表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生少女は異世界で旅に出ます  作者: 沢口 一
第五章 七つの大罪編
167/168

第六十一話 神の言葉

「私はね、そんな神様の願いに応えたいんだよ。だからサリィにはその協力をしてもらいたいんだ」


「協力って、私に何が出来ると言うんですか……?」


「簡単な事だよ。……魔王に会わせて欲しい。私だけじゃなくて、勇者の芹奈ちゃんも一緒にね」


「なっ、巫山戯たことを……! 私があなたのような危険な存在を、勇者と共にお父様のところへ連れて行く?  出来るはずがないでしょう……?」


 まあ、流石にそうなるよね。


 いくら勇者が魔王と争う必要がないと説いたところで、芹奈ちゃんが魔王軍と戦っていたことは事実なんだし。


 それに、私自身も魔王に命を狙われてるんだから。


「うん、そう言うだろうってことは分かってた。だからこれ、返すね」


 私はそう言うと、部屋全体に描かれた魔法陣の全てが光を失い、同時にサリィを捕らえていた水晶が消滅する。


 そして驚きに目を見開く彼女に、私は奪ったばかりの勇者の装備を手渡した。


「……何を企んでいるのですか? あなたは私を脅威だと思ったからそれを取り戻したのでしょう? それなのに何故……」


「君を信用しているからだよ、サリィ。互いに武器を持って敵対しているんじゃなければ、君は絶対に私を斬らない」


「ど、どうしてそんなことが言えるんですか!? 私達は殺し合いをしていたんですよ!?」


 まあ、普通ならそう思うよね。放っておくと危険だからって理由でわざわざこんなところまで足を運んで、折角取り戻した装備をまた渡すなんて馬鹿げてるって。


 でもそれは、相手が赤の他人だったらの話なんだよ。


「だって君は、サリィだから。そして君がサリィであるなら、私は君がどういう人なのかよーく知ってるんだよ」


「……」


 サリィは渡された装備をギュッと胸に抱きながら、何かを思案するように目を伏せる。


 そして、何かを覚悟したような鋭い目つきで私を射抜いた。


「……不思議に思っていたことがあるんです。私の記憶は、ある時点を境に欠落しているのです。そしてあなたは、私を見るなりすぐに私の名を呼びました。……もしかしてあなたは、その間に私と知り合っていたのですか?」


 ……そうか、そうだよね。こっちのサリィ視点からすれば、そう考えるのが自然だよね。


 だって彼女は、この状況を作り出したのが本当の記憶を持ったサリィの精神体だって知らないんだから。


 それから私は、彼女に全てを打ち明けた。


 私がサリィと過ごした日々のこと、その結果芽生えてしまった想いがもう一人のサリィを生み出してしまうことになったこと。


 そして精神体となってしまったサリィは、このままだと消えてしまうこと。


「私はね、サリィ。そんな残酷な運命を打ち破るためにここに来たんだよ」


 私がそう言うと、部屋の外に待機していたサリィが私の横へやって来た。


 信じられないと言わんばかりに驚くもう一人のサリィに向かって、精神体のサリィは優しく微笑みかける。


「こんにちは。あなたにとっては初めましてになるね。私は遠くから見ているだけだったから」


「そ、そんなことが本当に……」


「うん、今アリスが説明したことは全て本当のことなの。ちゃんと昔の記憶もあるんだよ? 例えばそう、7歳の時におもらーー」


「や、やめてください!! それ以上喋ったら殺しますよ!?」


 それまでの仏頂面とは打って変わって、顔を真っ赤にしてサリィの口を塞ぐもう一人のサリィ。


 うん、こうしているとまるで双子みたいだね。口調も違うし、何より表情が違いすぎるから同じ顔なのにすぐに見分けがつく。


 というかサリィ、それ私の前で言っちゃってよかったの? 君には羞恥心ってものはないの?


「だってアリスは特別だもん」


 いや、そういう問題なのかな……。


 私が思わずこめかみに手を当てると、サリィは悪戯な笑みを浮かべる。


 その一方で、もう一人のサリィは眉をひそめて溜息を吐いた。


「……分かりません。あなたが私だということは理解しました。けれど、あなたはあまりにも私と違いすぎます。一体、あなたがこの人と過ごした時間とはどれ程の……。いえ、それよりも聞きたいことがあります。何故あなたはお父様にお会いしたいのですか? 私が二つの存在に分裂してしまっていることは分かりましたが、それとお父様に会うことの繋がりが全く見えて来ません」


 あ、そういえばまだ私の作戦については話してなかったね。


「さっきも言った通り、今起きている悲惨な戦争を終わらせるのが目的だよ。でも、それ以上に重要な目的もう一つがあるんだ」


 ここで漸く、本題に入ることができる。


「私が創った……、というよりこれから創る魔法にどうしても必要なプロセスなんだよ」


「これから創る魔法、ですか? それは一体どのような……」


「まあまあ慌てないで。ちゃんと説明するから」


 それから私は、これから創る新たな魔法について説明した。


 その魔法の名は、『神の言葉(ロゴス)』。


 "はじめに(ロゴス)があった。(ロゴス)は神とともにあり、(ロゴス)は神であった"とは、新約聖書の"ヨハネによる福音書"に記された一文だ。


 簡単に言えば、キリスト教において神は言葉(ロゴス)により万物を創成したと説いている。


 私はそれを元にイメージを組み上げて、その名の通り"神の言葉(ロゴス)"の如く一人の魔族という存在を新たに創ろうとしているんだ。


 しかし私が創ろうとしているこの魔法は、その名の通り神の領域にどっぷり浸かるものとなる。


 それ故に、色々と条件が必要になっちゃうんだよね。


「な、何を言っているんですか……? そのような魔法、人の身で創り出せるはずが……」


「当然、私には不可能だよ。普通ならそんなことが可能だなんて思えるほど、私は楽観的じゃないし。だけどね、そんな不可能を可能にしちゃうアイテムを私は持っているんだよ」


 そう言って私が取り出したのは、掌に乗るくらいの小さな種。


 ーーそう、"進化の種"だ。


 あのドラゴンゾンビやら気持ち悪い大蜘蛛やらと戦う羽目になった災厄級ダンジョン、"瘴気の洞穴"で手に入れた戦利品。


 人間を含めた全ての生物を一段階上位の存在へと進化させる事が出来るという、ちょっと何言ってるか分からないって感じの効能がある故に、一旦放置しておいたあのアイテム。


 これを使って精神体となっているサリィの位を引き上げ、一人の魔族にするのが今回の作戦なのだ。


「だけど"進化の種"単体では位を引き上げることが出来ても、血肉が用意できる訳じゃないんだよ。だからそこは魔法で補助するしかない。それで必要になってくるのが、サリィの根源となった者、つまり魔王の血肉と魔力。だから私はサリィのお父さんに会って、彼にそれを分けてもらいたいんだよ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