第七話 冒険者ギルドフォルト支部
フォルトの冒険者ギルドは、カルムのものとは全然違う雰囲気の建物だった。
まず外観だけど、フォルトのギルドは全て石レンガで造られている。更にあの、カルムのギルドの屋上にあった謎の風車は設置されていない。必要なもの以外は削ぎ落としたような、それでいて堅牢そうな四階建ての建物だ。
中に入ると、更に違いは明白になった。まず酒臭くないし五月蝿くもない。何かを相談し合っているような真面目なトーンの会話が聞こえて来るだけだ。
そして冒険者達の格好も全然違う。カルムの冒険者は、私を含めて魔法付与されているだけの普通の服を着ていた。
それに対してフォルトの冒険者は、街中で見たように魔法付与された鎧に身を包んでいる。
当然、同じ魔法付与された装備でも布製の服と鎧では防御力に天と地ほどの差がある。冒険者達の意識の差が、そのままこの地の危険性を示しているんだろうね。
これがフォルトの冒険者の常識なんだとしたら、見た目普通の服を着た7歳児二人を門番さんが疑ったのも仕方ないかも。というか、私も疑うと思う。
受付カウンターは一階にあり、私達は門番さんにそこへ突き出された。ちょっと、扱いが乱暴すぎる気がするんだけど。もしここに両親がいたらブチ切れて大変だっただろうなぁ。
「コイツらが例の冒険者と商人だ。連絡はいっているとも思うが、どうにも怪しい。あとはギルドの方で処理してくれ」
「承知した。おいお前ら、さっさとこい。逃げたら最悪死刑だからな、くれぐれも肝に銘じて着いてこい」
……フォルトの受付嬢さん、めっちゃ口悪い! 青い短髪に健康そうな小麦色の肌の彼女は、受付嬢というよりは冒険者っぽい感じがする。
よく見たら腕も太く、よく鍛えられているのが見て取れた。
「何ジロジロ見てやがる!」
「あ、すみません。あまりにも逞しかったので、つい」
「……そ、そうか? これでも結構鍛えてるからな! ……ってじゃなくてだな」
「お姉さん、お名前はなんていうんですか?」
「アタイはサキってんだ。よろしくな……って何馴れ馴れしく絡んできてやがる! いいから黙って着いてこい!」
あ、この人多分チョロいな。
私はそれからもちょくちょくとサキさんをイジりながら、案内されるがままに四階まで上がっていった。
途中何度もジト目のカミラちゃんに咎められたりもしたけど、ちっともやめる気が起きなかった。サキさんが面白いからね、仕方ないね。
ギルドの一階から三階までは、ほぼ変わらない内装だった。各階にカウンターがあり、壁一面には依頼書が貼られている。設置されている丸テーブルと椅子は、屈強な冒険者達の作戦会議の場となっているようだ。
それに対して四階は、正に訓練所と言うのが相応しい場所だった。ハノーヴァー邸の中庭を思い出させるこの場所には、キング◯ムに出てくる将軍並の大男が四人、腕を組んで立っていた。
彼らはボディービルダーも真っ青な筋肉量と威圧感を放っており、ちっこい私とカミラちゃんなんて簡単に握りつぶせてしまいそうに見える。ちょっと怖い。
「マスター、例の奴らを連れてきたぜ」
サキさんにマスターと呼ばれたのは、中でも際立って筋肉の主張が激しい大男だった。
……というか、マスターってギルドマスターのこと? なんで事務仕事がメインのはずのギルマスが一番強そうな見た目してるの?
