第八話 カミラの実力
先に動いたのは、三匹の大男だった。彼らは長剣使い、戦斧使い、タンクというかなり攻撃よりなパーティー編成で、常にタンクが持つ大盾を起点に攻撃を繰り出していく戦闘スタイルだ。
あの盾の突進だけで、7歳児なんて簡単に吹き飛ばされてしまうだろう。カミラちゃんはちゃんとそれを認識し、まずは盾の動きを止めることにしたようだ。
「止まってくださいっ!」
カミラちゃんがそう叫ぶと、大盾を持った冒険者の脚が突然凍りついた。
「なっ、馬鹿な! 無詠唱だと!?」
三人が驚愕の表情で一瞬立ち止まる。カミラちゃんはその隙を見逃さず、全員の脚を次々と凍らせていった。
水属性の初級魔法、『フリーズ』だね。
効果は単純で、ただ氷を発生させるだけ。しかし単純故に応用力が高くて、飲み物を冷やす為にも使えるし、こうして足止めに使うこともできる。
「つ、冷てぇ!?」
「う、動けねぇ! どんだけ硬いんだこの氷は!?」
「万事休す、か……」
……カミラちゃん、めちゃくちゃ大量の魔力を込めて使ったみたいだね。氷というより金属の方が近いんじゃないかってくらいの硬さになってるよ。Bランク冒険者の大男達が一歩も動けないって、異常なことだからね。
ギルドマスターも目を見開いて、信じられないといった表情でカミラちゃんを見ていた。
そもそも忘れがちだけど、この世界で無詠唱魔法の使い手なんて殆どいない。いたとしても、熟練度とやらが高い歴戦の魔法使いに限られている。
だからレッドグリズリー戦が初陣だった7歳児が無詠唱で魔法を使うなんて、信じられないんだろうなぁ。
「今です! いっけぇ!」
めちゃくちゃ効果覿面だった足止めだったけど、カミラちゃんはそんなにフリーズを信頼していなかったようで、可愛い掛け声と共にすぐさま次の魔法を放った。
それは高圧の水の刃で、あのレッドグリズリーを瞬殺した強力な中級魔法、『水刃』だった。
「ぐえっ!」
「あべしっ!」
「ぶべらっ!」
殺傷能力がないようにちゃんと切れ味が調整されたそれは、吸い込まれるように大男達の首に直撃して意識を奪う。
大男達は未だに脚を凍らされているせいで、皆上半身だけ力を無くして立ったままブラブラと揺れていた。何このシュールなオブジェ。
というか、まだ魔法を使い始めて一ヶ月も経ってないのに、Bランク冒険者三人のパーティーを瞬殺するって、強くなりすぎじゃない?
「そ、そこまで! 勝者カミラ!」
ギルドマスターの合図でカミラちゃんの勝利が宣言されるも、勝ったはずのカミラちゃんはポカンと口を開けて固まっている。
「おめでとう、カミラちゃん。瞬殺だったね!」
「え、いや、どういうことなんですか……? この人達は手加減してくれたってことなんでしょうか?」
「そうじゃないよ。カミラちゃんがとっても強くなったってことだよ。修行の成果、バッチリだったね」
私がそう言っても、カミラちゃんはなんとも言えない複雑な表情で黙り込んでしまった。余りにも簡単に勝ってしまったものだから、実感が湧いてないみたい。
まあ、それも仕方ないかも。あの大男三人組は、長い時間をかけて自らを鍛え上げ、Bランク冒険者にまで成り上がった。それを、僅か7歳の女の子がコテンパンにやっつけてしまった。
つくづく、この世界における"才能"とは理不尽なものだと思うよ。適正属性が多く、更に魔力量が高く生まれてきた。それだけで、こんなにも強くなってしまう。
もちろん、私が有栖の知識を使って魔法を教えたからっていうのもあるんだけど。
「見事だった。その強さ、Aランク冒険者に匹敵するやもしれぬ。レッドグリズリー程度敵にもならんはずだ。我が支部に永住してもらいたい程だな。わっはっは!」
ギルドマスターは反対に、嬉しそうに豪快に笑ってカミラちゃんの背中をバシバシと叩いた。凄く痛そうにしてるから、程々にしてあげて欲しいよ。
「これでハッキリしたな。彼の門番の態度を含め、ここで正式に謝罪をさせてもらおう。誠に申し訳ない。感謝しこそすれ、あらぬ疑いをかけた挙句に不快な思いまでさせてしまった。我々に可能な範囲にはなるが、言い値で賠償することを約束しよう」
ギルドマスターはそう言って、深々と頭を下げた。言い値で賠償って、私達は正直そんなに不快には思ってなかったんだけど……。
とはいえ、お金はあるだけありがたいのも事実。食料だけでなく、質の良い武器や防具、更には上級ポーションを買おうとするとかなりのお金がかかる。
私は武器も回復も自前で出来るけど、カミラちゃんはそうもいかない。なのでここは貰えるだけ貰っておきたいのが本音だ。
でも、私は首を横に振った。
「お心遣い感謝します。ですが、私達は特に不快感を感じたりはしていませんし、賠償金などはいりません」
「ふむ。しかし、こちらとしても何もしない訳にはいかぬのだ。そうでなければ、ギルドマスターとしての体裁が保てぬ故にな。金でなくてもよいのだ。可能な限り、どのような要求でも呑むと約束する」
計画通り……。
思わず殺人ノートを使って世直しをしようとした、某月君みたいな顔をしそうになってしまった。
そう、私の目的はこの言葉を引き出すことだった。この手の展開になると、体裁のためになんとか賠償しようとするのがテンプレだ。
そして私には、お金なんかよりも大切な目的がある。
「それでは、私達に魔境の森へ赴く許可を出して欲しいです。それから、出来るだけ強い魔物が出る場所を教えてください」
そう、あくまでも私達の目的はAランク冒険者になること。しかし目的である魔境の森は、適正冒険ランクが非常に高い。
今回、魔境の森ではないとはいえCランク冒険者が全滅するなんて大事件が起きたから、規制が厳しくなるのは間違いないと思う。
元々はこっそり行く気でいたんだけど、許可を得られるなら今後の対応とかで揉めなくて済みそうだし、出来ることなら許可は貰っておきたい。
「それはまた難しい注文をしてくるものだ。成る程、カミラの実力を思えば魔境の森の魔物にも遅れを取ることはあるまい。しかし、君の実力を吾輩はまだ知らぬ。故に、先んじてお主の実力を見せてもらおうか」
「まあ、流石にそうなりますよね。分かりました、それで問題ありません。ですが、どなたがお相手になるのですか?」
いくら賠償とはいえ、子供にそんな危険な場所へ出向く許可を簡単には出せないことは予想していた。でも、さっきカミラちゃんが相手した人たちは全員伸びているし、どうするんだろう?
私が小首を傾げていると、そんな私を見てギルドマスターは豪快に笑った。
……成る程、そういうことですか。
「それはもちろん、吾輩自ら見極めて見せようぞ。冒険者ギルドフォルト支部のギルドマスターであり、"紫電"の名を冠するAランク冒険者である吾輩が、な」
ギルドマスターはそう言って、背負っていた剣を抜いた。
それはこの世界では見たことがない綺麗な曲線を描いた片刃の剣。冷たく光る刀身には一点の曇りもなく、見るだけで本能的な恐怖を感じさせる。
「日本刀……」
それは、間違いなく日本刀だった。地球で世界最高の刃物とさえ称されていたその刀身が、私の姿を妖しく照らし出していた。




