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転生少女は異世界で旅に出ます  作者: 沢口 一
第三章 紫の夜編
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第十話 決着

 私は逆手に持った短剣を交差して、ギルマスの上段振りを受け止める。その瞬間、眼前に紫色の炎が勢いよく燃え上がった。


 私が放った『紫炎』を逆に使ってくるなんて、チート性能すぎない!?


 瞬時に魔法(マジック)障壁(プロテクション)を使ってこれを受ける。火傷しそうなほどの猛烈な熱量に、全身から汗が噴き出るのを感じるけど、ダメージは防ぐことができた。


「その刀、厄介すぎませんか!?」


「一流の冒険者は一流の武具を使用するものなのだ、若人よ!」


 ギルマスは素早いバックステップで一瞬距離を取り、その間に刀を納刀していた。


 あれは、また衝撃波付きの居合抜き!?


 咄嗟に真上へ高くジャンプすると、すぐ下に衝撃波が放たれていた。しかも、私が使ったウィンドエッジ付きの容赦ない一撃。


 そして気付いた。あの刀、紫炎とウィンドエッジを放った後も、まるでそんなことしませんでしたよと言わんばかりに、しっかりと炎と風を纏っていた。


「それ使い切りじゃないんですか!?」


「ふむ、吾輩は一度たりともそのようなことは言っておらぬがな」


 確かに言ってないけど、どういう原理なの!?


 とにかく、このままでは防戦一方になる。ここは、何か手を打たないと……。


 でも、ギルマスは私が対策を考える時間すらも与えず、今度は高速の斬撃を繰り出してくる。


 私は短剣でそれを全て受けているけど、どんどんと刃こぼれしていってしまう。私の魔法を吸収したってだけあって、刀の切れ味がとんでもないことになってるみたいだ。


 モン○ン流に言うなら、相手が紫ゲージで私が青ゲージくらいな差がある。ちょっと自分でも何言ってるのか分からなくなってきたけど、それだけヤバい状況だってことだ。


 私はバックステップで距離を取り、刃こぼれした短剣を投擲する。それはアッサリと弾かれてしまったが、その隙に私は槍を生成して応戦する。


 ここは距離を取りつつ魔法を連打する他ない気がしたからね。


「ほほう、槍術まで使いこなすとは流石は"なんでも屋"の弟子というだけのことはある。だが、これはどうかな?」


 今度は斬撃だけでなく、その上刀から紫炎やウィンドエッジを同時に放ってくる。


 私はそれを、同じ強さで同じ魔法を使うことで相殺した。紫炎に熱された地面が真っ赤に融け、猛烈な熱気が吹きつけてくる。その時、ふとこの状況を打破する作戦が思い浮かんだ。


 熱気、そして斬りつけたあらゆる魔法を吸収する魔剣。


 これを利用すれば、もしかしたらいけるかもしれない。


「ギルドマスター、次の攻撃で決めますので覚悟してください!」


「はっは、遂に策を思いついたか若人よ。だが、それは果たして吾輩に通用するかな?」


「やってみなければ、分からないでしょう?」


 私はギルマスの刀を槍で捌きつつ、魔法を発動させる。それは、『ライトニングアロー』。その特徴は、着弾した時に弾けて強烈な閃光を放つこと。更にそれだけでなく、サンダーボルトよりも遥かに強力な電気をも纏っている、光属性の中級魔法だ。


 それを私は、ギルマスの頭上を360度囲うように()()()()作り出した。部屋全体が眩い光に包まれ、流石のギルマスも驚愕したように目を見開く。


 しかしそこは流石Aランク冒険者、すぐさま体勢を整えて迎撃準備を整える。


「私の全力、受けてみてください!」


 私は、距離をとってすぐさまライトニングアローをギルマスに向けて全て解き放った。落雷のような速度でもって襲いかかる光の矢を、ギルマスは高速の連撃で叩き斬っていく。


「ぐっ、ぐおおおお!?」


 当然全てが捌き切れるはずもなく、急所から外れた位置に放たれた矢が何十本とギルマスに直撃する。


 魔法障壁を使用しているのか倒れることはなかったけど、相当なダメージが入ったはずだ。しかも目の前で強烈な光が発せられるんだから、目も焼かれていると思う。


「まだ、終わらぬぞっ!!」


 それでもギルマスは、私に向かって刀を振る。その速さは全く衰えず、更に大量のライトニングアローを吸収した刀はとんでもない斬れ味になっていることだろう。


 生半可な武器で受けてしまえば、たとえ金属であろうとあっさり斬られてしまうであろう程強力な斬撃。しかし確実に私を捉えていたであろうはずのそれは、敢えなく空を斬った。