私、なんだかフォルトが怖くなってきたよ。
「うむ、ご苦労様だった。下がってよい。……して、其処な小娘二人がレッドグリズリーを討伐したというCランク冒険者か?」
まるでベースのような低音が、心臓を揺さぶる。この人、声も怖いよ……。
「は、はい。私はカミラと申します。カルムからこ、この地へ向かって旅をしていたところ、悲鳴が聞こえたので助けに向かい、討伐しました……」
カミラちゃんがカクカクと震えながら、なんとか言葉を紡ぐ。
「私はアリスと申します。彼女の言葉に間違いはないと証言します。私がサンダーボルトでヘイトを集め、カミラちゃんが水刃でレッドグリズリーを討ち取りました」
私は、嘘偽りなくその時の状況を説明した。駆けつけた時には、レオさん以外に生存者はいなかったことも。
「それから、こちらをお受け取りください」
私はそう言って、マジックバッグから報告書と五枚のギルドカード、遺品、そして骨壺を取り出した。
「亡くなった冒険者さんは、勝手ながら私が火葬しました。どうか、お遺族の元に帰してあげてください」
私がそう言うと、ギルドマスターはしっかりと頷いてからそれらを受け取り、すぐ隣に立っていた大男に、何処かへ運ばせた。
それから私が書いた報告書を読み、痛ましげな表情を浮かべながらそれを懐にしまった。
「彼らをこの地へ帰してくれたこと、感謝する。しかし、吾輩はまだ二人を完全に信用してはいない。そこで其方らの実力を測らせてもらう。Bランクの魔物を同時に十体も葬るというその力、とくと見せてもらうとしよう」
……やっぱり、こういう流れになるのは避けられないよね。
そして今回重要なのは、私の実力よりもカミラちゃんの実力だ。水刃で者の首を跳ね飛ばしたのは、カミラちゃんなのだから。
私は不安そうに瞳を揺らしているカミラちゃんの肩に、ポンと手を当てる。
「大丈夫だよ。今日までの修行の成果、やり過ぎない程度に見せてあげよう?」
そう言って笑いかけると、カミラちゃんは幾分か緊張も落ち着いたようで、困ったような笑みを浮かべて頷いた。
「わ、分かりました。お手柔らかにお願いします」
こうして、カミラちゃん初めての対人戦が行われることになった。相手は、なんとギルドマスターの側に控えていた大男三人同時とのこと。
彼らは全員Bランク冒険者らしく、その身体も熊のように大きい。つまり、数で不利な状況のレッドグリズリー戦を想定するにはもってこいの相手なのだ。
しかし、冒険者には知恵がある。例えレッドグリズリーとランクが同等であったとしても、同じ難易度の戦いにはなり得ない。熟練の冒険者パーティーは、魔物には不可能な緻密な連携を取ることができるのだから。
「しかし、俺はあの娘の強さを知っているから黙って見ていることが出来るがな。普通の感性ならあんな小さい子に大男を三人ぶつけるなんて出来ねぇだろ。胸糞悪ぃリンチにしかならないとは思わなかったんかね、あのギルマス」
レオさんは顔を顰めながら、私にしか聞こえないくらいの声量でそう呟いた。確かに、この絵面は見た目が酷すぎるなぁ。
でも、私はそうは思わなかった。
「多分、そうじゃないと思いますよ、レオさん」
私がそう言うと、レオさんはよく分からないと言うように首を横に振った。
「ギルドマスターは多分、私達を信じてくれたんだと思う。きっと、骨壺を帰した時には既に。だから無茶に思える手合わせを申し出たんだよ」
だって、骨壺を受け取ったときのギルドマスター、まるで必死に涙を堪えているような、そんな顔をしていたから。
だからこれは、誰にも文句を言わせないための儀式に過ぎないんだと思う。そして私達を信じてくれたからこそ、話の信憑性を高めるためにこんな提案をしてきたんだろう。
そんな話をしている内に、カミラちゃんと三匹の大男が所定の位置に着いた。そして、各々の武器を構える。カミラちゃんは素手だけど。ギルドマスターはレフェリーをやるようだ。
高まる緊張感。
数秒の後、そんな緊張感を突き破るように、高く上げられていたギルドマスターの手が、勢いよく振り下ろされた。
試合、開始だ。




