど私達に出せる金額ではなかったので、高いものでも金貨一枚という二階の防具を物色することにして、あまりの量の多さにすぐにギブアップした。


 これは店員さんに聞くのが手っ取り早そうだね。


「あのー、すみません。防具を見繕って欲しいんですけど、お願いできますか。魔法使い用の軽量なものがいいんですけど」


 私が近くにいたガタイの良い店員さんに声をかけると、少し鬱陶しそうに私達を見た。それから溜息を吐いて部屋の隅の椅子を指差した。


「仕方ねぇな、ちょっとそこで待ってろ」


 それだけ言うと、私達を置いてどこかへ行ってしまった。取り残された私達は何がなんだか分からず顔を見合わせ、とりあえず椅子に座って待つことにした。


 それから五分くらい経った頃だろうか。さっきの店員さんが、新雪のように綺麗な純白のローブを二つ持ってきた。よく見るとフードの形がちょっとだけ違うけど、それ以外はとても良く似ている。


「そっちの銀髪はこのローブが良いだろう。鉄の鎧を遥かに勝る強度を得る物理耐性と魔法耐性の魔法付与(エンチャント)を施してある。青髪のお前はこれだ。これと同じだけの強度を持ちつつ、魔力の最適化を補助する魔法付与(エンチャント)を施してある。その分高価だが、お前はこれを選ぶべきだろう」


 その店員さんは不機嫌そうな顔をしながら淡々と説明してくれた。しかも驚いたことに、この人瞬時に私達の実力を把握してローブを選んできてくれた。


 魔力の扱いに慣れている私にはコストを抑えられる防御力特化のローブを、まだ慣れきっていないカミラちゃんにはそれに加えて補助効果付きを勧めてくるなんて。


 防具の値段とは即ち魔法付与(エンチャント)を施した数と質に由来する。今回の例だと、私に勧められたローブは銀貨50枚、カミラちゃんのはこの階最高値の金貨一枚。


 値段が倍変わってきてしまうのだ。私に補助は必要ないし、完璧にニーズに合ったチョイスをしてくれたことになる。この店員さん、凄すぎる。


「あ、ありがとうございます。凄いですね、私達が欲しいと思っていたローブそのものです、これ」


「当然だ。何年ここで働いてると思ってやがる」


「いや、それは知りませんけど」


 ギロッと睨まれて、思わず本音を溢してしまった口を押さえる。


「……ったく。会計は一階で頼んだぜ。あとは、俺がそれを選んだってこともな。俺の名前はガイだ。覚えておけ」


「分かりました、ガイさんですね。伝えておきます」


 私達は揃って頭を下げてからローブを受け取り、階下で会計を行った。勿論、ガイさんがローブを選んでくれたことも伝えておく。どういうシステムかは分からないけど、これでガイさんにボーナスが入ったりするんだろうか。


「良い買い物できたね。特にカミラちゃんのローブ、魔法付与(エンチャント)の質がすっごく高いよ」


「私も受け取った時びっくりしました。手に持っているだけで身体を巡っている魔力の流れがハッキリして、雲を掴むような感覚だったのが綿を掴むくらい簡単になった気がします」


 ちょっと例えがよく分からないけど、とても気に入ってくれたみたいで良かったよ。これで宿代を払ったら残金は銀貨五枚くらいになっちゃうけど、一ヶ月先まで魔境の森に潜れるようになったことを考えれば十分だ。


 私達はそれからローブをマジックバッグに仕舞い、宿に戻った。


 明日からはいよいよ、魔境の森に挑むことになる。これまで以上に危険な場所へ、幼い少女たった二人で。


 私とカミラちゃんは少しでも体力を温存するため、夕食と風呂を済ませた後すぐにベッドへ潜り込んだ。


 旅の中で寝心地の悪い寝袋生活を何週間も続けていた私達は、快適すぎるベッドの柔らかさに包まれて、あっという間に深い眠りへと落ちていった。

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