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転生少女は異世界で旅に出ます  作者: 沢口 一
第五章 七つの大罪編
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第五十八話 アリスの本心

「わたし達精霊の加護は、条件が揃った場合に限り複数人へ同時に付与することが可能です」


「簡単に言っちゃえば、庇護者が心の底から命をかけて護りたいと思う程信頼してて、かつ愛してる必要があるんだよ。ぶっちゃけゾッコンじゃなきゃダメってこと!」


「ぶふぅ!?」


 ま、待って! それってつまり、私がす、好きな人が曝露されるってこと!?


 ……いや、落ち着け。私は既にカミラちゃんと芹奈ちゃんには好きだって伝えてあるんだし、今更慌てることもない。


 それに愛してるっていうのは色んな捉え方ができるものだしね。家族愛や友情だって、愛ではあるもんね。


「いや、恋愛的なものに限るよ? 身も心も捧げる覚悟なんて、友達や家族には中々抱けないもんね」


「ちょっ、さっきはそんなこと言って無かったよね!?」


「あ、そうだっけ?」


 そうだっけ? じゃないよこの黒精霊!!


 じゃあそれって、実質私が好きな人全員バラされるってことじゃん!


 ……今更かもしれないけど、やっぱり元日本人としてそんな何人も好きな人がいますなんて大きな声で言えないし、何より私自身で本心が分からない。


 それは主に、さくらについてだ。


 私は【フォルト】でさくらに告白された。当然兄妹として恋愛対象として見ることはできないって答えたんだけど、あの時確かに胸の奥に熱いものが込み上げてくるのを感じたんだ。


 それ以来そんなことは一度も無いし、さくらもあれからその他の話題を振ってきていない。


 だから私も、自分の本心が分からないままなんだ。


 自覚があるなら、ここで暴露されるのは恥ずかしいながらも問題ない。けれど、自覚していないってことは想いを無意識的に封印しているってことなんだ。


 そして想っていなかったのだとしたら、それはそれでさくらは酷くショックを受けるだろう。


 故にそれをこんな形で解かれてしまうのは、正直怖い。


「だからシルフはあらかじめ謝ってるんだよ。それに結局、他に手は無いしねー。それよりもさ、私達精霊の方からこんな提案する方が稀なんだ。感謝して欲しいくらいなんだって痛いっ!?」


「シェディー、調子に乗りすぎなの。アリス、この黒いのの言うことは気にしなくていいからね」


「黒いのって酷くない!? アンタだって似たようなものだと思うんだけど!?」


「私は、黒くない」


「いーやそれはない! 目も髪もなんなら服まで全部黒だよね!?」


「でも肌は白い」


「だ・れ・が肌の話をしたーっ!!」


「……ぷっ、あっははは!」


 あまりにもくだらない漫才に、私は思わず吹き出してしまう。


 二人はそんな私を困ったような、それでいて優しい笑みを浮かべる。


「どう? アリス、ちょっとは元気出た?」


「おかげさまでちょっとはね。……それに、結局うだうだ言っててもこのままじゃ先に進めないもんね」


「その通り! 時間は有限、サリィの魔法が切れたら一貫の終わりなんだから!」


 確かにそうだ。もう一人のサリィが勇者の装備を身につけたまま解放されたら、今度こそ勝ち目は無い。


 私は覚悟を決めて、同じく緊張した面持ちの愛しい仲間達と頷き合う。


「シルフ、お願い。みんなに加護を分けてあげて」


「分かりました。では、私の手を取ってください」


 私は言われたままに手を伸ばし、そしてシルフと触れ合ったその瞬間、私の身体の中を流れていた暖かい力が体外に放出されていくのを実感した。


 そしてその力はまるで輪を描くように広がっていき、そして見えない糸で繋がったような不思議な感覚に包まれる。


 ……そしてその輪は芹奈ちゃん、カミラちゃん、そしてさくら、サリィと繋がっていた。


「成功です。手を離しても大丈夫ですよ」


 その繋がりはシルフの手を離して尚、切れることは無かった。


「お兄ちゃん……」


 頬を紅潮させたさくらと目が合い、思わず目を逸らしたくなったけれど、まるで引きつけ合う磁石ように離せない。


「良かった……、本当に良かった……」


「ちょ、ちょっとさくら!? あ、あの……、息、息が……!」


 そしてその"怪力"を全く抑えることもなく全力で抱きついてきた。肋がバキバキと折れる小気味良い音が体内に響いてきて、全身から冷やし汗が流れる。


 ……ああ私、吸血鬼になって本当に良かった。


「ご、ごめんお兄ちゃん! 大丈夫?」


「どちらかと言えば大丈夫なんだろうけど、これからは自重してもらえるとありがたいかも」


 私は明らかに縮んでしまった胸に手を当てて、『ヒール』を発動する。


「ほ、本当にごめん……。ウチ、嬉しすぎてつい」


「うん、気持ちは痛いほど伝わってきたよ。文字通りに」


 けどまさか、妹とそんな関係になるだなんて有栖にとっては考えられなかったな……。って、まだ気持ちが両想いだって分かっただけで、その先に進むかはまた別の話で……。


「それにしてもアリス姉さん、サリィさんのこと妙に固執するなとは思っていましたけど、やっぱり好きだったんですね」


 と、顔を真っ赤にしていたであろう私を冷めた目でジトっと見ているカミラちゃんに言われて、思わず硬直した。


 ……そうだよ、シルフよ の加護はサリィにも与えられた。今回の目的からすれば既に精霊の加護を得ている彼女に追加の加護は必要無い。


 だけど輪が繋がったということは、つまりそういうことで……。


「当たり前なの。私とアリスはもう何年も前から相思相愛だから」


 ……めちゃくちゃドヤ顔でそんな事言ってるところごめんだけど、サリィ、私には全然自覚ありませんでした。私、やっぱり芹奈ちゃんに振られたと思い込んだ後、脳が恋愛関係の感情を無意識的に排除していたんだろうね。


「はいそこまでー。良かったね有栖君、ハーレムメンバーが増えて。それよりほら、他にやることあるでしょ?」


 と、そんな感じで私の恋愛事情に話が逸れてしまっていたのを我らが勇者によって軌道修正される。


 尤も、そう言う芹奈ちゃん自身もなんだかめちゃくちゃ嬉しそうな顔をしているんだけども。


兎も角、これで無事全員に精霊の加護が与えられ、"世界樹の森"に入る準備は整った。


 それなら、まずは先に進むべきだ。恋愛なんてものは、全てが終わってからまたすればいいのだから。


 私は頭をブンブン振って雑念を追い払って、サリィの案内の元、再びもう一人のサリィが閉じ込められている隠れ家へ向かうことにしたのだった。

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