「チェックメイト、ですね」


 信じられないと言いたげな表情を浮かべたままでいるギルマスの首筋に、私は生成したばかりの剣を()()()()突きつけていた。


 勝負あり、だね。


「ば、馬鹿な……。最後の一撃は、確実に君に届いていたはずだ。しかし何故、君はそこにいる?」


「ちょっとしたトリックを使っただけですよ」


 私はそう言って、いたずらっ子のような笑みを浮かべて見せる。するとギルマスは納得がいかないと言うようにムスッとした表情で黙り込んでしまった。


 いやいや、子供じゃないんだからさ。


「仕方ないですね……。カミラちゃんは見ていたなら分かるかな? 私が何をしたのか」


「えっ、私ですかぁ!?」


 私がそう言うと、カミラちゃんはまさか自分に振られるとは思っていなかったのかめちゃくちゃ慌てて視線を泳がせる。


「でも、アリス姉さんは特に何もしてませんでしたよね? ライトニングアローを最初に使った時から、特に動いてなかったですし」


「なんだと? しかしアリスは吾輩が斬りつけた後、背後から現れたのだぞ。それはあり得まい」


 まあ、そう思うのは無理もない。というか、そう思わせるのが私の作戦だったんだから当然なんだけどね。


「それじゃあ、種明かしのお時間です。まず、私がライトニングアローを無駄沢山発動させたこと、これにも理由があります。一つは単純な理由で、ギルドマスターさんの方向感覚を狂わせることです」


 ギルマスさんは360度全方位から一斉に襲いかかる矢を全て同時に対処しなければならなかった。その為に、刀を薙いだり急所を守る為に身体を捻ったりと、めちゃくちゃ身体を動かしていた。


 しかも、斬った矢、更には地面に直撃した矢が全てまるで閃光弾のように強烈な光を放っていたから、周囲の状況なんて全く分からなくなっていたんじゃないかな。


「二つ目の理由は、ギルドマスターさんに残像を見せること。太陽とかを直視したら、その後しばらく視界に光が残って見えると思うんですけど、要はそれを見せたかったんです」


「確かに、光が収まった後も吾輩の視界は黒くなっておった。そうか、あの光によって方向感覚と距離感を狂わせていたのか」


 そう、これにより私はその場を全く動かなくてもギルマスに位置を把握されずに済んだのだ。


「で、でも、それだとギルドマスターが()()()()()()()を斬りつけた理由にはならないのではないでしょうか?」


「む、確かにその通りだ。距離感を失っていたのは確かだが、吾輩はぼんやりと君の姿を捉えていたのだぞ」


 その通り、私がした細工はそれだけではない。


「そこで最後のトリックが効いてくるのです。先程、私とギルドマスターが紫炎を放ったあの場所、もの凄い暑くなかったですか?」


「確かに暑かったが、戦いの高揚感の中では気にならなかったな」


 やっぱりこの人戦闘狂だ! 私は汗ビッチョリかいたせいで最悪だったのに。今だってベタベタで、早くお風呂に入りたいくらいだよ。


「と、とにかくあの時私達のいた場所の空気はとても暑くなっていました。だからそこに、蜃気楼が発生していたんです」


 私たちが見ている風景は、当然目が光を捉えることによって見ることができている。そして光は密度が違う空気がある場合、空気の密度が大きい、つまり冷たい空気の方へと曲がって進む性質がある。


 これによって、物体が本来ある場所とは違う場所に見えるようになる現象を、蜃気楼という。


 私はライトニングアローを放った後、私の近くにだけめちゃくちゃ弱く、水属性中級魔法の『ブリザード』を使っていた。


 ブリザードは吹雪を作り出す魔法なんだけど、今回は魔力を全然込めなかったことで気温を下げる程度の効果しか表れなかった。


 でも、それが私の目的だった。


 これで、地面が真っ赤に融ける程熱された空気と、真冬のように冷たい空気の二つが私とギルドマスターの間に現れた。


 あとは私が作り出した温度の違う空間から斜めに外れた位置に立っておけば、あら不思議。ギルドマスターの視点からは、私が立っているのとは全然違う場所に私がいるように見えるのです。


「で、最後に私が死角から近付いて剣を突きつけたらお終いってことです。……あれ、どうしたんですか二人とも。そんな呆けた顔をして」


「うむ、全く理解できぬな」


「やっぱりアリス姉さんの考え方は真似できそうにないです」


 折角説明したのにちっとも理解されていなかった。私って、教師の才能ないのかもしれないな……。


「これ以上簡単に説明できる気がしないので、この話はこれでお終いです。それより、私が魔境の森に行く許可について……ふぎゃっ!」


「アリス姉さん!?」


 私は改めてギルマスに許可を貰おうと思って身体強化魔法を解き、その瞬間顔面から地面にぶっ倒れてしまった。


 手足に全く力が入らなくて、思いっきり鼻から行った。ドクドクと鼻血が出てるし、めっちゃ痛いし、これは鼻折れたかもしれない……。


「ふむ、身体強化で無理矢理身体を動かしていたのだな。無理もない、あれだけの事をその幼い身体でやってのけたのだ。よし、吾輩が救護室へ連れて行ってやろう」


「ちょ、ちょっと待ってくださいぃ!?」


 ギルマスはあろうことか私を、所謂お姫様抱っこしてスタスタと歩き出してしまった。


 男である有栖としての心が、このマッチョにお姫様抱っこされるというアッー♂な状況を猛烈に拒絶しているけど、一度身体強化を解いた身体は全然言う事を聞いてくれない。


 私は指の一本すら動かすこともできず、勝負には勝ったはずなのに激しい敗北感に苛まれることになったのであった。

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